表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/72

引っ越し

「うー……」


 うなだれながら上半身を起こす。昨日寝たのはなんだかんだ日にちを回ったぐらいだが起きるのが4時ぐらいであるためまだまだ眠い。けれど起きなければ数時間自分が困るだけなのだ。顔を洗い、寝巻きからメイド服に着替える。

 このメイド服は特注でもなんでもなく王家に仕えるメイドに支給される一般の制服だ。視点を変えれば王家が特注したともみれるが……その辺は気にしないでおこう。


 そもそもメイド服に違いがあるの?というところからだが意外にもかなり差が出る。メイドというのは貴族がいて、特定の家に仕えているものたちだ。言ってしまえばその家に属している。そのため家によって制服は違うが基本的にはやっぱり黒や紺の服に白色の紐やスカートを着用している。それは王家でも変わらず気持ち他の家よりデザインが豪華?というぐらいだ。

 けれどこの僅かなデザインの差によって家もわかるため便利ではある。ただしメイド界隈でのみ伝わるが。


 

 そんなメイド服の白い紐を背中の方でキュっと結び主様の朝食を作る。私が作るのは庶民の舌に合うような家庭料理のようなものだ。作ろうと思えば王族にふさわしい豪勢なものも作れるが、ヴィエラ様が「そんな食事にこだわりはないから」といったため普通の庶民料理だ。実際作る時間も相当短縮できるためそういう点はヴィエラ様に感謝している。


 朝食を作り、余った分は自分のお腹に直行だ。こういうちょっとしたタイミングでいかに栄養を補給できるかが大事。これ、重要です。


 それが終わったらいつもならヴィエラ様を起こしに行くが……


「フィニおはようー」

 

 今日はその必要はないみたいだ。


 寝巻きから着替えて、昨日プレゼントした正装を着てきてくれている。日を跨いでもやはり可愛らしい。


「珍しいですね、ヴィエラ様が自分で起きるなんて」


「最近はフィニに起こされてばっかだったからね。昨日寝たのが早かったおかげで起こされずに済んだよ」

 

 うーん、いつもあった仕事がないと少し寂しいような嬉しいような。少し前までは嬉しいだけだったからこれもメイドとして染まってきたということかな。


「朝食、机に置いておきますね」


「うん。ありがとう」


 昨日の少し疲れたような表情はヴィエラ様からなくなっていた。これなら、今日のメインイベントである引っ越しも体力が持ちそうだな。


「主様、今日は何があるのか把握していますよね?」


「えーっと……なんだっけ?」


「ちょっと、この屋敷とはもうおさらばなんですよ。今日からはもう新しい屋敷にお引越しです」


「あ、そうだったね。この屋敷とのお別れは寂しいけど……それ以上に新しい屋敷が気になるかな!軍施設っていう扱いなんでしょ?」


「はい。軍幹部が住む家は一般住宅ではすみませんからね」


「うーん、なんか軍幹部って言われると胸がむずむずするなぁ。持ってはいるけど、まだ持ってないみたいな」


「まあまだ幹部としては仕事をしていませんからね。けれど今日の午後は第三軍の面子と初顔合わせをします」


「今日するの?さすがお父様、手配が早いね」


「私も具体的な人数や種族規模は聞いておりませんが他軍に比べたら何段階も劣るでしょうね」


「極端に少なくなければ別にいいかな。私のプランは少人数でもできるし」


「……前から気になっていたんですけど、既にヴィエラ様は何か作戦の案は持っているんですか?国王様に打診した時から思っていたことなんですけど」


「もちろん持ってるよ。けど絶対にいい作戦とは言えないし部下の働きによるかなぁ」


「部下任せのプランということですか?」


「違う違う」


 首を振りながら否定する。


「ただ単に隊の機動力とか交戦状況とかのデータがないからまだ不確定的要素が強いってだけだよ。データが集まったら一緒にプラン、調整しようね」


「はぁ……。わかりました。これでも護衛ですからね、戦術などのことはある程度理解しているつもりです」


「頼りにしてるよ、フィニ」


 ……主人からの褒め言葉というのはやはり受け取って嬉しいものだ。あくまで仕える価値があるという前提の元だが。


「しかし私を作戦の立案に携わらせて良いのですか?私はあくまでメイドですし……」


「その辺は大丈夫だよ。これから設立される第三軍は私とフィニが運営していくものだから」


「というと?」


「私は軍団長、フィニは副団長。どう?シンプルでしょ」


「シンプルですが、表面上は私はメイドです。なので第三軍はメイドを副団長に任命している軍ということになりますが」


「別にいいでしょ。フィニは十分な腕を持ってるんだし、これがベストなはずだよ。侮るような奴がいたらボコボコにしてやる!…フィニが」


「ちょっと。途中までかっこいいと思っていた私を返してください」


「残念ながら返品不可です」


「もう。朝食も終わったことですし急いで引っ越しの準備をしますよ。ヴィエラ様はとりあえず自室の物で持っていきたいと思うものを箱に詰めちゃってください。荷物は私が運びますので」


「はーい」


 そう言ってヴィエラ様はせかせかと自室へ引っ込んでいった。


「さてと、私も自室の片付けをしますか」


 私も一応自室は持っている。別に何か特別なものが置いてあるかと聞かれればそんなことはない。ベッドとクローゼット、そして棚があるだけだ。棚の上には写真など思い出の品があるがその数はかなり少ない。箱に詰める必要もないかもしれない。


