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ボス

投稿が遅れたのはなぜなのでしょうか…。明日、明後日も投稿します。

 私が交代したのと同時にスフィアと主様は前へ進み、ボスの注意を引く。10メートルほどの距離でお互いが存在を認知し、戦いが始まる。


 まず最初に仕掛けたのはスフィアだ。剣を抜き1撃だけゴーレムに与える。しかしこれは予想通りゴーレムにとってはかすり傷にもならなかった。けれどそれはおそらくスフィアもわかっていることだ。あんな見た目のモンスターであんなジャブのような攻撃が効いても困る。あれはただの挨拶、そしてどのぐらいの硬さかを確かめるための1撃。


「スフィア、ちょっと下がって」


「わかった」


 今度は主様がいくつもりだ。スフィアもすぐに下がり攻撃の巻き添えを喰らわないようにする。


「<熱槍>(ホットランス)」


 主様の選択は炎系の魔法。その名の通り炎を纏った槍を召喚し、直撃させる。


 ゴーレムはそれを真正面から受け止めて、お互いに効きを確認する。


 私たちから見て、ゴーレムにはダメージが少しだけ入っているように感じた。槍が当たった足首の部分には黒焦げた跡があり、その部分だけちょっと溶けていた。おそらくは主様の放った槍がゴーレムを覆っている鉱石の融点よりも高かったためだと思う。でなければあのようにドロっとした感じで鉱石は解けない。砕けたならば弾け飛ぶだろうし。


「効いてるね」


「つまりこいつは火が弱点ってことか」


 一旦はその認識でいくようだ。主様も次の魔法を唱えている。


 しかしそんな主様から溢れ出る熱い魔力が返ってゴーレムを刺激してしまったようだ。遂に主様に狙いを定めて攻撃に移る。ダッシュで主様へと一直線に向かう姿はまるで闘牛のようで、防御のぼの字もなかった。ゴーレムの狙いを察知したスフィアは急いでゴーレムに攻撃する。主様を守る=攻撃して怯ませるという思考なのは置いといて、それよりももっと重要なことをスフィアは忘れているようだ。


 ゴーレムは存在自体が防御を成す。そんな言葉もあるぐらいゴーレムというモンスターは守りに長けているのだ。さらにこのゴーレムはこのダンジョンで温められてきたためか鉱石を纏い、それもまた鎧となっている。つまりゴーレムを止める術は、今のスフィアにはない。


「ッッッ」


 ゴーレムに立ち向かったが返って弾き飛ばされ、はるか後方、私の目の前まで空中を転がってきた。走っているゴーレムに真っ向から立ち向かうのはまずいだろ。怪我もそう軽いものではないし、骨の1本2本は折れてそうだ。


「痛ぇ…」


「はあ。流石にゴーレムに真っ向から立ち向かうのは良くないですよ」


 しかしスフィアの体当たりのおかげで少しだけ主様にゴーレムの攻撃が届く瞬間が遅れたのも事実。主様は無事なようだ。なので目標が果たされなかったわけではないが、払った代償が大きすぎた。


