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出発

ついに50話!ここまで応援してくださった方には頭があがりません。これからもよろしくお願いします!


 窓から朝の冷たい空気が流れ込んできて、私を眠りから覚めさせた。まだ日の出前。いい感じの時間に起きれたと思う。


 昨日予定していた通り、まずは1階に下がって浴場を確認することにした。


 浴場はメインホールにつながる大階段を降りて左側、扉から見て右側にある。その長い廊下の最奥にあるのが浴場で、なかなかの広さがある。だからこそ浴場が片付けられていないとそれなりの時間を食ってしまう。お湯を抜くのにも時間がかかるし、改めて魔法を貼り直すのにも時間がかかる。浴槽や床、基本お湯がかかるところには魔法でコーティングがされており、あまり汚くならないように設計されている。でもその魔法も結構な頻度で貼り直さなければ使い物のならないのでなかなかに面倒。


 さて、果たしてスフィアはちゃんと片付けをしてくれていたのか………。


「ったく、あの馬鹿…」


 少しでも信頼した私が間違っていたのかもしれない。浴場に入るや否や目に飛び込んできたのは散らかされた洗面器たち。あいつ1人入ったのに何個の洗面器を使用したんだ。そして当然のごとくお湯は抜かれていないし、本当に底なしの能無しかもしれない。今日中に罰則を与えるか。


 

 結局、私は30分ほどの時間を使い浴場を元通りにした。散らかされた洗面器は元の場所に戻したし、再度魔法でコーティングもした。朝からかなり重めの業務をやって疲れたが、私はここでまだ朝食を作っていないことに気づいた。


 幸い、まだ日の出までは多少の猶予があるのでいいのだが、ここから主様も起こして身支度を手伝わなければならないと考えると、かなり憂鬱になる。


 私は急いでキッチンへ向かい、高速で朝食を完成させた。いつも通りパンと目玉焼きとデザートを作り、テーブルに3人分の食器を並べて、主様を起こしに2階へ向かった。


「主様、おはようございます」


 ベッドでぬくぬくと顔を埋めながら寝ていた主様。


「……うん。多分もう朝だよね…。フィニからパンの匂いがするから」


 そう言って主様は私のメイド服を嗅いできた。


「ちょ、やめてください。寝ぼけててもこれ以上は許しませんからね」


「分かったよ。スフィアは、もう起きてるの?」


 さっきの寝ぼけた姿はおふざけだったように、いきなりシャキッとして部屋の扉から見えるスフィアの部屋を覗く。


「いえ、まだですね。おそらくは昨日遅くまで起きていたので今日はまだまだ眠いのでしょう。どうせですし、主様のついでにスフィアも起こしますか」


「ん。じゃあ私は着替えて先に朝食食べてるね」


「承知いたしました。先に食べていてください」


 そう言って主様は1階のリビングへと降りていった。



 主様が去った後、私はある決意と共にスフィアの部屋へ突撃した。


 勢いよく部屋のドアを開け、スフィアが被っていた布団をひっぺがした。


「朝です。起きてください」


「ちょ、いきなり布団を没収するのは酷くないか?」


「それをいうならなんなんですかあの浴場は⁉︎朝起きて向かってみたら荒れていましたよ⁈とても成人済みの者が、ましてやハイエルフがする所業ではなかったですね」


「あー……それは…すまん。せめてお湯を抜いておけばよかったか」


「はい。これからもあなたが最後に寝ることになる機会は腐るほどあるはずなので、今回を機に片付けというものを覚えておいてください。まずはお湯を抜く、そしたら使った洗面器たちを放置しない。いいですね?これぐらいのことそこらへんの5歳児にだってできますからね?」


「いや5歳児はできないだろ」


 頭に拳骨を食らわせる。


「い・い・で・す・ね?」


「…わかりました」


「それならよろしいです。今後はこういう事の無いように。いいですね?」


「はい。でもやっぱり5歳児にはできない気がするんだが」


 今度は鳩尾に拳を入れる。


「あなたは無駄口というものが多いですね。たまにはこういう事も悪くはないでしょう」


 スフィアは痛みに悶えて床にうずくまっている。まともに鳩尾に入ったため5分は動けないだろう。


「では支度ができたら下に降りてきてくださいね。1時間後には出発しますから」


「わ…わかった」



※※※



「フィニ、先にいただいたよ」


「はい。身支度は手伝いますか?」


「うーん、今日は大丈夫かな。フィニに朝から負担をかけるわけにはいかないし。それより荷物は下に持ってきた方がいいよね?」


「できるならそうですね。重くなければ任せますが、1人でも持てないようでしたら遠慮なく呼んで下さって構いませんから」


「うん、ありがと」


 そうして主様は階段を上がっていったが、その途中に「あ、おはよう」という声が聞こえてきた。スフィアも降りてきたようだ。


「スフィア、出発の準備はできていますか?」


「ああ、一応な。何泊するかはわからないけど、とりあえず1ヶ月生活できる分あれば十分だろ。アイスエッジについてからはある程度の生活が保障されているようなものだし」


「ですね。それよりも急いで朝食を済ませたほうがいいですよ。主様が準備出来次第出発しますから」


「分かった」


 そう言って私とスフィアは黙々と朝食をとり、再度各自の部屋に戻って荷物の最終チェックを行った。そして偶然、主様、私、スフィアが同時に部屋から荷物を持って出てきたのはちょっと面白かった。



 あらかじめ屋敷の庭まで引っ張ってきておいた馬にそれぞれ荷物を括り付け、出発する準備が整った。


「屋敷の戸締まりもしましたし、ではいきましょうか。おそらく3日は野営することになりますが、それは旅の一興ということで」


「了解」


「分かった」


 2人の返事を確認して、私は手綱を握って馬を走らせた。そして私を追うように主様とスフィアも馬を走らせ、長いアイスエッジへの旅が始まった。



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