存在
本文に書き忘れましたが※※※の後はヴィエラ目線です。
「あー……吐きそうだ…」
「ちょっと洗面台でゆっくりしていて下さい。万が一戻してもいいように」
「わかった……」
私は部屋に着くなりスフィアに指示を出した。
「いやー、それにしてもフィニも面倒見がいいよね。私とスフィア、どちらもフィニからすれば子供だろうに」
「まあ世間一般で言えば子供と言っても過言ではない年齢差ですけど。私110歳ですし、主様となんか100歳差ぐらいありますよ?」
「そんなないわ。90歳差でしょ。100歳差だったら私まだ幼女だし」
「変わりませんよ」
「変わりますー」
「全く、子供ですね。しかし子供っぽいと言ったらスフィアも負けていませんけどね」
「自分の限界を見誤るのはよくあること、特に小さいうちは」
「言っときますけど主様がこの中で1番年下なんですからね?」
私が110歳、スフィアは30歳、主様は18歳と言ったところ。圧倒的に1番下じゃないか。
「気にしない気にしない。私たち魔族からすれば寿命なんてあってないようなものだから」
「そんなことないですよ。私も日々衰えを感じますから」
「主にどういう時に?」
「睡眠を必要としてる時とかですね。暗殺者の時は全然気にしてなかったんですけど、メイドになってから睡眠を取らないとなかなか体が動かなくて。今もとても眠いです」
「そういえばずっと起きてるんだったね。ごめん、もう寝ても大丈夫だよ」
「しかしスフィアが…」
「私が何とかしとくから。寝て寝て」
「ではお言葉に甘えて」
私は3人で使う予定のベッドの右端を使って寝ることにした。真ん中は主様、左端はスフィアが使うだろうという計算。まあこのベッドは大きいので多少身じろぎしてもぶつからないとは思うが、一応距離を空けて寝ておこう。
※※※
「………。フィニ、もう寝たかな?」
「あ、どした?」
ようやく吐き気が治ったスフィアが洗面所から出てきて聞いてくる。
「いや、珍しいじゃん。フィニがこんなの無防備で寝てくれるの」
「本当に無防備と言えるのかは怪しいけどな」
「あはは、確かに」
でも見た感じはぐっすりと寝ている。昔のフィニだったら絶対にしてくれなかったことだ。主人である私でさえも軽い信頼で済ませ、寝顔なんて見せてくれなかった。心なしか前よりも寝顔が優しい。
もちろん今日はフィニが疲れているというのもあるとは思うが、それにしてもだ。ようやく私を信頼してくれたという気がする。もちろんこれは私が勝手に思っていることなのであくまでも妄想に過ぎないのだが。
「フィニもエルフなんだよね」
「?どういう意味だ?」
「なんかフィニってさ、いつもは気高い存在というか、エルフというよりはフィニっていう独自の種族として存在してる感ない?」
「あー、言いたいことがわかるわ。いつも隙がなくて頼れる存在だしな。エルフとして見たことは初対面の時以来かも知れない」
実際、前にフィニのエルフ耳を触ろうと思ったきっかけはフィニを唐突にエルフとして見たからだ。そういえば、フィニってエルフだったなって。こんな話、本人には恥ずかしくて言えないけれど。
「だからねえ、こういうフィニをエルフとして見られる時間が愛おしくて」
「ヴィエラ様はフィニのことが好きなのか?」
「うん。もちろん部下として信頼してるし、いい副官だなって思ってるよ」
「違う違う。部下としてなんかじゃなくてフィニ個人に対してどうかって話よ」
ふと後ろから強い衝撃を受けたような感覚になる。
「フィニを副官以外として…」
正直自分でもあやふやなところだ。私はフィニを副官として慕っているのか、それともフィニという存在を慕っているのか。自分でもはっきりしないところと急に向き合うのもまた難しい。なぜなら私は、副官の立場ではないフィニと関わったことがないから。
私が初めてフィニに会ったのは森の中でたまたま顔を合わせた時だったが、その時は会話すらなくその場を後にした。そしてその次に会ったのは、私がフィニを副官として迎えたとき。つまりこの時点でフィニは私の副官。それ以降、フィニは一瞬たりとも副官として、メイドとしての顔を崩していない。
……私はフィニのことを本当の意味で理解しているのだろうか。私が関わってきた人を思い返す。メモリアやドラクールさんは、フィニのことを私よりも深く理解しているように見えた。私よりも、ずっと。そしてそれはきっと、フィニの素の姿を知っているからだろう。フィニの笑顔、本性、性格、寝顔。そして過去。
彼らは元よりフィニと知り合ってからの年月が違うのだ。私なんかより多くの時間をかけて互いに理解を深めている。そしてここでようやくわかった。別に結論を急ぐ必要はないことを。私がフィニをどう思ってるかなんて今すぐに確かめなくてもいいのだ。じっくり時間をかけて、ゆっくり解き明かせばいい。それこそメモリアやドラクールさんがやったように。
「さあ?別に今すぐに結論を出さなくていいかなって。まだまだ時間はあるんだし、フィニという存在も私たちの中で変わっていくかもよ」
「そうかもな。…さ、寝ようぜ。こんなに夜遅くまで起きてちゃ後からフィニに怒られちまうぞ」
「それもそうかもね。スフィア。ここの照明消してくれない?」
「もちろん」
スフィアがベッドルームの照明を消し、部屋が暗闇に包まれた。
「おやすみ、フィニ」
私は小さく呟き、目を閉じた。




