新しい仲間
お久しぶりです。ここからが第二章。ぜひお楽しみください。
タールウェグ攻城戦が終わってから数日。この事実は王都の方にも響き、私たちの生活は変わった……というわけでもなかった。たしかに長年にわたってアンドレ王国に不安をもたらした大都市が陥落した事実は大きかった。今すぐに攻められる可能性は低くなったと国民たちも安心している。
そして第三軍の地位も少しながら向上した。ただ単なる国王の気まぐれで作られた組織ではなく、しっかりと国の守り手たる威厳を見せた。だがそれが私たちの日常に何か影響を及ぼしたのかと言えばそうでもない。結局のところ、あれはただの軍事作戦だったのだ。それ以上の意味を持たない。
けれど、私たちの予想とは裏腹に1つの大きな変化が訪れようとしていた。
「増員、ですか?」
「そうみたい。けど今度は1人だって」
椅子に腰掛けて優雅にお茶を飲みながら、主様によって国王様からの手紙の内容を知らされる。戦いの後、ちょっとした休憩が欲しいなとは思って3時ぐらいにお茶の時間を設けたのだが、それが定着しつつある今日この頃。主様があっさり受け入れ、さらには気にいるとは思っていなかった。
「1人ですか。特に心当たりがあるわけではないのですが、どういった目論見なんでしょうかね」
「さあ?けどこれは当初から決まっていたことだったらしいね。いつか時が来たら人を寄こそうとかなんとか言ってたし」
国王様とそういう会話をしたことがあるのか。
「で、その方はいつこちらに来るのですか?」
「そろそろじゃないかな。遅くても1週間後?早かったら今日とか」
トントントントン。
扉が叩かれる音がした。来訪か。
「あれ、これが例の方ではないですか?」
「かも?とりあえず出てくれない?」
「わかりました」
休憩中だとはいえ服装はメイド服。本職の1つにメイドがあるので言ってしまえば正装だ。
扉が叩かれるのを察知して席から立ち上がり、来訪者を歓迎する。
「この屋敷に第三軍軍団長はいるか?今日からここに配属になったのだが、是非お目通りをしたい」
扉を開けて、目の前にいたのはエルフ耳を持った女性だった。顔は整っているが、身長も相まって少し幼いように見える。主様と同じぐらいか、少し背が小さいぐらいか。服装は青色のマントを羽織っており、その腰には剣が顔を覗かせていた。
ちなみに、私は平均身長ぐらいなのだが、主様は平均身長よりも一回り小さい。森厳騎士団団長であるメモリアは平均身長よりも10センチほど高く、戦場でもかなり目立つ背をしている。
「お話は伺っております。私はメイドのフィニといいます。以後、お見知りおきを(ここの改行は入力ミスと思われます)
」
「ああ。よろしく頼む」
「軍団長は在宅ですよ。中にいらっしゃるのでどうぞ中へ」
「失礼する」
そう言って中へ通した。魔力感知でも特に怪しい雰囲気はなかったので心配はしていないのだが。でもひとつ心配事がある。
それが来訪者の種族はイマイチよくわからないこと。
見た目上の種族はおそらくエルフだが、どこか雰囲気が違う。魔力の質も通常のエルフとは異なっている。
魔力はその生物の核から溢れ出る力のこと。その『量』が異質ならば見逃すことができるが、『質』が通常のエルフと違うのであれば話が変わってくる。基本、種族によって決まった波長の魔力を持つ。その力の大小に差はあれど、本質は変わらない。なので見た目と流れ出る魔力に差があるというのは本来起こり得ないことなのだ。
ただ、私にはまだ心当たりがある。けどまだ確証には至っていない。
「お、あなたが新しく第三軍に配属された人?」
「はい。名をスフィアと言います。あなたが…第三軍軍団長でありますか?」
「うん。この軍の長を務めているヴィエラ・アンドレです。よろしくね」
「よろしく…お願いします」
「よし。とりあえず椅子にかけていいよー」
主様、初めてこの屋敷に私と主様以外があがったことでテンションがおかしくなってるな。
私はそんなことを思いつつもスフィアにお茶を用意した。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言われたが私は小さく会釈をして流れのまま主様の後ろに立った。
「さてと、実はまだあなたのことがよくわかっていないから、軽く自己紹介してくれるかな?敬語とかは気にしなくていいよ」
「わかりました。ここに来る前は軍の本部に所属していて、久しぶりに4騎士団3軍団に配属されて嬉しく思っている。種族は…うまく説明できないが、エルフの上位互換ということで認識しといてくれればそれでいいです。職業は剣士、剣の腕はぼちぼちといったところだ。一応、第三軍が発足してからこの2ヶ月の間に何をしてきたかは知らされている」
いきなり人が変わったように喋り始めたな。敬語がネックとなっていたのか?さっきまで言葉に詰まって、たどたどしい感じだったから敬語には慣れていなさそうだ。
というより種族はハイエルフ、もっといえばエンシェントエルフかもしれないな。
エルフ族は世間的にいえばエルフとダークエルフの2種族がいるとされているが、それは半分正しくて半分間違っている。たしかに大まかな内訳はそうだ。けれどエルフはさらにそこからハイエルフとエンシェントエルフにもう1回枝分かれする。
ハイエルフとは、生まれながらにしてエルフよりも特出すべき能力を持った者のことを指す。つまり基礎能力がずば抜けて高く、極めて優秀な者たちだ。けれど、その分発生する確率は非常に低く、天文学的確率とも言われている。
