タールウェグ攻略戦1
「………マーシャ、準備の方はできている?」
「あ、副官。おはようございます。準備はできていますよ。死霊騎士たちも闘気がみなぎっているようで」
「それは良かった。皆さん生気に満ち溢れているようで」
死霊騎士たちに挨拶をする。
「フィニ殿、我らは既に死んでいるものたちなので言うなれば死気ですな」
「「「あはは」」」
やっぱりこのギャグは時代関係なく通じるんだなとしみじみ。
「意外にもフィニ殿は冗談がお好きなようだ。この戦が終わったら少し話でもしようじゃないか」
「時間があればお付き合いしますよ。けれど、今は目の前のことに集中しましょうか」
「ここにいる第三軍の者たち!一度私の声に耳を傾けてください!」
遠くにいるものにも聞こえるように声を張り上げる。なんだかんだ500人を超える部隊に声を届かせるにはこちらが大きな声を出した上で相手にも耳を傾けてもらわなければただの雑音となってしまう。
「私たちは今からタールウェグの正門左右にある城壁を同時に攻略します。なのでまずは2部隊に分けるのですが、暗殺者は私の方に、騎士たちはもう片方の方に散らばってください」
そう言って2つに分かれてもらった。
「けど少し暗殺者の方が少ないか」
「副官、どうしますか?」
マーシャが耳打ちしてくる。
「問題ありません。今分かれてもらった部隊で行きましょうか。数が少ないと言っても100ぐらいなので。暗殺者ならばある程度の城攻めはできるはずです。…では開戦が合図され、私たちの左側にいる正門攻略組が出陣したら私たちも行きましょうか。暗殺者組は左から、騎士たちは右側の城壁から攻めてください。攻略し、城壁の裏側から正門を開けることが私たちの役目です。いいですね?」
「「「おおーーー!」」」
ズダズダズダ…。私たちの歓声の裏に、大きな足音がする。隣にいた先陣が動き出したようだ。
「では行きますよ!第三軍に初の戦果を届けようではありませんか!」
「「「うおおーーーー!!!」」」
一足先に出発した先陣に着いていく。森を抜けると、今回の目標であるタールウェグの全貌が見えてくる。
立派な正門に高さ15メートルの城壁。そこには私たち王国軍が長年この都市を奪うことのできなかった理由が詰まっていた。
けれどそれはあくまで見た目だけ。今回の攻略は今までとは違う。城壁の上にいる衛兵たちは明らかに間隔が空きすぎている。つまり人員不足。単純な兵の数だけで見るならこちらの方が多い。だが、そこに民兵を加えられると怪しくなる。そのため私たちにも相手に対応されないよう、ある程度急ぎで攻略する必要がある。
「ここで予定通り分かれます。暗殺者は私についてきてください。スピードを上げるので遅れないよう」
「え、フィニ副官⁈」
後ろからマーシャの声が聞こえるが無視する。私の後ろにいるのは全員ではないが私の知った顔だ。暗殺者師団所属の者が多くいる。彼らならば私に着いてきてくれる。
スピードを上げ、私が最初に城壁に辿り着いた。大きな城壁が目の前には広がる。
「下に敵影あり!撃ち落とせ!」
城壁の上からは怒号に近い命令が下されている。
「くそっ、主力部隊は調査に派遣されていないっていうのに!<火球>(ファイヤーボール)!」
火球か。まあ典型的な火属性魔法だ。正直飽きているので特に気にせず登るか。
壁は15メートルあると言っても全然登れる範囲だ。腰からナイフを手に取り、壁にあるちょっとした凹凸にナイフを刺しながら登っていく。
魔法?対魔法結界で十分だ。
「ここだ!女が1人登ってきたぞ!」
騒がしい。近くにいた衛兵が私の方に寄ってくるが時すでに遅し。私は現に城壁を登り終え臨戦態勢に入っていた。
あ、でも戦う前に下に援助だけしておくか。腕にあるロープを下の方に垂らし、適当にそこら辺に巻き付けて固定しておく。後はこのロープを守るように戦い、上の方に数名来たら自由に暴れる方針でいいだろう。
「来いよ、ゲスが」
小さくつぶやくと、敵が3名、踏み込んできた。
「死ねぇ!」
振りが大仰。見え見えの上段斬りに誰が当たるか。剣を交えるまでもなくナイフで腹を切って死亡。残り2人。
「<斬撃飛翔・小>」
ナイフ大の斬撃を放つ魔法を唱える。出現した斬撃は7個。それぞれが好き勝手な方向に散らばり残りの2人を貫く。
一度周りを見渡して次の獲物を探すが私を警戒してなかなか踏み込んでこない。距離にして3メートルはあるだろう。仕掛けてこないならばこちらから無理に行く必要もない。仲間がこちらに登れるだけの時間があればいいのだから。
前方は警戒しつつも少しロープの方に目をやる。ミシミシと音を立て揺れているため誰かが使っているのは間違いない。あと10秒あればいいだろう。
