リンドブルム
リンドブルム。それはこのアイスエッジの中心であり最重要部分を担う超巨大建築。遠くから見てもその美しさは際立つが、近づいて間近に見れば見るほど美しさが滲み出てくる。竜人族の鱗が水色に近い色をしているため、それに合わせてリンドブルムも水色のような色をしている。思えばこの都市全体で水色が基調となっているが、それは材料が竜人の鱗だったりするからだろう。彼らは自分達の鱗に絶対的な自信があるため、建築の材料にも自らの鱗を加工した物を使っている。それ以外にもこの極寒の地ではまともに木などの加工可能物が採取できないこともあるのだが。
ともかく、そんなリンドブルムは構造的には宮殿のような形をしている。入り口を通ったら直接大広間につながっており、大広間の奥には祭壇が設置されている。天井は非常に高く、軽く50メートルはあると言ったところだ。ここには多くの観光客が押し寄せ、現に大広間には200名ほどの観光客がいる。
そして、このリンドブルムのもう1つの役割。それは竜鱗騎士団の本部としての顔。リンドブルムは大きく分けて2つのフロアがあり、1つはこの大広間。そしてもう1つは竜鱗騎士団のフロアだ。私は便宜上フロアをこのように2つに分けたが、実際は大広間なんておまけ程度にしか存在しない。実はこのリンドブルムは皆が思っているよりもずっと広く、深いのだ。観光客が観れるのは地上部分のみだが、リンドブルムはこの渓谷の地下を這うようにして張り巡らされている。その広さは形容できないほどだし、本当に途方もないぐらいだ。
ではこの竜鱗騎士団本部にはどのように行くのか。それは至ってシンプルだ。この大広間の隅にある扉がフロアとフロアを繋いでいる部分だ。そのため扉を通ればいい。けどもちろん見張りは駐在してるし、許可がないと部外者は入れないのだが。
そして私がこの単独での自由時間でなぜリンドブルムに来たかというと、竜鱗騎士団本部、正確にはドラクール様に用があるからだ。要件はまあ追々わかるだろうから、まずは入ってからドラクール様に会うことができるかどうかだ。
私は隅の扉まで行き、昔にもらった許可証を見せる。この許可証は衛兵に見せれば無条件に中に入れてくれる上に、使用期限がないのでなんだかVIP会員にでもなった気分。私はスーっと扉へ入り、目の前にある階段を下っていった。先ほども言ったようにこのリンドブルムの主要部分は地下に張り巡らされている部屋たちなので、このように階段を下っていかなければならない。
階段を100段ほど下ると、またも扉が出てくる。しかし今度は衛兵は存在せずに開放されているが。私はまた扉を開けて中へ入る。すると割と大きめの空間が姿を現す。この場所は竜鱗騎士団の談話室兼受付所だ。本来は訪問があったときに受付を行うための場所なのだが、なぜか竜人はこの空間が好きだったらしい。何人もが集まって談笑する談話室へと実質的に姿を変えているのだ。だから少し、目線が痛い。純粋に来客が珍しいというのと、彼らの憩いの場を邪魔されたという不快感、そして私のメイド服というところに目がいっている。
ただメイド服はしょうがないじゃないか。一瞬で脱いで服を変えるということはできても、着替えるという行為はそんな一瞬じゃできないのだから。
私は受付のカウンターに行き、要件を伝えてさっさとこの場所を出ることにした。
「第三軍のフィニスという者なのですが、ドラクール様に面会はできないでしょうか?」
「第三軍のフィニス様ですね。お待ちしておりました。ドラクール様より直々に通すよう承っております。今騎士団長様には連絡を入れましたので、別室でお待ちください」
そう言って私が通されたのはかなり豪華な方の応接間。多分一般の訪問には当てないのではないだろうか。入り口となる扉は2つあり、今私が入ってきた扉と、もう1つがちょうど反対側に設置されている。まあ反対側の扉の先がドラクール様たちがいる部屋に繋がっているのだろうけど。
「それでは騎士団長様がおいでになさるまでおくつろぎください。長旅でお疲れでしょうから」
「ご厚意ありがとうございます」
「はい。ではごゆっくり」
紅茶を机に置いて受付嬢は退出した。私はいただいた紅茶を一口飲み、味を確認する。
「おいしい……」
私もメイドとしてある程度は紅茶を上手に淹れれると思っていたのだが……上には上がいたみたいだ。私の淹れる紅茶よりも断然美味しかった。
やはり竜人は格式高いので教育が行き通っている。全員どことなく気品があるし、礼儀というものを知っている。……まあ格式高いを言い換えればプライドが高いとなるのだが…その点は目を瞑っておこう。
紅茶をもう一口飲んで落ち着いていると、反対側の扉の先からドシドシと重めの物体が動く音がした。そしてカチャリとドアノブが捻られる音がするとともに、扉の前には鱗をまとった巨体が現れた。