そしてエンシェントエルフとは、長年の時を経たエルフの上位種族。エルフの中には稀に、本来寿命を迎えると同時に転生を果たし、新たな莫大な寿命を得る者がいる。彼らの能力も高く、その常軌を逸した寿命から鍛錬に励み、英雄視されることも多々あるほどだ。
ハイエルフとエンシェントエルフの違いは主に2つ。先天的に得た種族か後天的に得た種族か。そしてエルフの上位種か突然変異種か。
ハイエルフは幼いときから才能を開花させ、ハイエルフと認知され始める。けれどエンシェントエルフは寿命が尽きる直前までは自分がエンシェントエルフになるかどうかがわからない。エンシェントエルフになるためには一定の強さを達成しなければならないと言われているが、実情は不明。なぜなら長い間エンシェントエルフは存在が確認されておらず、そもそも寿命が尽きる直前に変化するのか、そのような種族が存在するのかすら明確な根拠があるわけではない。
そしてもう一点。エンシェントエルフは一般的にエルフの上位種とされているが、ハイエルフは突然変異、ギフテッドの一端だと言われているのも違いの1つだ。
まああくまで仮説に過ぎないのでわからないが。
「本部からなのかぁ。わかった。とりあえずスフィア、あなたが今日泊まる場所はこの屋敷。部屋は2階に用意してあるから後で案内してもらってね。案内はフィニに任せる」
「了解しました、主様」
「部屋はいいんだけど、それよりもまずはスフィアの立場を決めないとだよねえ。私的にはスフィアを人間側に派遣するってのは愚策だと思うし、この屋敷にいる方がいいと思うんだけど」
私に意見を求めてくる。
「そうですね。人間国側にはマーシャを中心として既にまとまりが出来上がりつつあるので、そこにスフィアさんを入れるのはあまり良い手では無いと思います。せっかくスフィアさんのような優秀な方が来たのであれば、能力の潰れない方、十分に活躍できる方を選んだ方を選んだ方が得策です。なので、スフィアさんには副官かその1つ下の地位を授けるのが無難かと」
「副官の立場はフィニから動かす気はないから却下。よし。スフィア、君には第三軍第3位の地位を与えよう」
「ちょ、いきなりそんな地位を授かってよろしいのですか?」
飲みかけていたお茶を机に置いて、慌てた様子で聞いてくる。
「いいよいいよ。そこがベストだと思うしさ。第三軍の活動記録を知っているならわかると思うんだけど、私たちは人間国側に軍を送ってて、そこでは既にまとまりができているの。だから新参者である君を人間国に送るのは気が引けてね。じゃあせっかくだしここにいてもらおう!って事でこの地位を与えようと思う。だから訂正する。ここが君が今日から暮らす屋敷だ。君なら受け入れてくれるよね?」
有無を言わさずに勢いで押す感じ。まるで国王様との会談の時みたいだな。親の意見を言わせる時間すら取らずに自分の要望だけ通す。わがままだが、それが1番楽な道であることはたしかだ。乱用しなければ、の話だが。
「わ、わかりました。別に断るデメリットもないわけですし。第三軍第3位スフィア。それが今日からの私の軍籍です。改めて、よろしくお願いします」
「よろしくね。まずはフィニ、スフィアを部屋に案内してあげて。空き部屋は多いし適当なところに案内しといて」
「了解しました。ではスフィアさん。私についてきてください」
「わかりました」
そう言ってスフィアさんは自分の荷物を持ってついてくる。
1階から2階に上がる階段を登る途中で、私は気になっていた疑問をスフィアさんに投げかけることにした。
「スフィアさん。1つお聞きしてもよろしいですか?」
「答えられることなら何でも。それより敬称はつけなくていいです。フィニさんの方が序列は上ですし」
「では私もフィニと呼んでいただいて構いませんし、敬語は全く入りません。その方がしっくりきますので」
「そうですか。で、質問というのは?」
「あなたの種族に関してです。あなたは先程エルフではないが、エルフの系列にいるとおっしゃいました。私の予想ではあなたはハイエルフなのではないかと思うのですが、答えていただけますか?」
「そうだな。この職場に来た以上隠すこともないだろう。私の種族は一般的に言うハイエルフだ。フィニは元から気づいているようだったがどうやって?」
「私はこの屋敷のメイドであり、第三軍の副官でもあります。けれどまあ、本職は別にあると言って差し支えないでしょう。職業柄、魔力探知するのには長けておりますので」
「そういうことだったか。それにしても、あなたで2人目だよ。一目見て私をハイエルフだと見破ったのはさ」
「お褒めに預かり光栄です。さて、話が逸れましたがここがあなたの部屋です」
私が通したのは私の部屋の隣。主様の部屋は廊下の反対側だが、従者である私とスフィアは両方とも同じサイドにしようかなといった感じだ。
「とりあえずは荷物整理など好きなように部屋を改造してもらって構いませんよ。私の部屋は隣なので、何かありましたら呼んでいただけたら駆けつけますよ」
「分かった。では部屋の改造が終わるまではフィニたちも下でくつろいでくれ。すまないな、世話を焼いてしまって」
「いいえ、気にしないでください。あなたと私は同僚ですから。後でお話しでもしましょうね」
「ああ、楽しみにしている」
そう言って私はスフィアを部屋に置き、主様の方へ戻っていった。
ちなみにスフィアが敬語に慣れていない理由としてはハイエルフなので敬語を使うようなリスペクトする相手がいなかったらことが挙げられます。




