1.ただいま、わたし。
約5000文字のほのぼの成長モノ。
全4話の短編で、さらっと読めます。
「ただいま」
そう言って帰ってきたのは、昔捨てた自分自身だった。
彼女は、わたしが彼女を捨てた高3の見た目のまま成長が止まっていた。
でも、中身の方は――――
「見て見て。わたしスゴくね?」
彼女が見せてくるキャンバスを見て、息を飲む。
「うっわ、エグ」
我ながら(?)とんでもなく成長していて驚いた。
彼女――おそらくわたしがかつて捨てた絵描きの夢と才能――は、あれからもどこかで、その才能を磨いていたのだ。
ひとりで。
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彼女の作品に驚き、そして誇りに思った。
だから、彼女の作品を有名な画商のところに持ち込んだ。
彼女の制止も聞かずに。
「は? 貴女、私をおちょくってるのですか?」
「ええっ!? あなたこそこの目の前の傑作が見えないんですか!?!?」
「ままま待って、"わたし"! 落ち着いて! この人が言ってることが正しいよ! この絵は、"わたし"の頭の中にしか存在しないんだよ!」
「……はぁあ〜!? な、何言って――」
「…………出口はアチラですよ」
結論から言うと、彼女の言う通りで、彼女の描いた絵とキャンバスはわたしの頭の中にしかない「妄想」の類いと同列ということだった。
そして、ちなみに彼女自身もわたしにしか見えていない……ということだった。
そういえば、確かに彼女、わたしの元に帰ってきてから、何も口にしてなかったっけ。
彼女が描いた傑作をどうにかして他の人にも見せたい。
彼女が他の人の賞賛を得て、これまでの時間と努力が報われてほしい。
どうにかして――
「そうだ!」
思いついたら、即行動。
わたしは画材屋に走り、真っ白の新しいキャンバスを買ってきた。
「"わたし"、何するつもり?」
「こう、する、つもり!」
買ってきたばかりの真っ白のキャンバスに彼女の傑作を重ねる。
彼女の絵の方はわたしの頭の中にしかないから、思惑通りピタリと重なり、固形の油絵の分だけ上に浮き出て見える。
「……もしかして、トレース(なぞり書き)するの?」
「当たり。これであなたの絵を現実の世界に持ってこれるわ! これで、皆に見てもらえる――いいでしょ!?」
「……いいといえばいいけど……」
「なによ、はっきり言って、"わたし"!」
「……キャンバスだけじゃ、無理じゃない?」
「あっ、絵の具と絵筆!」
わたしはこの日2度目のダッシュをする羽目になったのだった。




