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フィニの立場

「食堂ですよね。場所はなんとなく把握しているので準備ができたら向かいます。先に行っていただいて構わないですよ」


「でしたら失礼しますね。朝のお楽しみの時間を邪魔してはバチが当たりますし。それでは」


「ちょ、ユリさん最後なんて…」


 私が言葉を発した瞬間は時すでに遅く、ユリさんは出て行ってしまっていた。流石に冗談……だよね?


「……全く、ユリさんは意外と冗談好きか」


「みたいだね。エルフはそういう人多いの?」


「そんなことないですよ。種族ごとに冗談が好きな人の割合は変わったりしないと思いますし。その度合いが違うだけで」


「へぇ…」


「さ、着替えてください。何気に主様は寝巻きなんですから、早くしないと森厳騎士団の方に失礼ですよ」


「はいはい。それを言うならフィニもちゃんとしてよ、ちょっと着崩れてる」


 自分の服装を見ると確かに紐がほどけかけていたりしてちょっとちゃんとしていないかもしれない。


 朝から2人して身なりを整えて、食堂の方へ行くことにした。部屋を出て廊下を歩き、突き当たりのところを左に曲がると食堂に着く。


 静かに入っていくがまあ別に気配を消していないので目立ちはする。特に主様の方は。理由としては単純で、主様だけ種族が明らかに違うから。私も含めこの場にいるものたちは全員エルフ、またはダークエルフなのに対して、主様にはエルフの最たる特徴たる耳が尖っていない。だからかなり目立つ。


「遅くなってすみませんね、騎士団長様」


 親友をこのような形で呼ぶのはちょっと新鮮な気分になる。


「ああ、ユリから事情は聞いてるから大丈夫だぞ。それはそうとヴィエラさんも座ったらどうですか?結構一般的な料理しか取り扱っていませんが」


「失礼します。料理に関しては気にしなくていいですよ。普段から家庭料理に近いものを食べているので」


「あら、それは意外だ。そしたら今の幹部はなかなかに庶民派が多いようで」


「そうなんですか?」


「ああ。私がこうやって食事を交わしたことがあるのはヴィエラさんのほかには獣王騎士団のルーツ様や竜鱗騎士団のドラクール様がいるが、お二人とも結構庶民派だったのを覚えているな。特にルーツ様は獣の肉をろくに調理もしないで丸ごとかぶりついたりするから、庶民派と言えなくもないがちょっと特殊だとは思う」


「ルーツ様ですか…。式典以外でまともに顔を合わせていないのであまり像が結びつかないかもしれません。けれど、いずれはお話ししたい方ですね」


「そうだな。いつか機会があったら幹部で集まって食事でもする会を設けようかな」


「そうですね。機会があったら参加させていただきます」


「そうしてくれると嬉しい。さ、料理は冷めないうちに食べた方がいい。話すのも楽しいが、食事も大事なことだぞ」


「では、いただきます」


「はい。フィニさんも食べられてはどうだ?」


「いえ、私はいいですよ」


「えー、フィニも食べればいいのに」


「遠慮しておきます。もうお腹は減っていないので」


「またまた。まだフィニは何も食べていないでしょ?」


「いいえ、食べました。さっき主様とメモリア様がお話ししているときに」


「え?気づかなかったんだけど」


「ああ…。私もだ」


「もう…。ユリさん、あなたは見ていましたよね?」


「ええ、まあ。確かに食べておりましたよ。それも結構な量。そこのお皿は全てフィニさんが空けたものですし」


 そう言って空になった5枚の皿を指差す。


「そんなに?」


「だからもういらないです」


「そういえばフィニさんはよく食べる方だったな……」


「?一緒に食事したことが?」


「ありますよ。主様はお忘れかもしれませんが、私は暗殺者師団の長ですから。幹部の方と食事を共にしたことはあります」


「そうだな。失礼ながら、ヴィエラさんはいまいち暗殺者師団の影響力を理解していない可能性がある」


「というと?」


「暗殺者師団は言わば裏の世界の1つの軍隊。その力を正確に把握しているのはおそらくただ1人を除いて誰もいないだろう。もちろん、その1人はそこにいるフィニさんだが。なあフィニ、率直に言ってくれて構わないが今の森厳騎士団と暗殺者師団で戦ったらどちらが勝つと思う?」


「場合にもよりますが、まあ暗殺者師団有利でことは運ぶと思いますよ。平地での直接対決なら」


「ほらな?」


「フィニってそんなにすごい人なんだ…」


「はい。その点は主様はお忘れなく。まあでも安心してください、主様にはその刃は向かないですから。私の気が変わらない限り」


「フィニのその言葉はちょっと怖い」


「あはは。大丈夫ですよ。本当に」



「……騎士団長様。私、そんなすごい方とほぼタメ口で喋っていたのですけどどう思います?」


「ん?まあ気にしなくていいんじゃないか?フィニは結構気さくだしな」


「そうですよ。ユリさんはなかなか冗談がお好きなようですけど」


「ひっ…。すみませんでした……」


「いえ、謝られることはありませんので。それよりも、何かお伝えしたかったことがあるんじゃないですか?」


「あ、そうでした。門の衛兵から伝言を承っています。第三軍の方達が到着したと」


「おお、今どこに待たせているのですか?」


「今は広場の方に」


「わかりました。メモリアさん、タールウェグへ向かう準備がとれたようですがどうしますか?」


「どうするも何も、向かうしかないだろ。ユリ、団員を集めろ。今すぐに向かう準備をする」


「かしこまりました」


「フィニ、私たちも一度部屋に戻って用意しよう。メモリアさん、私たちは準備が出来次第広場の方へ向かいます」


「了解だ。じゃあまた後で会おうな」


「はい。料理、美味しかったです」


「騎士団長様、また後で」



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