「ただ問題はクローゼットの中身ですよね……」


 クローゼットの中は衣服が詰まっている……わけではない。なんなら2着しかない。

 だがそれ以外のスペースには凶器がびっしりと詰まっている。ナイフは長さに応じて数えきれないほどある上に、その他暗殺をするための小道具が多くある。それらを箱に詰めていきたいが、いかんせん凶器だ。扱いには注意を払わなければならない。さもないとこの屋敷が跡形もなく吹っ飛んでしまう。


 そんな危険物をまあまあな時間をかけて箱にしまい、外にある馬車の荷台に乗せる。流石に手で運ぶには厳しい量だしこれぐらいなら馬も頑張ってくれるだろう。


「ヴィエラ様ー?終わりましたか?」


 ヴィエラ様に確認をとりながら恐る恐る部屋にはいる。


「終わりましたかって、何してるんですか」


「んー?見ての通りお昼寝だよ。ほら、フィニも一緒にどう?」


「そんな馬鹿なことをしていないで外の馬車に乗り込んじゃってください。どうせ馬車で寝ることができますよ」


「そうだけどさぁ、馬車ってどうしても揺れるじゃん。だから振動で寝れないのよ」


「言い訳は聞きません。急いでください。予定時刻に間に合わなくなるので」


「うー、わかったよ」


 ヴィエラ様の荷物は案外そう重くはなかった。王女という身分でありながら服がそう多くないからか?いや、逆に王女だからか。服は基本王城で着ればいいし、自由に取り寄せることもできる。そのためわざわざ保管する必要性がないのかもしれない。


 ヴィエラ様の荷物も同じように馬車の荷台に乗せ、自分は馬車本体の方へ乗り込む。


「ありがとね、荷物運んでくれて」


「いえ。大したことではありませんよ」


「ならよかった。ところで私たちが入る屋敷ってどこら辺にあるの?具体的な位置を知らないんだけど…」


「少し王都から外れたところですね。しかしそこまで王都と行き来がしにくい場所でもないので不便は感じないと思います」


「了解。7個ある魔王軍の組織の中だと1番近い位置になるのかな?」


「そうですね」


 エルフとダークエルフで構成された『森厳騎士団』の本拠地は王都からかなり外れた位置にある都市にあり、その都市は王都の次に栄えているといっても過言ではないだろう。エルフとダークエルフの2種族で構成されているためごくたまに対立が起こる騎士団でもある。しかし今の騎士団長はかなりの実力者でありさらには隊への気配りがとても上手い。そのため今の騎士団長である限り対立は起こらないはずだ。


 そして獣人で構成された『獣王騎士団』は、本拠地が山ということになっていて定義が曖昧だ。実際、基地は魔族領全域の山にいくつも建立されているためどこが1番栄えているなどピンポイントな言い方は難しい。

 昔、『獣王騎士団』の人に直接話を聞いたが自分達でもわからないらしい。けれど騎士団長であるルーツ様がいる場所が本陣なんだとか。まあその騎士団長様がちょくちょく移動するからわからないのだが。


 幽霊や骸骨など死霊を中心としたアンデットで構成された『死霊騎士団』は王都からかなり離れた極寒の地に本拠地を構えている。理由は様々あるが1番は生きている生者に影響を与えないように誰も住めないような土地に住んでいるんだとか。アンデットはその名の通り既に死んでいる死者たちの呼び名だ。寒さや暑さなど気温はもろともしないし、生者よりも断然生命力が高い。騎士団という塊で見ればかなりの強さを有する者たちだ。


 最後に竜人で構成された『竜鱗騎士団』。彼らは洞窟や沼地などに住んでおり、本拠地は洞窟の内部にある大きな空洞だ。これだけ聞くとかなり野蛮な感じはするがそんなことはない。空洞の内部には聖堂のようなものも立っているし、商店街などもあり市民向けの軍施設と言えるかもしれない。


 まあ騎士団はそんな感じで王都からはどれも距離がある。馬車を使っても最低1週間はかかってしまう。けれど元々騎士団は国家の矛となる部分であるため当たり前と言えば当たり前だ。


 矛が自国の奥深くにあっては意味がないし錆びてしまう。そのため人間との交戦地に近い場所が本拠地として選ばれている。



 長い長い考えごとをしていると馬車が止まる音がして扉が開かれる。今回は自分が先に出て周りの安全の確保をする。万が一引っ越しの件が相手にバレていたら狙われるのはこのタイミングだ。


 周囲の確認を数回した後主様に合図して出てもらう。


「ねぇフィニ」


「なんでしょうか?」


 何か信じられないかのような目で私を見てくる。


「私たちこれからこの屋敷に住むの?」


「そうですが……。お気に召さない点などありましたか?」


「いや、最っ高だね!結構広いように見えるし色々と工夫のしがいがある!」


「そうですね。私も今から楽しみです」


 私も色々と工夫をしたい点がある。……主に防衛上の問題で。


「では中に入りましょうか。荷物は後で運び込みますから」


「うん!」


 そう言ってスタスタと小走りで屋敷へ入っていった。



今さらながら………ブックマーク、評価の方よろしくお願いします!励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