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火起こし


 アイスエッジはこのアンドレ王国の最北端にある大都市。谷と山、豪雪地帯に覆われたその都市の支配者はあの竜鱗騎士団のドラクール様。私たちはあの方に会うために向かっている。


 そして前に行ったバイフォレストはこの国の西の方にある大都市。つまり屋敷を出てからの道がまるっきり違うのだ。バイフォレストに向かった時には平原と森を突っ切ったが、アイスエッジへの道には何個か都市が点在している。


 この国には7つの軍があるが、基本大都市とこの国で言われるものは、どれも治めているのがその7つの内の何処かだったりする。 あ、第三軍はそのような都市を持っていないか。

 だから都市というと、中規模の都市のことを指す。軍の管轄外の都市の中では最大規模の都市たち。それらがアイスエッジへの街道にはいくつかあるのだ。私もなぜそんなにアイスエッジへとつながる街道に多く都市があるのかは知らないが、シンプルに利用者が多いのかもしれない。


 アイスエッジは観光地としても発展しているし、アイスエッジのある雪原地帯は避暑地として有名だ。個人的にはその雪原のギリギリ手前まではかなり涼しくて過ごしやすいのだが、アイスエッジに近づけば近づくほど寒すぎてまともに行く気が起きない。なのでアイスエッジに涼みに行くと言ってる奴は、まだアイスエッジに行った事の無い可愛子ちゃんか、頭のネジが外れた一部の狂人だけだ。

 もし後者なら、その人には近づかないことをオススメする。


 話がずれたがともかく、アイスエッジへの旅はそこまで国にならないかもしれないということだ。そこまで野宿で済ませることはないだろうし、都市を観光気分で巡ったりもできる。まあ自分達へのご褒美とでも受け取ればいいだろう。日頃から根詰めて仕事に励んでいるわけではないが、それなりに頑張っているからね。


 けれど、初めの3日間は野宿になりそうなのは事実。もちろんペースによって多少前後するだろうが、これは避けて通れないので主様には我慢してもらおう。

 そんな野宿をする予定の1日目、私たちは既に馬を止めて寝床を作る準備にかかっていた。


「主様はそこら辺の木に座っていてください。私とスフィアで準備していますから」


「え、でも私も手伝うよ」


「いいって、いいって。こういうのは付き添い人がやるもんだろ?」


「私としては主様に手伝ってもらうのも悪くないですけど、やるとしたらスフィアと一緒に燃枝を探してもらいましょうかね」


「火を起こすための枝?」


「そうです。スフィアも一緒に探してください。出来るだけ乾いた、小さい枝が好ましいですね。主様は前やったことがあるのでわかりますよね」


「うん。探してくるよ」


「はい。お願いしますね。私はその間テントを張るので」


 そう言って主様とスフィアは森の中へと消えていった。私がテントを張るところは森の端っこなので、まあすぐ戻ってこられるだろう。


 馬に括り付けていたバッグから折りたたみ式のテントを取り出して展開する。タールウェグの時みたいに魔法で収納して、展開できる便利なものがあればいいが、残念ながら私はそんな便利なものを持っていない。実際、あの収納魔法はかなりの高等術式なのでそう簡単には習得できないのだ。私が前使った収納魔法も、あらかじめ魔法が込められていた『炉』と呼ばれる道具をメモリアたち森厳騎士団から貸し出してもらっていただけであって、私が使った魔法じゃない。


