食堂
「ようやく来たか。すまないが俺以外のやつは全員食べてしまっている。食い意地を張る奴らでな」
「いえ、私たちが遅れてしまっただけですから。フィニがしっかり案内してくれましたし」
「お前もよくこの場所を覚えていたな」
「そんな。あなたならトリックがわかっているでしょうに」
「まあな」
「え、どういうこと?フィニはこの場所覚えてたんじゃないの?」
「まさか。なんとなく場所は覚えていても、完璧には覚えていませんでしたよ。なんて言ったって15年も前のことなのですから」
「じゃあどうやって」
「理論上は簡単な話だ。魔力を感知してこの場所を突き止めたんだろ?」
「ええ。やろうと思えば皆さんできることですよ。厳密な魔力操作が必要なだけであって」
「その魔力操作にどんぐらいの月日が必要なんだか」
「気になるな」
「それはともかく、はやく席につきましょう。うちのスフィアはとっくのとうに事が切れていますから」
空腹で気絶してしまって力がない。とりあえず席に座らせて食べ物を目の前に出すと、はっとしたように意識が復活した。
「は、私は何を」
「お腹の減り過ぎで寝てたんですよ、この食いしん坊」
「す、すまん」
「まあ食べろ食べろ。今日はたくさん料理を作らせたからな。足りなくなるっていうことはねえだろ」
「ありがとうございますね」
「はは。気にすんな。それにしても、第三軍は仲が良さそうで何よりだ。実はフィニが王女様と同じ軍に入ったと聞いたときはどうなるかと心配したもんだ」
「それは一体どう言う意味で」
「ん?王女様を間違って殺さないかってことだ」
「そんなことしたら一発で逮捕からの死刑でしょうよ。流石の私でも王族を殺すなんてことはしません」
「そうかなー。フィニならやりかねないなー」
「ちょ、ドラクール様に変な印象を与えないで下さいよ」
「だって前に私の腕を持って制圧してきたことあったじゃん」
「あれは」
「なんだ?お前王女様を襲ったってことか?」
「やめてください。これは主様が悪いんですからね。私の耳を勝手に触ってきて。エルフの耳って意外と感覚あるんですからね」
「そうなのか。てっきり飾りみたいな感じで音を受け取る以外に機能なんてないと思っていたが」
「そんなことありません。耳もちゃんと冷えますし、痛覚があります。普通の肌と同じですよ。むしろ他の種族にはない耳ですからより一層感覚が強い気がします。あなたも竜人なのですから鱗で同じようなことを感じませんか?」
「ああ、まあ普通の肌よりは衝撃が響きやすいんだ。確かに鱗は硬さで見ればどの種族のどんな装備でも勝らねえ。でも硬い分衝撃は俺らの体に直接響く。ほら、柔らかいものと硬いものだと柔らかいもののほうが落とした時に衝撃を吸収するだろ?それと同じ原理だ」
「なるほど。竜人って衝撃に弱いんだ」
「ああ。でも逆に言えばこれだけしか弱点がない。つまりこの問題さえ克服しちまえば俺らは一流の戦士になれる。だから多くの竜人は小さい頃から衝撃に耐える訓練をしている」
「たとえば?」
「そうだな……俺がやっていたもので言うと拳に耐えるとか槍の突きに耐えるとかか。親によくやってもらっていた」
ドラクール様の親というと先代の騎士団長にあたる人物だ。それなら自分の跡取りにハードな訓練を積ませるのは当然か。
「でも実はな、この訓練って衝撃になれるだけじゃないんだ。もう一つの目的として鱗を固く作り変えるって目的もあんだ」
「鱗って硬くなるもんなの?」
「もちろん。歳を重ねるごとに硬くなるというのもあるが、意図的に傷つけて再生させるとその鱗は自然と硬くなるんだ。これは体の不思議ってやつでな、自らの弱点を補強しようと勝手に適応してくれんだ」
「そういうの、暗殺術でもありますね。主に毒使いがとっている方法ですが、自ら使用する毒を触ったり飲んだりするとその毒に対して耐性がつくんですよ」
「原理的には同じっぽいな」
ここでふと、隣にいるスフィアの方を見た。全く話に入ってこないため何をしているんだろうかと思ったら、黙々と料理を貪っていた。
頬をパンパンに膨らませて頬張る姿を見れば、これは料理を食べるというより貪るという表現のほうが正しいだろうと思わせるようだった。
「スフィア。そんなに勢いよく食べると喉を詰まらせますよ。落ち着いて食べてくださいよ」
「んーんんー、んんーんーんん」