 主様はスフィアに回復魔法を唱えてあげ、傷を癒す。これでスフィアの傷は治り、動けるようになったはずだ。


「ヴィエラ様。私があのゴーレムと1対1で殴り合い、時間を稼ぎます。その間にヴィエラ様は炎魔法の準備を」


「けどさっきみたいにゴーレムが私めがけて一直線で突っ込んできたら?」


「させません。何がなんでもヴィエラ様が魔法を唱える時間を確保します。その代わり、一撃で倒せるような魔法を」


「わかった」


 作戦は決まったようだ。スフィアが近接戦闘で時間を稼ぎ、その間に主様が魔法で一撃破壊。その作戦は正しい。が、問題は2つ。

 1つ。ゴーレムが主様の身を狙った場合。この時はスフィアが全力で止めるようなのでいいらしい。

 2つ。主様の魔法で倒せなかった場合。その魔法の後に残るのはおそらく魔力切れの主様と満身創痍のスフィア。つまりこれは捨て身特攻。始めたら終わりの片道切符だ。

 リスクは高いが、その分最高のリターンが戻ってくると考えたらまだマシだが、私にはどうすることもできない。せいぜい成功を祈っておくとしよう。


 この作戦の開始はスフィアの特攻だ。先にスフィアが行くことで主様が魔法を溜めていることに気づかれるのを少しでも遅くするのだ。


 スフィアは剣を持っている手に力を込め、ゴーレムに立ち向かう。スフィアはゴーレムに剣を叩きつけ、ちょこまかと周りを動き回る。ゴーレムはそんなスフィアを追い、視線はスフィアに釘付けだ。逃げ回るだけのスフィアだが、現状目標は達せられている。見事ゴーレムの気を逸らし、主様が魔法を唱えることができた。


 しかし主様が唱えているのはかなり大きな魔法。ちょっとやそっとの時間では唱え切ることができない。魔法の詠唱とは即ち魔法の組み立て。それが長ければ長いほどより緻密かつ巨大なものになる。ダンジョンのゴーレム、もっと言えば150年ほど落ちていないダンジョンのボスを一撃で倒せる魔法なんて詠唱にどれだけの時間がかかるかすら予想できない。おそらくこれはまだ唱え始め。スフィアはまだまだ耐える必要がある。


 けれども案外スフィアの方はまだ行けそうだ。この空間を縦横無尽に駆け回り、動きが遅いゴーレムは捉えるのに苦労している。問題はスフィアの体力だがまだまだありそうだ。元よりハイエルフであるスフィアは身体能力はもちろん心肺機能も高性能。全力で走り回っているがまだ余裕がある。


 それにしても、スフィアの逃げ方って上手いな。逃げることにおいて重要なのは視線から外れることと予測不能な動き。動きが遅いゴーレム相手とは言えどこんな長時間無傷で逃げ続けられるのはごく僅かだ。暗殺者に向いている才能だが、スフィアが暗殺者となるには残念ながら頭が足りないかもしれない。



 このままスフィアが逃げ続け、主様の魔法詠唱も終わりに近づいた時、ゴーレムの目の色が変わった。本当に目があるわけではないが、あくまで雰囲気が。主様から放たれる強大な魔力の奔流に流石に気付いたようだ。それにいち早く対応したのがスフィア。宣言通りゴーレムの突進を止めようと動いた。

 

 ゴーレムの動きは先ほどと全く一緒。スフィアからすればリベンジだ。スフィアもこの時を待ってましたと言わんばかりの様子で、ゴーレムに一直線に向かっていく。これではさっきの二の舞だが、スフィアは先ほどと違い後ろから攻めるようだ。

 

 スフィアの狙いは1つ。ゴーレムを動けなくすること。主様まで行かせないということではなく、動きを止めるというのが目標だった。そのためスフィアはある場所を狙う。

 ゴーレムが動けているのはなぜか。その答えは2つある。1つはこのダンジョンから得ているエネルギー。このエネルギーを動力としてゴーレムは動く。そして2つ目。物理的にゴーレムが動けているのは足があるからだ。つまりこの足を斬って仕舞えば問題はない。しかしこんなことは誰でも思いつく。できるなら最初から苦労していないのだ。足の部分はしっかりと鉱石によって守られている。


 けれどスフィアはあくまで足に固執している。ここで思い返して欲しい。主様が最初に放った一撃を。どこに当たっていた?それはゴーレム自身がはっきりと示したいた。


「ここ!」


 スフィアはゴーレムの足首、焼けこげた跡があり明らかに脆い部分をめがけて剣を一振り。その一撃はスフィアの魂がこもっており、今まで見たスフィアのどの剣筋よりも綺麗だった。対象を薙ぎ払い、見事目標を破壊。ゴーレムの片足は砕け散り、動くことが不可能となった。


「スフィア!」


 主様もスフィアには呼びかけ退くように指示する。主様はスフィアに当たらないことを確認して、魔法を発動した。その魔法は炎の渦を呼び出し、ゴーレムを炎に包んだ。まるで災害。とても人工的に生み出された渦には見えなかった。


