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2.再挑戦。

 

 それからというもの、わたしは仕事から帰宅すると、ひたすら絵筆を持ってキャンバスに向かう毎日を過ごした。

 高校以来なので、かなり絵筆のタッチも怪しく、彼女直筆の絵の雰囲気からは、やはり一回り落ちる仕上がりになりそうだった。


「まあ、でも久々にしては頑張ってるんじゃない?」

「うん。自分でもそう思う。でも、あくまでトレースだから、可能になってるんだよ。こんな絵、絶対に今のわたしじゃ構想すらできないし、思いつきもしないよ。それに思いついたとしても絶対こんな形にできない。ムリムリ」

「そんなことないと思うけど。今からでも時間かけて努力すれば絶対できるって。だって"わたし"なんだから」

「……うーうん。そう言ってもらえるのは嬉しいんだけどね。自分のことは自分がいちばん分かってるつもり。それに今の仕事もだいすきだから真剣にやらないとね……あっ。今日はコレくらいにして、寝なきゃ。3時間寝れる……」

「そうだね。また明日ね"わたし"。おやすみ――――」



 ・

 ・


 ・



 わたしは、描きあげた絵を前回と同じ画商に持ち込むことにした。


「また、貴女ですか。妄想話はもううんざりですよ。こう見えて私も結構忙しい――」


 前置きは無しで、キャンバスを画商の前に出す。

 今度こそ彼の目が興味深げに見開かれた。


「買いましょう。5万円でどうです?」

「は、はい、ありがとうございます」

「他にもありますか? 持ってきてください」

「ちょちょ、ちょっとまってください」

 後ろに振り返り、"わたし"と作戦会議をする。

 わたしの脳内にしか存在しないはずなのに、彼女との意思疎通は、声に出して会話するか、筆談でしか行えない。

 今回は時間がないのでヒソヒソと小声で密談する。


「他にも絵が描ける?」

「描けるし、描いたのもあるよ」

「そっか。じゃあまた見せて?」

「オッケ。いくつか用意するね」

「お願い――あっ、大丈夫です」


 画商の方に振り返ると、険しい目をして、わたしの方を見ている。

 ……あっ、怪しまれている……汗々。


「まだ、その設定は"生きてる"んですね。まあ、良いです。良い絵が買えるなら、貴方が狂人でも全然構わないですからね」

「あ、ありがとうございます」


 今のわたしは、狂人扱いされても確かに否定できない状況ではある。

 逆に、狂人でも取引を続けてもらえるというのだから、何も不満を言うことはない。


「今回の絵は50万円の値を着けて売りに出してみます」

「は、はい」


 文句はありませんね? と有無を言わせぬ眼光に、すなおに頷くわたし。

 10倍かー。

 その値段で売れたら確かに嬉しいし、わたしにはその値段で売るなんて無理だし、彼の実力なので何も文句はない。

 それにわたしの生活費は今の仕事で得てるし――ね。

 一応は結果的に最終いくらの値が付いたのだけは知りたいところだ。

 それが、"彼女"の得るべき賞賛なのだと思う。


「ありがとうございます! 出来るだけ早く次の絵も持ってきますから! 待っててください!」





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