悪戯と冗談
時刻は真夜中。月が高く昇り、その光はカーテンの閉められた窓からも少しばかり入ってきた。そんな中、私、ヴィエラは隣で眠っているメイドにイタズラを仕掛けたくなった。
イタズラ…というよりはただの好奇心だが。普段フィニは隙を見せない。それはメイドとして話してる時も、雑談している時も。私の前では完璧な従者だ。けど今は珍しく私の隣ですやすやと寝ているのだ。ちょっと気になる。その耳の部分が。
実は、私は今までエルフの耳を触ったことがない。その尖った耳に少し憧れというか興味がある。だからこの絶好の機会に触ろうと思ったのだ。どうせフィニのことだし、少し説教されるぐらいで済む話だろう。
「ということで……」
フィニの耳に触れようと手をこっそりと近づけて、耳の先っぽの部分を触る。しかし、そこでフィニが動いた。そして一瞬、目を瞑っている間に私は手を拘束されて動けない状態で制圧されていた。
「ちょっとフィニ…!」
その叫びは虚しく響いた。その理由はフィニが起きていなかったから。動いてはいるが、意識は完全に寝ている。夢遊病とでもいうんだったか、そんな感じで無意識に私を制圧し動けないよう拘束しているのだからそりゃあ声が届くはずもない。
「うう……フィニの意識が尽きるまでこの体勢か…」
フィニにまたがられるような感じで組み伏せられているのでフィニが重く感じる。多分フィニと私は同じぐらいの体重なのだけれど…。
私は結局フィニに一本取られる形でことが終わってしまい、激しく後悔しながらだんだん目を閉じていくのであった。
※※※
「ふわぁ………。主様……ってえぇ⁈ど、どうなっているのですか?」
「ああ…フィニ、起きたの?」
「起きましたけど…主様、この状況は?」
「説明するから一旦この拘束を解いて」
「す、すいません」
私は訳もわからないまま主様の拘束を解くが、変わらず動揺が隠せない。
対して主様はやっとか……とでも言うような顔で伸びをして骨をバキバキ鳴らす。
「で、何があったんでしょうか……?」
「それはね、こうこうこういうことがあって……」
ことの詳細を聞いた私は頷きながら納得した。
「なるほど。主様はやはり馬鹿なんですね」
「ちょっと!」
「いやでも今回は反論の余地がありませんよ?なんですか私の耳を触りたいからって。エルフの耳であれば良いならバイフォレストにはたくさんの対象がいますよ?」
「やだ、フィニがいい」
「はぁ…全く。主様は私の耳が触りたいんですか?それともエルフの耳が触りたいんですか?」
「どっちも!エルフであればいいけど、フィニのであればなおよし!」
「今もですか…?」
「今もって…当たり前じゃん。昨日触った瞬間に制圧されたんだもん!一瞬でこう、視界が暗転して目を開けたら目の前に床があってさ」
「腐っても上司なので申し訳ないとは思いますが謝罪はしませんよ?これは完全に主様の過失です。まさか夜中に起きて私に触ろうとするなんて…。………まさか、それを見越してベッドに誘いましたか?」
「そんなことはない。決して!私はただフィニと一緒に寝たかっただけ」
「ならいいですけど…。今後そういうことをするようであれば容赦なく拘束しますからね?今度は道具を使って。わかりましたか?」
「はーい。で、耳は触ってもいいの?」
「聞こえませんでしたか?私はもう一度するようであれば拘束すると言いましたが?」
「分かったよ」
「……よろしいです。もうこの話はなしです。外部にも漏らさないように。わかりましたか?」
「流石に外には言わない。私が1番恥ずかしいし…」
そう言って主様は頬を赤らめて言った。主様に恥ずかしいという感情があったのか…。それはそれで驚きかもしれない。
「おや。そろそろ呼ばれそうですね」
廊下の方に1人、覚えのある魔力反応を持つ方が。
「ん、誰に?」
「ユリさんです」
部屋の扉がノックされ、ガチャリとユリさんの顔が見える。
「ヴィエラ様、フィニ様、おはようございます。昨晩はよく眠れましたでしょうか?」
「はい。おかげさまで、ね?」
「は、はい」
なんですかその意味深な『ね?』は。ユリさんに勘違いされたら…。
「おや…もしかしてお二人はそういう御関係で…?」
「ち、違います!勝手に解釈しないでくださいよ!」
思わず声を大きくして言ってしまった。
「失礼失礼。冗談が過ぎましたね」
「本当ですよ、全く」
「うふふ。ところで要件をお伝えするとですね、騎士団長様から一緒に朝食を食べないか?と伝言を承っております」
「そうですか。もちろんご一緒させていただきます」
「それはよかったです。そう騎士団長様にも伝えておきますね」
「ありがとうございます」
「場所は食堂となっておりますので準備が出来次第案内しますが…いかがしますか?」
「食堂ですよね。場所はなんとなく把握しているので準備ができたら向かいます。先に行っていただいて構わないですよ」
「でしたら失礼しますね。朝のお楽しみの時間を邪魔してはバチが当たりますし。それでは」
「ちょ、ユリさん最後なんて…」
私が言葉を発した瞬間は時すでに遅く、ユリさんは出て行ってしまっていた。流石に冗談……だよね?
ヴィエラの自業自得ですね。




