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出陣



「フィニ……そんなに立場偉かったんだね」


 部屋に戻ってからの主様の開口一番はそれだった。


「そうですけど別に気にしなくていいですよ」


「でも……無理やりメイドになってもらったし…フィニの人生だって有限だし」


「だから気負う必要はないですよ。まだまだ寿命はありますし、私もこういうごく普通のメイドのような一般的な仕事をしてみたいとは思っていましたから。暗殺者師団の長と言ったら幹部と同じぐらい偉い立場ですから、偉くなり過ぎたなーと思っていたところで主様には拾っていただきましたからね。感謝はしていますよ」


「そっか。フィニは私のメイドでいいの?」


「いいですよ。向こう100年ぐらいは大丈夫です」


「…部屋の片付けする?」


「しましょう。外で待たせているんですから、急がなければなりませんよ」


 と言っても、あまり部屋は散らかっていないからすぐ片付けは終わりそうだ。散乱しているのは主様の荷物ぐらいで、私の荷物は部屋に入った時と姿が変わっていないわけだし。


「…よし。片付いた」


「お疲れ様です」


「行こっか。…また来れるといいんだけどね」


「来れますよ。主様とメモリア様はかなり仲良くなったようですので」


「なら招待してくれるか。それも楽しみにタールウェグを攻略しに行こう!」


「はい」


 主様はかなり楽観的な思想も目立つが、それ以上に現実的な思想の持ち主だ。上に立つものとして申し分ない思想を持っていることは臣下として喜ばしいことだ。



※※※



 バイフォレストの広場はなかなかの広さがある。それは森厳騎士団の本部の目の前だからということもあるが、それよりも出陣の時に使うという側面が強い。最近はあまりこの用途で使われていなかったが、一昔前の時代は一年に何回も使われていた。出陣のたびにパレードが催され、軍の士気はマックスの達した状態で行軍し、勝報と共にかえる。それが日常だった。


 そんな日常が今、復活しようとしていた。私と主様が外に出る頃にはすでに出撃の準備が整っており、あとは私たちとメモリアを待つだけ。みたいな状況になっていた。


「久しぶりに見ました。この広場に何万という兵が集っている光景を。もう私の人生で見ることはないと思っていましたよ」


 それにしても、メモリアは宣言以上に人を集めてくれたかもしれない。前日の話では5000が限界と言っていたが、実際には6000弱いそうだ。


「私も初めてな気がする。こんなに武装した兵がいるところを見るのは」


「あはは。ヴィエラさんはこれが初陣だもんなぁ。緊張しているか?」


「メモリアさん!緊張はしていませんが…予想以上に数が多くてびっくりしています。森厳騎士団と第三軍のもの合わせて6000。それを指揮官としてまとめると考えると何かに気圧される気がしますよ」


「まあまあ。意外とリラックスしていれば開戦からはすぐだ。もっと言うなら今回は急襲。1日も有れば結末は見えるだろう」


「それなのにタールウェグはなかなかの大都市ですからね。壊滅できたら相当でかいですよ」


「もう。フィニもプレッシャーかけないでよ」



「それはそうと、そろそろ声をかけたらどうですか?」


「声をかけるって、誰に?」


「決まっているじゃないか。この6000の兵にだよ」


「え、私が?」


「もちろんです。この作戦の立案は主様ですよ?最高指揮者は主様とメモリアの2人ですが、言ってしまえば主様がメモリアを誘った形です。発起人が他人に任せてどうするのですか」


「わかった。メモリアさんもそれでいいですか?」


「もちろんだ。存分にやってくれていいぞ」


「では」


 主様が前に出て、声のよく通るよう拡声魔法を使って皆に呼びかけを始める。


「森厳騎士団の皆さん、第三軍のものも含めて、はじめまして。第三軍軍団長のヴィエラと言います。まずはこの数の兵士に集まってもらいとても嬉しく思います」


「…とまあ、堅苦しい礼儀は必要最低限で。これからあなたたちにはヴァルト王国タールウェグに侵攻してもらいます。ここ数十年間、目立った戦闘のない森厳騎士団の兵士たちは存分に力を発揮してください。訓練していてもその力を敵に向けなければ意味がありません。第三軍のものも、忠義を尽くすように。私からの命令は一点です。今回は奇襲とはいえ、気を抜いてはなりません。絶対に死なないように。気を抜いて死ぬことが1番カッコ悪いですよ?ではこの地に勝報を持って帰ってきましょう」


「「「おーーー!!!」」」




「なあ、ヴィエラさんってこんなこと言えたのか?」


 メモリアが問いかけてくる。


「言えますよ。表では違いますけど裏では結構庶民的な言葉遣いをしますから」


「おお…そうなのか」



「メモリアさん、進軍の合図をお願いしても?」


 主様がメモリアの方を向く。


「もちろん。お前ら!久しぶりの合戦だからといって剣は錆びていないよな?お前らの剣をもって、この森厳騎士団の華々しい功績を一つ、刻もうじゃないか!」


「「「オオオーーーーーー!!!」


「お前ら、進軍だ!」


 メモリアの掛け声と共にバイフォレストの正門が開き、そこから勢いよく兵士たちが飛び出していく。

 私たちは壇上に立っていたから巻き込まれなかったが、正門の前に立っていたこともあって兵士たちの熱気がこちらに取り残されていった。


「ヴィエラさん、私たちも行きますか」


「はい。良い旅路にしましょうね」


  



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