「フィニー。枝、集めてきたよ」


 テントを張り終わったところでちょうど主様たちが戻ってきた。


「ありがとうございます。せっかくですし主様が火を起こしてみますか?」


 私は火を起こす用のナイフを手に持って主様に提案する。


「うーん、やってみる?危なくないよね?」


「大丈夫です。最初は怖いかもしれませんが、怪我は絶対にしないので」


「分かった」


 主様とスフィアが集めてきてくれた枝の一部を1箇所にまとめて、残りの枝を薄く切り裂いて最初の火種とする。


「では主様、このナイフを持って火属性の魔法をなんでもいいから唱えてください。火属性の元素を魔法に含んでいればあとは勝手にナイフが火をつけてくれます」


「そうなの?てっきり火をつけるってこう…摩擦で頑張って火をつける感じだと思ってた」


「それはかなり前の方法ですけどどこから知ったんですか?私が生まれた時期とと同時に廃れていったぐらい昔ですけど」


「なんか…本で見た」


「王城にはそんな古い本もあるんですね。まあともかく、火をつけてみてください」


「うん。<火の粉>(エレメンタルファイヤーダスト)」


 ナイフから火の粉が出てゆっくりと木を燃やしていく。その姿はゆっくりとしていて、森の静寂も相まってずっと見ていたくなるようだった。


「うん。いい感じですね。綺麗に燃えていると思います」


「へー、こんなに便利な道具があるんだ。私が魔力の調整をしなくても自動で制御してくれるなんて、こういうのって大量生産されてるの?」


「いえ、そんなことはありません。これは私が作ったオリジナルの道具ですし、似たような技術はあれど世間には広まっていないはずです」


「便利なのは目に見えているのになんで広まっていないんだ?」


「それには理由があるんですよ。この技術、簡単に言うとレンズみたいになってるんです。入口から入った魔力を認識して、それを一定の威力まで拡大、縮小するっていう。今のでお気づきかもしれませんが、この技術、魔力を拡大することができるんですよね。そうなると何が起きるか、わかりますか?」


「分かった。あんまり魔力に自信がない人でもこの技術を使えば一級魔術師にも劣らないぐらいの魔法を出せちゃうんだ。そんなのが普及すれば国全体の安寧が崩れるのは必至だね」


「そういうことです。まあこの技術は何度も言うようにあくまで魔力を一定の大きさまで拡大するものです。なので言ってしまえば薄く引き伸ばしているのとさほど変わりません。なので魔力が増えると言うことではないのですが、その形が変形するんです。ただの<火球>が、<獄炎の柱>にまでなったら恐ろしいと思いませんか?」


 ちなみに<火球>とは火属性の魔法で最も初歩的かつ1番使われる魔法。魔法戦とかで宙を舞っている炎は大体この魔法。対して<獄炎の柱>は火属性の最上位魔法の1つ。発動すると15メートルほどの火柱が出現してその場所に居座りつづける。この技術を応用すれば、このようなことも可能なのだ。


「確かにね。でもさっきも言ったように込められた魔力量は変わらないなら見かけだけの魔法ってことになるのかな?」


「そうなります。流石に素で最上位魔法が出せる人と比べたら威力は落ちますが、いずれにせよ脅威であることには変わらないですよね。形だけと言ってもしっかりと具現化した炎がそこに出現するんですから」


「そうだね」


「なあ、思ったんだがヴィエラ様って最上位魔法とか撃てるのか?」


「確かに、私も知りたいですね」


「これでも幼少期を魔法に費やしてきたからね。撃とうと思えば撃てるよ」


「薄々思ってはいたんですけどやっぱり使えるんですね。18歳で最上位魔法を使えるなんて驚きですけど」


「でもその反応を見るにフィニも使えるんでしょ?」


「まあ…それなりには。私は魔法の才能がなかった分、時間で補いましたからね」


「いいなー。私は剣しか鍛錬してこなかったし、それも今は中途半端だからな。フィニに比べれば剣の腕も下だし、どうしようか…」


「そんなに自分を卑下する必要はありませんよ。あなたはハイエルフですから、しっかりとした鍛錬をすれば私よりも強くなるはずです。そして何より、あなたはこの中で1番ストレスの少ない生活を送ってきたではありませんか」


「ちょっと、私の幼少期がストレスまみれだったってこと?


「いや、普通にストレスフルでしょう。誰ですかストレスだから王族辞めたいー、なんてほざいていたのは」


「なんだとー!」


「まあまあ落ち着けよ。確かに私はあんまりストレスを感じずに生きてきたけどよ、それはいいことなのか?ほら、ある程度のストレスは体にいいなんて言うし」


「ですからその適量なんですよ、あなたの場合は。私は8歳ぐらいの時に初めて殺しをしましたし、主様も幼い頃からずっと貴族たちの目に晒されてなかなかのストレスが溜まっていたはずです。それに比べれば全然安全圏内に入っていると思いますけどね」


