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ヴィエラの提案



「いきなりなんだけどさ、ドラゴンの谷に行きたいんだけど」


 次なる目標が決まった直後、主様はそんな言葉を漏らした。


「ドラゴンの谷って、竜鱗騎士団の本拠地だろ。なんでそんなとこ行きたいんだ?」


「私もいまいち意図がわかりませんね」


 2人して頭に疑問符を浮かべる。


「特に深い意図はないけど、第三軍の面識を増やしておこうかなって。第三軍の人員編成の目標として、多種族が集まる場所にしたいってあったでしょ?それを達成に近づけようと」


「でも……」


 スフィアの方を見る。


「なぁ?」


「何か問題でもあるの?」


 やっぱり主様は知らないようだ。


「主様は竜鱗騎士団、もっと言えば騎士団長であるドラクール様の事をどのくらい知っておられますか?」


「何回か見たことあるけど、あんま知らないかな。でもフィニにとって戦う上で相性が悪いのは知ってる」


「それだけしか知らないならあまり行くことはお勧めできませんね。ドラクール様はかなりの武闘派でしられていますし、なにを考えているかわからない方です。思考が読み取りづらいというのもそうですが、性格的には頑固というのが似合いますね。見た目と変わらないのはまだ救いですが」


「そうだな。ちなみに幹部にしては珍しく二つ名が複数ある方だ。『堅牢』とか『不壊』とか。とにかく竜人族の特徴である防御が代表される方だ。フィニが相性が悪いと言ったのも頷ける」


「正直1対1だとこの世で最強かも入れませんね。私も勝てなくはないですけど、たぶん相性は不利です。あのかったい鱗を突き破るにはナイフは役不足で刃が立ちませんから、どうすれば倒せるのか聞きたいですね」


「まあドラクールさんが強いのはわかった。でも話は通じる方なの?」


「それはまあ。それなりには」


「ならいいや。行ってから対処法は考える。話したいことがあるし、友軍殺すような方じゃなければ大丈夫だって」


「たしかにドラクール様は頑固で良いイメージを持たれていないのですが、それは彼の寡黙さに由来する側面が大きいです。今まで友軍を殺した、などの噂は聞いていないのである程度は安全だと思われます」


「了解。じゃあ早速だけどフィニにドラクールさんへの手紙を書いてもらおうかな。ドラゴンの谷まではここからどのくらいかかるのかな」


「全力で飛ばして約10日と言ったところでしょうか。けれど道に迷ったりしたらもうちょっとかかるかもしれませんね」


「聞いといてなんだけど…ドラゴンの谷ってどこにあるの?」


「この国の最北、アイスエッジという都市にあります。世間一般にはドラゴンの谷の名で知られていますが、正確にはアイスエッジという都市が谷と隣接しているためこの名がつきました。住民の9割は谷の中に住むほど谷は深く、そして広いです」


「私は行ったことないんだがやっぱ寒いとこなのか?」


「そうですね。最北というだけあってとても寒い土地です。だからこそ熱が逃げにくい谷に住んでいるというのは事実かはわかりませんけどね。ちなみにアイスエッジの住人は大抵が竜人なので翼を持っています。なので移動方法は各々が持っている翼となり、その翼で谷の淵から淵を行き来している姿は見ていてかっこいいと思いますね」


「なおさら行ってみたいなぁ。でも10日か…。1ヶ月は費やす想定じゃないといけないね」


「移動は主に2種類で、平原の時は馬を走らせますが、だんだんと寒くなり地面が雪で覆われた頃にはソリを使って移動します。ソリを走らせるマラミュートという大型犬は、何度もアイスエッジと平原の境目を行き来しているので基本迷うことはないのですが、やはり野生動物ということもあって気に食わない相手が乗ると振り落とそうとしますね。まあ余程のことがない限りは振り落とされないので安心してください」