依然敵は動く気配なし。一瞬で味方を3人も屠られたからか怯えて足がすくんでいる。そんなことをやっていたらこちらも後援がくるもの。甘すぎる。
「副官…早すぎですよ」
「そこは気にしないことです。それより、既に3人が登ってきたため私はここを離れて正門の開放に向かいます。3人もいればロープを死守できるでしょう」
そう言って私はすぐにその場を離れて正門の方に向かった。時間が勿体無い、というか戦場で会話をすると集中力が途切れるからやりたくない。
そんなことを思いつつ正門に繋がる道に居る人間たちを殺していく。城壁の上にいる敵から城壁の下で正門を守っているものまで。おそらく30人は殺しただろう。全員が弱いため口ほどにもない。これならマーシャたちもあまり苦戦していないだろう。
正門の前に到着すると、さすがに敵が20人がかりで武装していた。一筋縄ではいかないか。
「邪魔だ。<火球>」
軽く放ったはずの魔法でも5人は文字通り吹っ飛んでいった。あとの15人はナイフで一太刀。あっという間に死体の完成だ。城壁の上からは何も増援も来なかったし、こんなに簡単にことが運んで良いものかと疑いたくなる。
正門に邪魔も居なくなったので足に付けていた爆弾を正門に設置し着火させる。爆弾には大量の火薬を詰め込んだため石でできた正門ですら楽々吹き飛ばした。
正門が開けば勝負はついた。外側から攻略しようとしていた森厳騎士団の者たちが一気にタールウェグ内部に雪崩れ込み、市街地を破壊していく。城壁の上にいた兵はそれを止めようと下に降りるが、圧倒的な勢いと数の前では歯が立たず撃沈。なんなら下に降りたことが原因で城壁の守備が薄くなり第三軍に者たちが城壁を完全に攻略した。
「勝負ありか」
勝負は既に確定したと言っても過言ではないが、私にはまだ仕事が残っていた。それはタールウェグを治めている最高指導者を生捕りにすること。主様やメモリアに捕まえろと言われた訳ではないが偉い立場の者は何かと利用価値がある。拷問するもよし、人質して交渉材料とするもよし。これ以外の第3の道もあるかもしれない。いずれにせよ、捕まえて損はないのだ。
「急がないと」
アンドレ王国軍が戦っているのを横目に私は市街地を駆けて、城主がいるであろう城の最上部を目指す。城を1から攻略していると時間が足りないのでスキップさせてもらった。壁を登れるところは登って、破壊できるところは正門と同じく爆破して進む。自分で言うのもなんだが相手からすればたまったもんじゃないだろうなとしみじみ。だって入り口の守りを固めても意味がないのだから。
「ここの部屋か」
城の最上部。テッペンにあたる場所だが、ここにはまあ豪華な執務室があった。仕事部屋というよりは趣味部屋だ。タールウェグは属するヴァルト王国から多額の支援金を貰っていることが調査にて判明している。それは我々アンドレ王国からの侵攻を防いでいるという謝礼という意味と、タールウェグを裕福にすることで防衛線も強くなるというヴァルト王国中枢部の思惑があってだろう。
それらの金銭はもちろん領主にも入り、それはポケットマネーとなりこの執務室に使われているというところだろう。見る人によっては薄汚い商売だとか思うかもしれないが、私は別に興味がなかった。いくら薄汚くとも死んで仕舞えば皆一緒だ。
執務室のガラスを豪快に蹴り飛ばし中に侵入する。パリーン!という音ともに散らばったガラスはたまたま中にいた男に直撃した。見ると、男は足のふくらはぎの部分にガラスが突き刺さり筋肉が切断されているのか動けそうになかった。私はそれを軽蔑するような目で見下ろした。
「お前、タールウェグの領主は誰だ。知っているなら正直に言え」
「そ、それは私だが…」
「そうか。この城には衛兵は何人いて配置はどうなっている」
「この階には私だけで、それ以外には40人ぐらいだ。頼む!私だけでも見逃してくれ!知っている情報は全て与えるから!」
「黙れ。お前は私の質問に答えていればいい」
私は男の足にナイフを突き刺し完全に身動きが取れないよう足を潰した。
「あ、あぁぁぁ………!」
痛みに悶えて上半身を唸らせ、地面に這いつくばっている。
「<束縛>(リストリクション)」
念の為飛び降りて自殺されても困るので上半身も縛っとく。
「お前は私が帰ってくるまでの間、ここで大人しくしていろ。自殺は許さない」
そう言って私は執務室から出て城内を掃除しに行った。
やっと本格的な戦闘描写が書けて嬉しい…。
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