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スフィアの実力


「フィニ、結局どの部屋に案内した?」


「私の部屋の隣です。流石に主様の側に案内するのは気が引けましてね」


「そっか。それよりスフィアに何やってもらう?とりあえずで地位を与えたけど、具体的な仕事内容は決まってないんだよね」


「そうですね。個人的には彼女の能力を評価して、何らかの仕事を与えたいのですが…」


「剣に長けているって言ってたよね?なら私の護衛でいいんじゃない?」


「それでもいいかもしれませんね。正直私が用事があったときに主様をずっと地下室に閉じ込めておくのは申し訳ないですし、日常でも私とスフィアの2人で護衛できるならさらに良くなりますからね」


「だね。ま、人間国側に回さないっていう時点でこうなることはわかってたけどね」


「そういうことは本人の前では言わないでくださいよ。主様が嫌われては元も子もないですからね」


「分かってるって」


「………」


「何よその疑いの目は」


「いえ、ただ単に軽蔑しているだけです」


「部下からのそういうのが1番心にくる」


「…馬鹿ですね」


「フィニに馬鹿って言われた!メモリアとかに言っちゃおうかなー」


「やめてください。メモリアに変な偏見を持たれてしまうと私の立場が不利になるので」


「お前ら…何を言い争っているんだ?」


「あ、スフィア」


 2階の階段から降りてきたスフィアが真っ先に言ったことはそれだった。


「別に言い争っているわけではありませんから」


「そうか…仲悪いのかと思ったが…」


「そんなことないと思うけど、フィニ?」


「まあ客観的に見て仲は良好ですね。スフィアが心配するようなことはありません」


「ならいいが…」


 沈黙が流れる


「…えっと、話を戻そう」


 主様が無理やり話の線路を戻した。


「スフィアはこれから私付きの護衛ということにしました。自己紹介的に剣を扱えるようだし、今の状況だとフィニが外出したときに私の守りががら空きになっちゃうから。フィニはたしかに優秀な護衛だけど、体は一つだしね」


「分かった。そうすることにしよう」


「ところでなんだけど…」

 

 主様がちょっと屈んだ。普段高飛車な主様がこの姿勢になるということはつまり……お願い事をする態度!


「なんでしょうか?」


 スフィア、あまりこのお願いはいい方向に進まないぞ?


「スフィアってどのぐらい強いのかなーって。できたら実力を見たいなー」


「主様、そんな態度でお願い事をするんじゃありません。スフィアも、あまりこの手の頼み事は受けない方が…」


「いいじゃないか。私も剣を振るうことができる機会を得られたわけだしな。で、ヴィエラ様。私は一体何をすれば」


「うーん、フィニ。スフィアの相手してあげて!」


 こうなると思ってた。


「……少しだけですよ。スフィアの実力を把握できたらそれで終わりです。いいですね?」


「分かった」


「了解した」


 すんなりと受け入れてしまったが…大丈夫だったんだろうか。


「じゃあ2人とも、戦闘ができる体制で庭の方に出よう。反動で家がぶっ壊されたら洒落にならないし」


 そう言って私とスフィア、それに主様の3人は家についている庭の方に出た。


「よし、家には一応魔法結界張っとくか。<魔法結界・物理耐性>」


「おお、ヴィエラ様はやっぱり魔法が得意なんですね。本部にいたときから噂は聞いていたが、これほどとは」


 主様が張った魔法結界は魔法において初歩的なもので、物理耐性を向上させるというもの。結界には主に3種類あるが、その中の1つだ。代表的な3つとは物理耐性強化、魔法耐性強化、その他の結界。その他には多くの結界の種類が当てはまるが、説明が面倒なので割愛。使用頻度的には今の3つは均等といったところ。特に使う結界とかはないかな。


 で、結界を使うにはやはり魔力が必要。長時間、強力な結界を大きな範囲に張り続けることが1番魔力を消費するが、まあなぜかは感覚でわかると思う。

 そして主様は今、この屋敷全体に物理耐性の結界を張った。つまりかなりの規模だ。この屋敷は小さい方ではないし、むしろ大きい方。消費する魔力は計り知れないが、主様はそれを平然とやって退けている。そういうとこがすごいんだよな。



