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検問1

 


 数時間後。私たち3人は屋敷を出て王都へ向かっていたが、それぞれの心境は三者三様だった。


 まず主様。主様はずっとウキウキでテンションマックスだ。

「王都ってどんなとこかなぁ」

とかいっているが、あなたの故郷だろとツッコみたくなる。


 そしてスフィアは、楽観視していた。たしかに主人であるヴィエラに万が一のことがあれば責任を追及されるのは護衛である私たちだ。けれど、そもそも問題が起こる確率は低く、仮に起こったとしても自分やアンドレ王国でも5本に入る実力者であるフィニが居れば大丈夫だろうとたかを括っていた。


 最後に私、フィニは結構不安だった。主様によってたかってくる輩は払い除けられると思うが、主様が問題を起こしては対処が難しくなってくる。主様はずっと世間を知らずに生きてきたため、時々問題発言や非常識な行動に走るのだ。それが原因となって王都で何か起きれば私たちはなんのしようもない。ただ側から暴力沙汰にならないことを祈りつつ、見守るだけだ。ただ個人的に心配なのは女に飢えた男共で、そいつらはいい感じの標的を見つけたらすぐ誘拐しようとする。特に今の主様みたいな少し身分が低そうな者とか、発達してる年齢の時には注意して欲しい。

あとは主様の注意力が低すぎてなんとも。



「主様。そろそろ王都の城門に着きますが、私とスフィアはここで別れます。主様は衛兵に取り合って中に入れてもらってください。手順はわかりますね?」


「うん。衛兵の人に耳打ちして別室で話を聞いてもらうんだよね。王族の紋章を見せれば通してもらえるはず」


 これは主様の小さい頃の経験が役立っている。主様は幼い頃、1人で森に行ったり外出したりして色々実験していた。そしてその帰り、王都に帰るときに衛兵に「中に入れてー」と話していたそうだ。その具体的な方法がこれ。

 けれどその時は服装が豪華だったり、明らかに顔が整っていたりしたので通された可能性は否めないのだけれど。


「それで通れるのならばそれでいいです。いざとなったら私が交渉しますから、せめて話し合いには持ち込んでくださいね?」


「わかった。じゃあまた中で会う…ことはないけど護衛を頼むね。信頼してる」


「かしこまりました」


「おう、気をつけてな」


 そう言って主様は先に城門の方へ向かっていった。


「なあ、あんなんで本当に通れるのか?」


「わかりませんが、主様の言うことを信じるしかないでしょう。私たちはこの国の住民票を持っているため素直に通れますが、王族は持っていませんから」


 そう、私たちは何故通れるのかと言うと住民票という制度があるからだ。住民票は主に人型の生きている種族に渡されるもので、産まれると同時に発行することが義務付けられている。

 理由としては人間国からのスパイ対策と犯罪者の炙り出し。人間が悪魔や死霊に変装できることはないが、エルフなどの人間と形が近しい種族には幻影魔法でなりすませてしまう可能性がある。耳の形を変えるなんてことは私でもできることだし、念には念を入れての対策だ。

 そして犯罪者の捕縛。この住民票には逃亡した犯罪者を捕まえる意図もあり、住民票を見せてもらうことでその者の犯罪履歴や略歴がわかるようになっている。


 そして裏側の事情。実際、この住民票でスパイや犯罪者を捕まえたケースは非常に稀だ。多分10年に1回ぐらいのペース。明らかに燃費が悪い。でもこの効率の悪さより、国民が安全に暮らせることを重視して実施されている。

 

 どういうことかというと、この検査は国民の目が届くところで行われており、国民が「あ、この街には犯罪者や人間はいないんだな」と安心することができる。仮になんの検査も行っていなかったら、国民は隣の住民がヤバい奴なのではないかとずっと疑いながら過ごすことになる。だからこの不安を国民の目の届く方法で解決するには、この制度がベストだったというわけだ。


「だな。けどよ、フィニは住民票持ってんのか?」


「もちろん持ってますよ。10個ぐらいは」


「10個⁈」


「声が大きいですよ。もう少し落としてください」


「…すまん。だがなんでそんなに持ってるんだよ?1人1個までしか発行は認められていないはずだぞ」


「そんなの決まっているじゃないですか。暗殺のためです」


「でも…」


「これ以上は何も喋りませんからね。知りたいなら勝手にどうぞ」


「…いや、遠慮しとくわ。なんか危険な道に手を出しそうな気ぃするから」


「賢明な判断だと思いますね。まあこの話は一度終わりにして、中へ進みましょうか」


「ああ」


 城門の下で行われている検査を受けるための列に入り、順番を待つ。そして10分ほど経ち、私たちの番が回ってきた。


 私たちは検査を担当している衛兵に住民票を渡し、確認してもらう。


「リューゲ・グレリアさんと、スフィア・グラさんね。入っていいぞ」


「ありがとうございます」


「ありがとな」


 衛兵に挨拶をして、私たちは無事、中に入ることができた。



「おいおい、その名前誰のだよ?」


 スフィアが聞いてくる。


「誰のって、昔居たかもしれない人の名前?適当につけたからわかんないですね」


「そんなのが10個もあんのかよ。バレたりしないのか?」


「そんなことはありませんよ。存在する名前と名字を適当にくっつけてるだけなので、完全に嘘だと見抜かれたことは一度もないですね」


「そうなのか?」


「はい。もっと言えば元々私には名前がないです。このフィニという名前も先輩につけてもらったものを本名として扱っているだけです。私の生まれは奴隷でしたから、名前にこだわりはないですね」


「お前、奴隷の出だったのか…」


「そうですけど、変に気を遣わなくてよろしいですよ?私自身、コンプレックスと思っていませんから」


「そっか。ならいいんだが」


「それより、主様が出てくるようで」


 私の目線の先には城壁に付いている立ち入り禁止のドアから出てくる主様の影があった。ちょくちょく魔力探知で無事か確認していたのだが、どうやら何もなかったようで。


 私は少し手を振り、主様もそれを認識した。主様は私たちの存在を確認すると同時に王都の街中の方へ歩いて行ってしまった。


「スフィア」


「分かってる。あとは着いて行くことにしよう」


 この瞬間、王都観光が始まったのだった。



実はフィニの偽名はフィニ自身が過去に殺した者の名前だったり…。

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