部屋
ティミーさんに着いていくこと10分ほど。出たのはリンドブルムの外で、案内された宿はまさかのリンドブルムの目の前の宿だった。明らかに高級そうなその宿を見ると、メモリアが用意してくれた森厳騎士団の部屋が不思議としょぼく見えてしまう。
「こちらの宿で3部屋を予約しておりますが、貸切ではないので一般のお客様もいることをあらかじめご了承ください。部屋の詳細などはフロントにいるものに聞いていただければと思います」
「何から何までありがとうございます」
「いえ、騎士団長様も久しぶりの来客に舞い上がっていましたから」
あいつは頑固な割に意外と感情の起伏は激しいからな。
昔からそうだった。実は私とドラクール様は軍に入った時期が同じで、なんだかんだ昔から交流がある。竜鱗騎士団長の座は家系で決まるので、ドラクール様は騎士団に入れた時点で将来は確定してたらしいが、それなりに努力はしていたそう。私はその間暗殺者師団でメキメキと力をつけていって、ドラクール様が騎士団長の座に着いた時期に私も暗殺者師団長となった。
このように私とドラクール様はかなり似ている経歴を持っているので、交友関係はそりゃ深まるよねと言ったところ。やっぱり同時期に自分と同じ位に任命されたものは気になってしまう。これと同じ理由で獣王騎士団のルーツ様とも仲が良いのだが、悪魔族で構成された第一軍と、吸血鬼族で構成された第二軍の長とは全くと言っていいほど接点がない。騎士団や軍の長を招いて茶会のようなものが開かれたときも、第一軍と第二軍は欠席し実質騎士団長のみでの茶会となっていた。
悪魔族は他の種族と関わることを避けているし、吸血鬼族は血筋を重要視しているため差別や偏見が根強く残り、あまり表沙汰に出てこない。正直この国で1番怖い種族は吸血鬼族だと思うし、私もあまり関わりたくないから表に出てこなくても構わないなと言ったところ。
こんなことを思っている間に、私たちは泊まる部屋へと案内されていた。ちょっとぼーっとしすぎたかもしれない。
「フィニー、どういう部屋割りで泊まる?」
「せっかく3部屋とっていただいたのですし、シンプルに1人1部屋でよろしいのでは?」
「えー、でも寂しいじゃん。どうせなら3人で泊まろうよ」
「狭いですよ」
「例えば?」
「ベッドとか。寝る時にお互い邪魔になりますよ」
「でも私たちそんなに幅取らないよ?自分で言うのも何だけど私、結構スタイルいい方だし。見た感じサイズもキングベッドだしさ」
「でもその……荷物置き場とか」
「トランク3つ分を置くぐらいのスペースはあるよ。仮にもここは高級ホテルだからね。スペースで困ることは無いって」
「スフィア?どう思いますか?あなたは3人で一緒の部屋に泊まりたいですか?」
言い合いでは分が悪くなったのでスフィアに意見を求める。
「まあいいんじゃないか?部屋を跨いで連絡をする手間が省けるんだし、別にそれぞれ仲が悪いってことでも無いし問題ないだろ」
「そ、そうですか」
「ほら、スフィアも言ってるんだし3人で泊まろうよ」
「……わかりました、わかりましたよ。けれど絶対に睡眠は邪魔しないでくださいね?主様は前科持ちなのですから」
「大丈夫だよ……あれは」
「ん、何があったんだ?」
「それはですね」
「ちょ待って。スフィアは知らなくていいよ。知っちゃったら上司としての尊厳が無くなるから」
「それは今更でしょう。何、バイフォレストで森厳騎士団の方にお世話になったのですが、その際に夜私の耳を触ろうとしてきましてね。私は寝ている間、無意識に主様を制圧していたのですが、言い訳が甚だしかったという記憶がありますね」
「なんか色々ツッコミどころがあったぞ。まずヴィエラ様はフィニのエルフ耳を触ろうとしたと?」
「ええ。未だにエルフ耳を触りたいという欲はあるはずなので気をつけた方がいいですね。スフィアもエルフですから」
「わかった。で、フィニはそんなヴィエラ様を無意識も間に制圧したってどういうことだ?」
「そのままですよ。本能的に主様の行動を制限していたんです。悪気はなかったのでセーフですね」
「セーフもアウトもないだろ。なんで無意識下で動けるのかも意味がわからないし、それでなんの抵抗もなくヴィエラ様も捕まるなって感じなんだが」
「しょうがないじゃん、フィニがなんの手加減もなく制圧してきたんだから抵抗なんてできないよ。冷静に考えてフィニの筋力とか制圧技術に打ち勝てるんなら私だって魔法使いじゃなくて格闘派として生きてるわ」
「まあそうか……」
「いずれにせよ、今回は問題が起きないといいですね。そろそろ夕飯の時刻なので移動しなければならないのですがよろしいですか?」
「え、もうそんな時間経ったの?」
「なんだかんだこの部屋の入ってからずっと雑談していましたからね。時間に無頓着になってしまうのはしょうがないです」
「じゃあ行くか。私はお昼で全然食べれていないから胃が空っぽなんだ」
「同じくです。昼に満足いくほど食べたのは主様ぐらいでしょう」
「なんだよー、私の胃袋がちっちゃいって言いたいのか?」
「ええ。少なくとも私たちよりは小さいでしょう」
「うーん、何も言い返せない……」
「ともかく早く行こうぜ。待たせるのも悪いしな」
私たちは大して部屋の整理もせずに部屋を出て、招待されていた竜鱗騎士団の食堂に移動した。夜のアイスエッジはかなり寒いが、外には魔力灯があり、街中でも十分に歩ける明るさだ。
「うー……寒いよ」
「そうですね…。次夜に外出する時にはもうちょっと厚着しましょうか」
賛成と言ったような顔で頷いてくる。
私はここから食堂に案内しなければならないのだが…。場所をくっきりと覚えているわけではないので特定していくことから始めよう。周囲に魔力探査の魔力波長を出して、魔力を可視化していく。簡単に言えば魔力は生き物の中に流れる力。つまりこの魔力探査をすれば人型に魔力反応が見つかっていく。これでどこに集団があり、食堂があるのか見つけられるのだ。
私はその魔力の集まりに向かって歩いていき、主様たちを案内していった。歩いていくと、一層強い光を放ち廊下に灯りが漏れている場所があった。ここが食堂で間違いないだろう。
「ここですね。主様から入って頂いて、ドラクール様の近くに行けば問題ないでしょう」
「了解」
そうして私たちは食堂の中へと入っていくのだった。
明日、明後日と連続で投稿できそうです。
 