「そう…か。それもそうだな。よし、私は頑張って剣の鍛錬をしていつかはフィニを追い抜いてやるぞ!」


「その意気です」


「頑張れー」


「それより、談笑も楽しいが飯はくわないのか?」


「それもそうですね。なんか食べますか」


「今日は何があるの?」


「なんでもいいですけど…豚肉とかどうですか?干し肉ですけど、塩に漬けてあるので美味しいですよ」


「じゃあそれで」


「私もだ」


「はい」


 私はバッグから干した豚肉を取り出して3等分に引きちぎる。なかなかに硬くてちょっと雑になったけど誤差の範囲って事で。


「ん〜…意外と美味しくていいですね」


「同感だ。塩がいい感じに効いてる」


「しかもこれ長持ちするからこういう旅には最適なのかもね」


「そうですねー。暗殺とかには持っていけないのが難点ですけど、旅ならこれが1番いいと思います」


「なんで暗殺には持っていけないんだ?」


「これ、かなり匂いが残るじゃないですか。干し肉と塩が強烈な匂いを放つので、その匂いが痕跡となって追手が来たりするんですよね」


「人間ってそんなに鼻がいいわけではなくない?」


「はい。けれど彼らが飼っている猟犬の鼻を誤魔化せないので絶対に持っていってはいけないんです。もっと言えば野生の獣も肉と塩分目当てで襲ってくるので最悪ですね」


「そっかー。聞く限り暗殺業ってかなりハードだと思うんだけど、なんでみんななりたいって思うんだろうね」


「そうだよな。いつも死と隣り合わせで精神的にも肉体的にも辛いだろうによ」


「なんででしょうかね…。実は私にもわからないんですよね。年々志願者が減ってきているとはいえ正直気にしなくてもいい減り具合ですし」


「あれ、前はめっちゃ気にしてなかった?」


「いや、もう諦めました。冷静に考えれば1人や2人は誤差ですし」


 そういえばそんなことも言った気がするが。


「でも人員が欲しいのは事実ですけどね。志願者が減っていくのは気にしていないとはいえ、多くて損はありませんから。なんで言うんでしょうかね…人が増えると層の厚さは厚くなりますけど、その分濃度は薄まるんです。指導する人にも制限がありますから、指導員の持てる量を超えた場合、粗悪な人員が生み出されてしまいかえって危険が増します。まあでも今は全然受け入れられるのでどんどん入ってきて欲しいですね」


「今はどのぐらいが在籍してるとか言える?」


「それは無理ですけど…まあ裏の軍と言われるぐらいなのでそれなりの人数はいます」


「やっぱ噂でしか聞かない暗殺者師団の長の話を聞けるなんて不思議な感じだな。会うまではどんな厳しい奴が出てくるかと思ったが、実際は気さくで話しやすい奴だし」


「その噂ができたのはかなり昔ですからね。その時は厳しかったかもしれません。教育中にナイフを取り出すこともしばしばありましたし」


「え、待って。それって合法なの?」


「主様、世の中には知らない方がいいこともあるんですよ」


「おぉ…」


「ともかく、私にも暗殺者師団が未だに人気がある理由がわかっていないんですよ。いつか面接で聞いてみてもいいんですけど」


「ま、それは私の預かるところじゃないか。私はもう疲れたから寝るけど、フィニとスフィアは?」


「私も寝ましょうかね。結界張るので、内側に入ってください」


「わかった」


 私は手のひらに魔力を集めて、テントを中心とした半径10メートルの範囲にドーム状に展開する。


「この結界は私が寝ている間でも張り続けられるので安心して眠ってください」


「ありがとう」


「ありがとな」


「はい。ではおやすみなさいませ」


「おやすみ〜」


 ふあー、とあくびをしながら主様はテントの中へ入っていった。


「で、スフィア。あなたも寝ますか?」


「うーん、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな。元々は寝ずの番をしようと思っていたんだがその必要はないようなので」


「はい。スフィアも1日お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね」


 スフィアもテントへと入り、外には私1人となった。私も特にすることはないのですぐに寝てもいいのだが、なんとなく嫌なのでちょっとの時間起きていることにした。



本来は次回投稿する分も併せての1話だったのですが流石に長すぎたのでやめました。なので切る箇所に違和感があっても特に気にしないでいただけると幸いです。

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