「わかった。防寒具とか王城に行ってもらってこようかな」


「私もだ。また王都に行って買ってくるわ」


「では2人で行ってきて構いませんよ。私はその間に荷造りしているので」


「フィニは既に防寒具とか持っているのか?」


「はい。何回か行ったことがあるので、防寒具は一通り揃っていますよ」


「じゃあ私とヴィエラ様で行ってくるか。ヴィエラ様もそれでいいか?」


「あ、うん。それで大丈夫だよ」


「ではお気をつけて」



※※※



 主様とスフィアは王都の方へ出かけて行った。おそらく3時間は帰ってこないので今あるタスクを終わらせることにした。


 1つ目は現地活動班に向けて次の作戦指令。今後はヴァルト王国から神聖国クラトスに狙いを変えるよう手紙に書き、鳥を呼び寄せ足に手紙をくくりつけて出発させた。


 2つ目はドラクール様へ第三軍が近頃赴くことと、その時にドラクール様と会談する機会がほしいという旨の手紙を書いた。正確な日時は書けないが、まあ行くことが把握されていればそれで十分だろう。ドラクール様と最後にあったのは15年ほど前のこと、変わってなければいいのだが。


 そして3つ目。アイスエッジへ向けての荷造りだ。過去に行ったことがあるが故に言い切ることができる。あの場所は竜人以外は住むことができない土地だと。気温が氷点下10℃をゆうに下回る環境に適合するように発達した竜人族。その鱗は防寒性が半端ない。彼らは服を着ない(そもそも服という概念がない)が、それは防寒性が高く、なおかつ硬い鱗で体表が覆われているからだ。

 つまり言い方を変えればあの土地では鱗がないものはまともに生きられない。私も含めて第三軍の序列持ちは勿論鱗なんてないので、生きるのすら難しい環境だ。ぶっちゃけ軍の仕事でなければ行きたくない。


 自分の部屋のクローゼットには様々な道具が入っているが、その中に防寒具もあったはず。


 ガサゴソとクローゼットの奥から分厚めの服を探す。


「これ…まだ使えますね」


 出てきたのは過去に身につけていた防寒具たち。服が分厚いのは当たり前だが、そのほかにも魔力で装填できるランタンやどこでも水を温めることのできるポットなど様々なものがあった。

 とりあえずはこれら全部を持っていくことにしたが、ぶっちゃけ重い。けど念には念を入れてだ。もしものためにも持っておかなければどうにもならない。しかも今回は極寒の地を経験していない2人を連れているので彼女らが防寒を怠った場合私が対処しなければならない。

 主様の世話をするのはいいが、スフィアは1人自立してほしいというのが本音だが。


 取り出した道具達を荷物バッグに詰めてとりあえずは準備終わり。現在時間を確認するためメイド服につけている懐中時計を見て、3時間が経過したことを確認した。そろそろ主様とスフィアが帰ってくるはずだが。


 チリンチリン。


 いつものベルの音。扉が開けられた証拠だ。


「主様、おかえりなさいませ……って、なんですかその荷物は」


「なんか王城に行ったらお父様に会っちゃって、防寒具が必要ーって言ったら押し付けられた」


「それはそれは、大変でしたね。国王様の溺愛ぶりは常軌を逸していますからね」


「そうだよ!私だってそろそろ不老を迎える時期なんだよ?もうこんなにかまってもらわなくていいから」


「まあ損はないしいいんじゃないか?これだけ有れば凍死はないだろ」


「流石にそうですけど…この荷物、誰が持つと思っているのですか?」


「それは……あ」


「どうやら気づいたようですね」


「まさか私達で持たないよな…?」


「ではこの国の王女様にこのような荷物を持たせると?」


「そうなるよな……。でもこんなになんて無茶だ!」


 軽く見積もって5回分の道具達が詰まってる。なんだこの道具の量は。これらの極寒の地で使えるほどの魔法道具は希少価値が高く、一般では、ましてやアイスエッジから離れた王都では手に入らない。けれどこの量を簡単に娘に預けるとは…恐るべし国王の懐。


「私も賛成です。流石にこの量の道具は持てませんし、何より邪魔です。これらを一度全部取り出して必要なものとそうでないものとで分別しましょう。それではスフィア、任せましたね」


「え、フィニはやらないのか?」


 まさか1人でやることになるとは思わなかったスフィアが困惑を示す。


「私には馬を手配するという役目がありますので、任せましたね」


 そう言って私はいそいそと屋敷の外へ出て行った。後ろから呼び止める声(怒号ともいう)が聞こえてきたが無視した。私には別の任務があるので、ごめんね。




なんでヴィエラはドラクールに会いに行きたくなったんでしょうかね…。そういえば最近竜人に会ったような。

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