「結界も張れたし、もう戦っていいよ」


 ほら、本人もすごいと自覚していないし。


「わかりました。フィニ、もう行ってもいいか?早く剣を振るいたいのだが」


「私はいつでもよろしいですよ」


 とは言っても私はメイド服だ。スフィアが未知の実力を秘めている以上、油断はできない。私も負けたくなからね。


「では行かせてもらう!」


 スフィアは腰から剣を抜き、私の方に突っ込んでくる。


 けれど私は直前まで引きつけて、スフィアが剣を振りかぶった瞬間に回避した。スフィアの動きは単調。ただ突進してくる闘牛を相手にしているようだ。それだと面白くないぞ。


 そう思いながらジャンプして回避した矢先、いきなり剣がこちらに向かってきていた。まだ私はジャンプ中だったためうまく回避ができず、ギリギリのところで躱すにとどまった。そして着地した瞬間、さらに一振り剣が飛んでくる。


 スフィア…未来を予測する能力が高いのか、反射神経がいいのかわからないが、センスで戦ってきているのはたしかだ。長年の経験というわけではなく、ハイエルフであることを存分に活かした戦い方。

 これはマーシャが相手するときついかもな…。

 そう思いながらスフィアの強さをマーシャ以上に認定した。


「けれど、それだけですね」


 私はその後も繰り出される連撃を躱し、スフィアは私を捉えることができなかった。


 そして1分ほどあと、私は手にナイフを召喚してスフィアの連撃を止めた。


「もう終わりにしましょう。あなたでは私に攻撃を当てるのは不可能です」


「やっぱフィニ強いね」


 主様が近づいてくる。


「くそぉ、フィニがこれだけ強いとは思っていなかった」


「まあしょうがないです。あなたにはフェイクというものが存在していませんから」


「フェイク?」


 主様が首を傾げる。


「フェイクは剣を振ると見せかけて振らないことだったり、刃先で相手を誘導してその動きを狩るというものです」


「それがないってことは…スフィアは馬鹿正直ってことか」


「そうなりますね」


「私の連撃を全て躱されたのはこれが初めてだ!大半の奴は初手で当たるし、うまく2撃目、3撃目を躱せても段々と躱せなくなっていくんだ」


「それは今までの相手が弱かったということで。というかスフィア、あなた何歳ですか?」


「30…ぐらい」


「やっぱりまだまだ幼いですね。動きから未熟さを感じました。これからは私が稽古をして差し上げるので、そのつもりで」


「はーい」


 素直に受け入れた。ではこれからはばんばん指導していくことにしよう。


「1番の本題だけど、今のスフィアはどんぐらいの敵なら私から守れそう?」


「そうですね…彼女の相性にもよりますが、ちょっとした盗賊ならいくらかかってきても問題ないと思います。しっかりと訓練された兵が相手であれば、3人と相討ちしますかね。弱くはないです。けれど私と比べたら心もとないかもしれません」


 おそらく彼女が本部に居たのには理由があるのだろう。才能は十分、けれど経験が非常に浅い。なので時間があれば彼女を鍛えようと考えた者が本部に引き抜いたのだと考えられるが、時間が取れず腐らせてしまっていた。そんなところだろう。でもありがたいことに彼女はまだ30歳なので人生のやり直しというか訓練を始めるのには遅くない時間だ。軍に入っている以上、私が責任を持って鍛えるとしよう。


「フィニが比較対象だとねぇ」


「そういえばフィニの本職ってなんなんですか?まだ知らないのですが」


「フィニ、言っていい?」


「いいですよ。明かすのも時間の問題ですし」


 このぐらいなら明かしても大丈夫だろう。


「実はフィニはね、暗殺者なの。でもその地位が凄くて、暗殺者師団の長なんだって」


「え、暗殺者師団って…あの?」


「はい」


「暗殺者師団の長と言えば、昔ヴァルト王国の切り札を壊滅させたとか…」


「そんなこともありましたね。あの山猿たちは厄介でしたから」


「そんな方がなぜメイドを…?」


「私が知りたいです」


 私とスフィアの視線の先が主様に向けられる。


「いいじゃん。私の方が地位は上だから命令できるの」


「危険思想やめてください…」


「でも別にフィニがメイドに関して不満を言ったことがないからフィニも受け入れている節はあるよね?」


「そうですけど…。だって第三軍が好きですし」


「……仲がいいな」


「そう言ってるじゃないですか。主様は暗殺師団の長にメイドになれと言うような馬鹿ではありますが、仕えて損はない主ですよ」


「あ、愛が強いな」


「愛じゃないですよ。そんな変な解釈しないでください」


「フィニに仕えて損はない主って言われた……」


「おーい、主様?大丈夫ですか」


「仕えて損はないって……」


「こりゃダメじゃないか?壊れた時計見たいな感じになってるぞ」


「はぁ…スフィアも中に戻りましょう。主様は後で直しておくので」


 ちなみに、この主様を直すのに夜までかかりました。




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