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ひとりぼっちの雪原


 1人になった夜の雪原はやけに静かで、よく晴れた天気だった。視界はクリアで、目の前にある小さな氷の粒も見逃さないほど空気が澄んでいた。空気が汚れていないからか星空も見えて、その景色は幻想的だ。

 でも周りを見渡すとそこには一面の雪と氷。本当に異世界みたいだ。名前をつけるなら雪と氷の世界、おとぎ話で出てきそうな風景が目の前に広がっている。


 しかしその幻想的な風景とは裏腹に、私は寒さで意識が朦朧としてくる。自分自身に温度を一定に保つ障壁を張ってなんとか凌いでいてもなお貫通してくる寒さ。この温度を除けば完璧な環境なのだけれど。


 この地に住む竜人の先祖はその名の通り竜、すなわちドラゴンが本流となっている。元々はドラゴンがこの地に住み、王国に近いものを築いていたが、ある時突然最初の竜人が生まれた。どうやって生まれたかは今もわかっていないが、まあ魔法の一種としておこう。そのため彼らは硬い鱗で覆われており、翼がある。


 元がドラゴンだからか彼らの本能として他の種族を見下すというか捕食対象というか、そういう目で見てくるけど大物と認めた相手には対等に話してくれる。それは立場関係なくその人の技量で、だ。そのため主様にさほど心配はない。主様は私が見たことないほど優秀な方だし、竜人たちも下に見ることはないだろう。けどスフィアがなぁ…。彼女はハイエルフではあるけど技量自体はあまり高くない。それはもちろんまだまだ若いことも関係しているだろうけど、誰かに師事していなかったことが大きい気がする。現に私が少し教えただけでメキメキと力がついてきているし。ポテンシャルは充分だが竜人が評価するかは分からないな。


  

 ソリは未だ雪原を走っているが、そろそろ日が昇ってきたりアイスエッジが見えてくる頃だとは思う。だって主様たちが寝てから6時間は経っているのだし、マラミュートたちも全力で走ってくれている。


 スヤスヤとずっと深い眠りを維持したまま後ろの2人は寝ているので気づいていないが、本当に早いスピードで走り続けている。このかわいい犬たちの足にはどんな力が秘められているのだろうか。

 私がじっとマラミュートたちを見ていると、1匹が振り返り、もう1匹も振り返った。その目では「何か間違ってる?」と問いかけているようだった。私はそんな彼らの尻尾を撫でてあげて、落ち着かせる。「大丈夫だよー」「間違ってないよー」と。

 すると1匹がアオーンと大きな声で吠え、もう1匹も唱和するように吠えた。前を見ると、日の出と共に映るアイスエッジの都市の姿があった。


「着いた…」


 私の口からそっと言葉が漏れる。もちろんこのアイスエッジも都市の造形は美しいの一言で表せないものだった。目の前にある城壁は水色がかっており氷と相性のいい色合いで、城壁にもアンティーク調の彫刻が施されている。街の中心部からは遠くからでも視認できるほどの大きな煙が立っており、そこには大型の暖房があることを示していた。

 けれど今はその美しさに見惚れる暇はなく、疲労で潰れそうでそれどころではなかった。


 幸い、アイスエッジに入るための厳重な検査はないのでそのままマラミュートたちを返却することにした。


 私は未だ眠っている主様たちを起こし、到着したことを伝える。


「主様、アイスエッジに到着しましたよ」


「……え。もう着いたの?」


「一晩中ソリを走らせていましたからね。主様が寝ている間にもソリは進んでいましたから」


「それじゃあフィニは寝てないってこと?」


「そうなりますね。なのでできるだけ早めに休息を取りたいのですが」


「急ごう急ごう。フィニに体調を崩されると困る」


「でも私はソリとマラミュートたちを返却しなければならないのでここで待ってるか着いてくるかしてください。………いえ、着いてきた方がいいですね。たしかソリの返却場所の近くに渓谷へ潜るためのリフトが置かれていたはずなので」


「分かった。スフィア、行くよ」


「お、おう」


 私たちはソリを返却するために出発前に指定された返却場所に来た。


「すいません。ソリとマラミュートの返却をお願いしたいのですが」


 カウンターから出てきたのは相変わらず犬型の獣人の方。行きの方で見た人と似ているから親戚かな。


「わかりました。昨日貸し出された3人乗りのソリをご利用で間違いないでしょうか?」


 やっぱりあらかじめ貸し出しの情報は共有されているんだな。どうやってかは知らないけれど貸し出しの記録がなされているのは、このアンドレ王国の治安の良さを保っている重要な要素の1つかもしれない。


「はい。間違いないです」


「ご利用ありがとうございました。このアイスエッジを是非楽しんでくださいね。またのご利用をお待ちしております」


「ありがとうございました」


 私は返却場所を出て、主様とスフィアと合流した。


「さて、どうしましょうか。今日のうちに竜鱗騎士団の方に挨拶してもいいですし、今日は観光に使うでもいいですし、主様に一任しますよ」


「私はちょっと観光したい気もするけど…この地上には何かいいお店とかあったりするの?」


「いや、特にはなかったはずです。やはりこの都市の1番の魅力かつ主要部分は渓谷の中ですからね。有名なお土産屋さんだったり観光地も全部渓谷の内部にあります」


「へー、やっぱそうなんだ」


「渓谷の中にそれだけの大都市を築けるってとんでもない技術力を持ってるよな」


「同感です。渓谷の中へ下るリフトを整備したのも彼ら竜人族ですし、このアンドレ王国に属する種族の中でも1、2を争うほど頭の切れる種族だと思いますね」


「じゃあそのリフトを使って渓谷の中に降りてみようよ。ちょっと地表は寒いしね」


「分かりました」



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