ダンジョン攻略3
『虎の銀翼』と別れた後、私たちは着々とダンジョンを攻略していき、残り2層と言ったところまで来ることができた。しかし前の階層から敵がさらに強くなり、湧くモンスターの量も随分と上がったように感じる。
一体一体が上位種であり、固まると危険度はさらに増す。イメージとしては先ほど『虎の銀翼』が苦戦していたモンスターが群れで湧いている感じだ。スフィアもだんだんと足取りが鈍くなり、精神的な疲労が見て伺えた。ずっとスフィア1人に任せているが、この階層から敵が強くなった事で手に負えなくなってきたのだろう。さらには1人でやっているからこそ、抜かれたら後ろにいる主様と私に迷惑がかかるとプレッシャーを感じているようにも見える。まあ今回は厳しく、手出しはしないと宣言している以上これが訓練ということだ。
「はぁ…はぁ…」
「少しペースを落としますか?」
息が上がってきたため声をかける。
「いや…大丈夫だ…」
「ですが次はボス戦ですよ?しかもこのダンジョンの主です。今ここで体力を使っては太刀打ちできなくなります」
「…確かにな。だけど落とす速度はは本当に少しだけだ。。ここまで作ったリズムをあまり崩したくはないんだ。ヴィエラ様、それでもいいか?」
「もちろん。無理はしないでね」
「ありがとう」
「それにしても、ここまで1人で来れるならばどこかの軍隊では将校クラスに匹敵するかもしれませんね。私の目測からして、中規模の隊なら任せられると言ったところでしょうか」
「それは…成長したということでいいんだよな?」
「ええ。初めは戦力にカウントできるか怪しい程でしたから」
私の言葉にスフィアは苦笑いをするが、まあそれもそっかといった感じで流した。
初期のスフィアと変わった点はいくつかあると思うが、戦闘という面に限って言えば2つあるだろう。
1つは頭を使うようになったこと。戦闘を通じて敵の弱点を見出したり、動きのパターンを頭の中で整理することができている。これができるようになってようやく対人戦では癖読みという領域にたどり着くことができる。初撃からパターンを読み取り、整理していく。その上で大切なのはその行動パターンを引き出し、自分の知っている形に持っていくこと。これはまだスフィアには教えていないので少ししかできないが、スフィアの才能があれば簡単に習得できるだろう。
そしてもう1つは体や魔力の使い方が身についたこと。戦闘において体は自らの意志で動く最大の武器であり、それを補助することができる魔力もまた重要な要素だ。魔力をどこの部位に、どれほど流すかによって体の軽さが違うし、それぞれに適した場面がある。魔力は言わば自らにバフをかける魔法のようなものなので、適す適さないが存在するのだ。イメージして貰えばわかるが、早く走りたい!と思ったときに足以外の部位にバフをかけても大して走る速さは変わらない。けれど足にバフをかけたのならば、もっと早く走ることができるだろう。
現在のスフィアはこの2点を押さえてさらに強く成長した。けれどまだ体力配分や突っ込みがちという気質自体は直せていないので、まだまだ改善の余地はありそうだ。
スフィアの成長の話はこれぐらいにして、進むスピードを少し遅くした代わりに確実に敵を斬れている。やはりさっきまでは焦りと不安に駆られて体に無茶を強いていたのだろう。早さよりも確実、今はそういう場面だ。
前の階層までは構造が変わらず、次の階層へ行くには階段を降りればよかった。しかし今居るボス階層1つ手前は少し変わっており、階層ごとの複雑さで時間を稼ぐというよりは敵の強さによりフォーカスした配置だった。
「スフィア、体力は残っていますか?」
「ぼちぼちだ。この程度の魔獣達なら相手できるが、ボス戦でどうなるかだな」
そう言って出現していくモンスターを次々と討伐し、遂に最終層へと行くことのできる階段を発見した。
「なあフィニ。これを降りればボス戦なんだよな?」
「ええ。いきなりかはわかりませんけどね」
「一応私も戦うから。スフィアに何かあると心配だし、何より見てるだけだと暇になっちゃった」
なんだかんだ主様ってスフィアと同じかそれ以上に好戦的な方だよな。
「はいよ。フィニはこのまま見るだけにするのか?」
「おそらくは。余程のことがない限りは手出ししませんね」
「それじゃ、行くか」
ゆっくりと一段一段階段を踏みしめながら降りていく。
30段ほど下ると、広めの場所に出た。天井は高く、先ほど階段で下った距離以上の高さ。周りの光源となっている鉱石は変わらずだが、今までよりもより明るくなっていた。
その原因は単純。目の前にいるモンスターが光を放っているためだ。見た感じはゴーレムのような、8面体の胴体につながっている四肢は、周りにある鉱石を纏い明るく輝いている。しかしその鉱石はもちろんただの飾りなんかではない。硬く結晶化した鉱石は武器屋などに売っている剣では貫くことができずダメージを与えることができないうえに、最悪の場合剣の方が折れて使えなくなってしまう。
つまり、このボス相手にはスフィアのような剣士はあまり向いていないかもしれないということだ。しかしそれを跳ね返してこそ訓練。攻略の鍵となるのはスフィアの判断能力と主様だろう。
この3人で1番魔法に長けている主様がどこまでボスを相手に通用するかだ。魔法でダメージが与えられないのならば私が出るほかないのだが、そうならないことを祈ろう。
「フィニ」
「こいつがボスでしょうね。私は後ろに下がっているので、応援していますよ」
笑顔で見送り、私は後ろで観戦モードだ。




