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ソリの貸し出し


 屋敷を出発して8日が経過した。現在地はアイスエッジのある雪原の手前。雪原を移動するためには犬とソリを借りるが、それらを借りる場所の近くに宿屋があったのは僥倖だった。


「あー……寒ぃ」


「同じく〜」


「この気温ではベッドから出たくありませんね…」


 その理由は3人の反応を見ればわかるだろう。シンプルに寒すぎる。私の感覚では氷点下にいってるんじゃないかという予想。これでもし野宿することになってたら本格的に凍死してたかも。


「寒いですからお茶、用意しておきましたよ」


 あらかじめ淹れておいたお茶をポットからカップへと注いでいく。ポットから伝わる熱がちょうどいい。


「助かる〜」


「やっぱ持つべきものは気が効くメイドだな」


 まあ、仕えるというのは悪い気はしないし、お茶は自分も飲みたいから淹れたのだけど。


「主様とスフィアは今のうちに着替えた方がいいですよ。ここは室内ですし、ある程度暖かいので。流石にここ以外の場所で着替えるのは苦でしょうから」


「うん。そうだね。フィニ、私の防寒着とってくれる?」


「わかりました」


「私のも頼んでいいか?」


「スフィアは自分でやってください」


「ケチだなぁ」


「あなたに仕える義理はありませんからね。なんなら私の方が位として上ですし」


 主様の服を荷物から取り出し、着せてあげる。


「重くないですか?」


「そこまで重くないから大丈夫だよ」


 そう言いつつも結構重そうなのだが。私が主様にプレゼントした正装にも耐寒の魔法が付与されているが、流石にアイスエッジの寒波には打ち勝てない。だから国王様から頂戴した黒色のコートを着せてあげたのだが、主様の華奢な体にはちょっときつかったようだ。


「………まあ動けるようなら大丈夫です。スフィアは、着替え終わりましたか?」


「ああ。なんか体が大きくなったような感覚だけどな」


「その気持ちはわかる。ここ3ヶ月ぐらいずっとこの服でいたのに、厚手のコートが加わったことでまるで自分の体自体がでかくなったみたいな」


「でもおしゃれで良いですよ。黒色のコートは主様に似合いますね」


「えへへ、ありがと」


 主様の顔が綻び、笑顔になる。


「さてと、そろそろ行きますか?昼頃に雪原の中にいないと夜は厳しいですし」


「そうしよっか。スフィアもそれでいい?」


「異論はないぞ」


「ではここで待っていてください。ソリと犬を借りてきますから」


「おっけー。じゃあ朝ごはん食べて待ってる」


 私は気が進まないながらも外へ出てソリの借り場に来た。なんで気が進まないかって?寒いからに決まってるじゃないですか。


「すいません。犬とソリを借りたいのですが」


 木でできた小屋のような場所に入り、受付に行った。


 すると中から出てきたのは可愛らしい犬型の獣人だった。


「かしこまりました!何名でのご利用ですか?」


「3人です」


「では犬は1頭か2頭ですね。2頭にしますと早く着く代わりに値段が少々高くなるのですが…。いかがされますか?」


「2頭でお願いします」


「はい。でしたら3人乗りのソリとマラミュート2頭で、金貨1枚になります」


 なかなかのお値段だ。まあでもこのサービスは他に競合者もいないし1人で釣り上げても問題ないのか。


 私はポケットに入っている金貨を1枚取り出しカウンターに置いた。


「はい、たしかにいただきました。裏にマラミュートたちを飼っている小屋がありますのでついてきてください」


 その受付の獣人の子はカウンターを通って裏へ行ったが、部外者である私がカウンターを通っていいのかわからないのだが……まあ着いてきてと言っていたので通ってもいいのだろう。そう自分に言い聞かせてカウンターを通った。


「お客さんにマラミュートとソリはこちらですね。今いるまだミュートたちの中でも早い2頭です。手綱の握り方はわかりますか?」


「一応は。アイスエッジへ行くのも5回目ですからね」


「でしたら問題ありませんね。アイスエッジに到着しましたらここと同じ名前の店があるのでそこで返却を済ませてください。質問はございますか?」


「このマラミュートたちはどのぐらいの時間を休憩なしで走れますか?」


「あー…試したことがなかったのでよくわかりませんが、少なくとも2日は持つはずです。彼らは匂いでアイスエッジまでの道筋はわかりますし、迷うことはないので2日あれば確実に着くことができますよ」


「そうですか。ありがとうございますね」


「はい。では良い旅を」


「ありがとうございます」


 私はソリの操縦者の席に座り主様とスフィアがいる宿へとソリを運んだ。


「主様、借りてきましたよ」


「お、ありがとう。じゃあフロント行ってお金払ってくるよ」


「私がやりますよ?」


「いや、フィニとスフィアは荷物運んどいて。私がやるよりよっぽど効率いいから」


「承知しました。スフィア、聞いてましたね?2人で荷物を運びますよ」


「はいよ」


「じゃあよろしくね」


 主様はフロントの方へ行き、私とスフィアはソリに荷物を移した。3人乗りと言っても荷物を置くスペースを考慮しての3人乗りなので実質4人は乗れるぐらいだ。


 操縦席に私は乗り込み、主様とスフィアは後ろに乗る形となった。私は2人が乗ったのを確認して、マラミュートたちに出発の合図を送る。するとものの数十秒で軌道に乗り始め、ぐんぐんとその速度を上げていった。

 私はマラミュートたちの走る速度が安定したことを確認して主様たちに声をかける。


「アイスエッジには明日の朝方に着くと思います。主様も把握しておいてくださいね」


 後ろは見えないが、主様たちにも聞こえるよう大きな声で言った。間髪入れずにはーい、と元気な声が帰ってきたので大丈夫だろう。



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