夜
もしかしたら今日中にあと一話あがるかもしれません。流石にこれだと短いので。
「主様、戻りました。メモリアも……って、なんか仲良くなりましたか?」
たった数十分席を外しただけでテント内に漂う雰囲気が変わっている。
「ああ。そこの人に友達になれって言われてな」
そう言ってメモリアは主様の方を見る。
「なるほど。主様、失礼ながら強制したのではありませんよね?」
「まさか。あくまでメモリアの意思ですー。私はただ友達にならない?って言っただけ」
「事実だな。まあいいじゃないか。別に何か不利益が生まれているわけじゃないんだし。なんなら私はヴィエラと仲が良くなっていい気分だぞ」
呼び方もヴィエラに変わってるし。
「それならいいですけど………。話を変えると、無事第三軍の者には作戦を通達することができましたよ」
「それは良かった。どうだった?久しぶりに彼らを見て」
「同じ部隊として仲は良くなっているようです。ここ2ヶ月ほどの作戦でしたが2ヶ月も同じメンバーと一緒に過ごしていればまあ仲良くなるかなって感じです」
「じゃあ…嫌な話もうちょっと活動してもらっても大丈夫かな?」
「おそらくは。しかし流石に1ヶ月ぐらいで切り上げさせたほうが良さそうです。士気もありますが敵に勘付かれ始めるのはこの先1ヶ月にあってもおかしくありません」
「了解。それはおいおい話そうか。メモリアのいる前で話すことではないし」
「そうしてくれると助かるな。今日はもう遅いしテントで寝るといい。このテントの裏側にあるテントを自由に使ってくれ」
「ありがとう、メモリア」
「ああ。ヴィエラも、明日は言わば初陣の日だ。お前が目の前で人が死ぬところを目にすることはないと思うが…帰ってくるときに何か思うことがあるかもしれない。そのためにも心の準備をしておけ」
「はい。ではいい夜を」
※※※
「……ここのテントですかね」
「多分ね」
急ぎで作られた仮設テントの割にはちゃんとしている。それは上辺だけ、言ってしまえば上級士官だからかもしれない。下級士官の方はどのようなテントになっているのだろうか。私がまだ下っ端の頃はこのテントより一回り小さい場所で6人が寝泊まりしたものだ。正確には私はそれが嫌だったから外で寝泊まりしていたのだが。
流石に男ばかりがいる戦場からやっと帰ってきたと思ったら、夏場の男のむせかえるような臭いに揉みくちゃにされるのはごめんだった。今思えば、女1人に男5人がいるような環境でよく問題が起こらなかったものだ。…いや、起こっていたのかもしれないが私が知らないだけか。
まあそんなテントから離れて外にいるのは実に開放的だった。夜風にあたり、1日のことを思い返す。それが戦場での私のルーティーンだった。そのルーティンの最中にメモリアに出会ったことが何回かあるのだが。
「広いね。ベッドも2段ベッドで、ランプと机があるなんて」
「これは待遇の良さが出てますね。主様は気にしていませんがあなたは王族です。そこらへんの下級兵士と同じような扱いでは森厳騎士団がなんて言われるかわかりません」
「そこらへん気にしてないんだけどなぁ」
「主様は良くても世間が許さないんですよ。さ、早く寝ますよ。明日は朝から合戦なんですから」
「そうだね。フィニはいつぶりの合戦なの?」
「わかりません。3年ぶり…いや、正式には10年ぶりぐらいでしょうか」
「正式には?」
「記録にないものがありまして。機密なのでいくら主様でもお伝えできません。知りたかったら国王様にお願いするのがいいですよ」
「いや、いいよ。そこまで知りたいわけじゃないし、お父様に借りを作るのは癪だし」
「はぁ、本当に国王様のことを毛嫌いしてますね」
「いいじゃん。これは王族としてではなく家族としてだから、フィニに口出しされる筋合いはありません」
「はいはい。主様は上と下、どちらで寝たいですか?」
「上」
「では私は下で」
そう言って主様は2段ベッドの上に梯子を使って登っていった。
「主様、私は起きたらすぐに戦場へ出向きます。起こしますが、すぐに起きない場合は放置しますからね」
「はいはい」
「ではおやすみなさいませ」
私はランプを消して、自分のベッドに潜り込むのだった。