 スフィアと主様の作戦の結果、ゴーレムは溶けきり、倒すことができた。


「よくやったね、スフィア」


「ヴィエラ様こそ」


 えい!とハイタッチをして喜びを分かち合う2人。なんだかんだ年も近いし気が合っている。


「素晴らしい戦果でしたね。純粋に称賛を送りたいと思います」


「ありがとな」


「いやー、久しぶりに体を動かせて良かったよ。スフィアもナイス」


「ボスも倒せたことですし、上、上がりますか?」


「…そうだな」


「どうしたの?心残りでもある?」


「なあ、ダンジョンって攻略したらなんか報酬があるんじゃないのか?」


「あるところもありますけど、正直このダンジョンは元から鉱石が貴重ですし、主様は満足しているようですよ」


「うん。鉱石たくさん取れて満足」


「そっかー。…まあこの経験が報酬だと思えばいいか」


「それでいいでしょう。このダンジョンには感謝しても仕切れませんね。スフィアが本格的に戦闘をした初めての場になったのですから」


「かもな。第三軍に来てからフィニと特訓はしていても実践経験はなかったし。ただ初戦にしてはちょっと強かったが」


 確かに。意外とスフィアと主様はサクッと15分ほどで倒してしまったがかなり強いダンジョンボスの部類に入るのではなかろうか。道中も冒険者の中で上位の実力がなければ通ることは難しいだろうし、ここのゴーレムは鉱石を纏っていたおかげでより強化されていた。

 おそらくもう少し放置して月日を置けば、ゴーレムはさらに鉱石を吸収して強くなっていた。それはそれで面白そうな世界線だが残念ながら叶わないようだ。



 私とスフィアは戦いの感想を述べて振り返りをして、その間主様は鉱石集めに没頭していた。何やら魔法の実験とかで使いたいのだとか。最悪売れば資金になるとのこと。がめつい。というより無駄がない。


 感想戦を終えて3人で地上に戻った後、あたりはもう暗かったが、街の明かりでこれはこれで幻想的な雰囲気だった。


「ここからの見晴らし、綺麗だな」


「だね。ずっと見てられそう」


「少しゆっくりして眺めを楽しみますか」


 そう言って近くの眺めのいい場所に移り、地面にそのまま座り込む。そこは崖の端っこで、座ると足が空中に投げ出される格好だ。地面には雪が薄く積もっており、身体の熱が奪われていくのを感じる。けれどもそれを気にさせないような景色に私たちは呑み込まれていた。

 街明かりはオレンジ色に輝き、温泉の湯煙があちらこちらで立っている。湯煙を追っていくと自然と視界には綺麗な星空があり、私たちを見守っている。この景色を幻想的と言わずしてなんというのだろうか。けれど、初めて見るはずの景色もどこかで見たことがある気がする。故郷を思い出される、とでもいうのだろうか。私には一生わからない感覚だ。

 どこで生まれ、誰が産んだのか、本当の名前があったのかなかったのか、自分の身の上を何も知らない自分は故郷なんてものを語る資格なんてない。強いていうなら、私の故郷は内ポケットにあるナイフが知っているだろう。私があの男に拾われて、殺人の術を身につけた時からずっと側にあるもの。それがこのナイフだ。何度も救われただろう。何度の窮地を共に乗り越えただろう。数えることも、全てを思い出すこともできない。それだけの死線を共にした。しかし、その死線の数ほどこのナイフを恨んだ。どうして殺すことしかできないのか。他にも良い生き方はあったんじゃないかって。捨てようかと思ってた。けれども、今はこのナイフに感謝している。様々な人に巡り合わせてくれ、色々な経験をさせてくれて、遂には主様という存在にまで出会えた。この感謝を、私は途切れさせたくない。私は最後まで感謝して突っ走るんだ。恨まず、いっぱいの笑顔で、笑える日が来ると良い。



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