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作戦会議

  


 バイフォレストを出発し、タールウェグに向けての進軍から3日目。予定ではこの日の夕方に着くはずだったが、少し早まって昼ごろには着くことができた。


「このあたりに本陣を敷く。テントを張るが、あまり大きな音はたてるなよ」


 メモリアの指示を基にタールウェグが見える森林の中に本陣を設置した。本来ならもうちょっと前に本陣を置くはずだが、今回は主様がいる。ここならいざというときにも主様だけでも離脱することが可能だ。

 

「本陣、設置し終わりました」


「ご苦労。伝令、各班のリーダーを集めてくれ。作戦を共有する」


「了解です」



「……素早い行動ですね」


 テントの中に入りながら言う。


「ああ。戦場では雰囲気が大切だ。雰囲気というのは軍の引き締まり具合に直結する。もし、私がここで怠けて行動を起こすのが遅くなってしまったら、おそらくこの戦は勝てない。私の怠けが軍に伝わりいざという時に力を出さないものが多く出てしまう。だからこそ、私がしっかり気を引き締めていくことで軍に緊張が生まれベストパフォーマンスが出せるようになる」


「これは先輩としてのアドバイスだが、雰囲気というのは私たち最高指揮官が最も作りやすく、壊しやすい。その意味は頭のいいヴィエラさんならば理解してくれよう?」


「……はい」


 雰囲気というのは士気とは似て非なるものだ。士気は戦に対する思い、ムードだ。しかし雰囲気は戦いの場ではない場所でも発生する。今のような戦闘への準備時間でもそう。普段会話している時や、普通に会話しているときですら雰囲気は発生する。つまり生きているかぎりずっと雰囲気と共に過ごしていくのだ。


 そんな雰囲気という道具を簡単に扱えてしまう存在が主様やメモリアにあたる最高責任者、最高幹部というものだ。


「騎士団長様、第三軍も含め各班のリーダーに集まってもらいました」


「ああ。テントの中に通せ」


「御意」


 そう言ってメモリアは椅子に腰掛け、主様にも座るよう促す。主様も静かにお辞儀をしながら椅子に座った。私はというと…テントの隅で1人立ってる。ま、まあ。あくまでメイドですし。


 主様とメモリアが座り終わると、タイミングを見計らったかのように呼び集められた各班の代表者たちがぞろぞろとテントに入ってくる。


「ついて早々集まってもらって悪いな。早速だが、今回のタールウェグ攻めの作戦を話していこうと思う。ユリ、地図を」


「はい」


 ユリさん。どっから出てきた?ぼーっとしていて気配察知を行っていなかったらしい。


「これがタールウェグを上から見た図だ。知っての通り、タールウェグは城塞都市だ。我々にとって壁となるように建てられている。そのためあまり正面からの突破はしたくないが……これも城攻めにおいて避けて通れない道だ。正面から正門をこじ開ける班として4班から7班を起用する。予備班として3班を。リーダーは…そうだな。ユリ。任せてもいいか?」


「かしこまりました」


 ユリさんが…。薄々感じてはいたがかなり万能な騎士団員なんだな。


「それで、正門攻めに参加せず城壁を登っていく班が欲しい」


「メモリアさん。その仕事は第三軍が引き受けます。フィニをリーダーとして」


「分かった。だ、そうだ。いいか?」


 各班の代表に確認する。…異論はないようだ。


「じゃあフィニ。よじ登って中から正門を開けてね」


「そんな簡単そうに…。簡単じゃないですからね。引き受けますけど」


「それならよかった」


「よし。それでは私からもフィニ殿に絶大な信頼を寄せて、頑張ってもらうとしよう。第三軍が城壁を攻略したら残っている班で攻めてフィニッシュだ。タールウェグは奪取ではなく破壊でもって制圧と見做す。よって都市にいる人間は全て殺し、最後には城に火をつけろ。いいな?」


「「「かしこまりました」」」


「では解散とする。各々自分の班員に詳細を伝えろ。決行は日の出だ」



 あっという間の作戦会議だった。理論値に近い時間で作戦を完璧に伝えてみせた。メモリアも最高幹部なんだと改めて実感する。


「ふぅ。やっぱり伝令の時間が1番張り詰めていていいな」


「学びがありましたよ。これこそが最高責任者としての姿かと」


「ならよかった。第三軍がどのように編成するかわからないが、規模が大きくなったら森厳騎士団や他の騎士団のように班ごとに分けることをお勧めする。オーソドックスが1番いい」


「ちなみに森厳騎士団は具体的にはどのように分けているのでしょうか?」


「場合にもよるが大体は10班までに分けて、1から3は私の手持ちにするようにしている。予備隊に回したり自ら率いたりする際に便利だからな。…あまり差別する気はないが、1から3班は精鋭を選りすぐるようにしている。ときどき場を設けたり、私が直接オファーしたりな」


「なるほど…」


「あとの7班はもうランダムだ。大体同じ数になるよう適当に分けている」


「フィニ、どう思う?」


「私に聞きますか?」


 間髪入れずに返答する。


「私もフィニの意見は知りたいな。この分け方についてどう思う?」


「まあ理にかなってはいると思いますよ。私もメモリアの立場になったらそうすると思いますし」


「じゃあ暗殺者師団も?」


「それは機密につきお答えできません。けれど編成の仕方は違うと言っておきます」


「ケチだなぁ。でも上官権限で口を割らせるのもあり…?」


「そしたら辞職願いを出させていただきます」


「ごめんって」


「あははは。いつもそんな感じなのか?フィニとヴィエラさんは」


「そうですよ」


「それは笑いの絶えない職場だな」


 4人(ユリさんも含め)笑っていた。そんなところでちょっとだけテントの幕が揺らされた。


「どうした?」


「失礼します。第三軍の援軍と見られる方が来たのですが…通してもよろしいでしょうか?」


「ヴィエラさん?」


「通していいです。おそらくはこちら側で活動していた者たちなので」


「了解しました」


「では主様、誰かさんのせいで城壁攻めをすることになったので第三軍の者と顔を合わせてきますね」


「いってらっしゃい。なんか悪意があったのは気のせいだよね?」


「気のせいです。では行ってまいります」




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