「何を言っているのかわかりませんし……。はあ…、一度ペースを落としてくださいね。あなたは成人しているので私が介護する必要もありませんし」
「え、それ遠回しに私は介護必要ってことになってない?」
「バレましたか。しかし実際補助ありの方がやりやすいことも多くないですか」
「それはそう。やっぱりフィニが必要なの」
「そう言っていただけると嬉しいです」
「なんなんだこのイチャイチャは」
「イチャイチャって!失礼ですね!」
「いやイチャイチャしてるだろ。なあ?」
「私も見ててそう思いました」
「あ、私も普段から思ってるぞ」
「…スフィア。あなたはこちら側でしょう?減給しますよ?」
「ちょそれはないだろ。というかそんな軽々しく減給なんて言葉使わないでくれ。脅迫だからな」
「主様。殺っていいでしょうか?」
懐からナイフを取り出す。
「いいよ。半殺しまでなら」
「え、ヴィエラ様?」
「主様の意識を向けるのもいいですけどあなたはまず自分の身を守らなければなりませんよ」
そう言って私はスフィアの顔スレスレのところにナイフを突く。
「あっっぶな!あと1ミリでもズレていたらマジで怪我してたぞ」
「温情ということです。今回はこの程度で済ませてあげましょう」
立ち上がった席に戻り、私も夕飯を頂くことにした。なんだかんだ私も空腹でぶっ倒れそうだし、目の前の豪華な食事を前にして我慢するということはできなかった。
まず最初に手をつけたのは、メインディッシュである肉。はじめにメインディッシュに手をつけるのは無作法かなんとか言われているが、私はそういう作法のようなものは捨てているので、エルフとして最低限体裁が整えられればいいかなと。肉はとてもジューシーで脂が乗っており、まさしく口に入れたら溶けてしまうようだった。しかし見た目からも何の肉かは判断できず、あとでドラクールに聞いてみようと思う。
そして次はサラダなどの副菜。こんな極寒の地で野菜が取れるのかと思うかもしれないが、実はこの野菜は室内で育てられている代物だ。外では全く育たないような品種でも、中であればある程度は管理しなくても勝手に育つことができる。
中というのは洞窟のことであり、幸いアイスエッジには多くの洞窟が存在している。その中のいくつかは元より、地面が土となっていて作物を育てるのには最適なんだとか。
この方法はアイスエッジの洞窟だからこそできることで、王都で真似しようとしてもなかなか上手くいかない。原因はいくつかあるが、そもそも洞窟が少ないというのと、メリットが薄いということが挙げられる。やはり農作物はそれぞれの地域に合った方法が1番だ。
それはさておき、肝心なのは味。サラダ特有のシャキシャキとした食感は高得点だ。味は…まあドレッシングがなくても食べれるという程度。ドレッシングがあるので一緒に食べた。総評、90点。まあドレッシングが美味しかったのでこの点数で。ドレッシング抜きでも十分美味しい代物だが。
その後はスープや肉やらを頬張って粗方テーブルの上にあった料理は全てコンプリートした。
一方、私の空腹が満たされ余韻に浸っていたところ、隣にいたスフィアは再度ぶっ倒れていた。
「ああ…食い意地張りすぎた……」
「もう、一度休んで水でも飲んで下さい。休み休み食べないとお腹を下しますって」
「そういうのは先に言って欲しかった…」
「いくらあなたでもそのぐらいの分別はつくと思いまして」
「自分の愚かさに嘆いているわ」
「主様、あと少ししたら部屋に戻りましょうか。明日もドラクール様と会談があるでしょうし、何より私が疲れてしまっているので」
「お、フィニも疲れるなんてことがあるんだ」
「な、珍しいこった」
「私だって生き物ですから。何より、あの雪原を寝ずに一日中ソリを走らせていたおかげで私の疲労は当に限界に達していますよ」
「ごめんね。フィニにもっと気を使うべきだった」
「いえ、主様が謝ることではないのですが、私も疲れているということをご理解いただけたらと思います。なのでドラクール様。私たちはこのあたりでお暇させていただきますね」
「おう。また明日な。明日はまあ…疲れているだろうし部屋に朝食を運ばせるからお前はゆっくり寝てろ」
「ありがとうございますね」
「ではまた明日」
主様は食堂を出ていき、私も動けなくなったスフィアを担いで後を追った。




