部屋の中で
久しぶりにイチャイチャ回を書きました。
ユリさんが案内してくれたのはさっきいた場所から100メートルほど離れた上級士官用の宿舎だ。一般宿舎にしなかったのは流石に主様が王族だということを加味してだろう。
「こちらでございます。ではごゆっくり」
「ありがとうございます」
私も一応お辞儀だけはしておく。多分ユリさんには顔がバレてないし。
「あー疲れたー…」
「主様、ちょっとお待ちを」
ベッドに寝っ転がろうとするのを一度静止して部屋の確認をする。
「何してるの?」
「念の為、部屋のセキュリティの確認を。いざとなった時の逃げ道やトラップの確認などを…」
「しなくていいよ。フィニが疲れちゃったらあれだし」
「いいえ。これは私の仕事であり癖ですから。体力なんてものは使いませんよ」
「そっか。ならいいか」
「よし、異常なしです。思う存分休憩してもらって構いませんよ」
「じゃあ遠慮なく」
ベッドに軽くジャンプしながら寝っ転がる。そんなやって壊さないでくださいよ?
「あー!このベッド超気持ちい。もしかしたら王城のベッドと同じぐらいかも!」
「そこまで…」
「おやー?フィニも試したい?」
「試していいなら試しますけど」
「いいよ」
「では…失礼します」
私もベッドに軽く座ってみる。
「おー…すごい柔らかいですね」
「でしょ?」
座った瞬間にこのマットレスがすごいいいことはわかった。座ったかわからないほどにふかふかで反発がないに等しい。一体このベッドはいくらするんだ…?
「森厳騎士団はなかなかに裕福なようで」
「そうみたいだね。でも考えてみれば当たり前か」
ちょっとため息をつく。
「このバイフォレストで発生したお金は全て森厳騎士団がもらうし、国に納める分を差し引いてもかなりは手元に残る。そしてその森厳騎士団に残ったお金は騎士団の活動費とバイフォレストのために使われる。けど今の騎士団長、つまりメモリアさんは都市の管理も上手い方だからバイフォレストも発展していって、それがさらに森厳騎士団の収入増加にもつながる。メモリアさんって本当に多彩だね」
「都市の管理はうまくても武力はいまいちですけど」
「ん?なんか言った?」
「いえ、何も。それより夕飯というのは出るのでしょうか?私たちは大して食料を持ってきていませんし、できたら森厳騎士団から出してくれるとありがたいのですが…」
「たしかに。ご飯のことについて聞くのを忘れちゃった…。どうしよう。今からでもユリさんとかメモリアさんに聞きに行けるかな?」
「どうでしょうか。聞きに行けなくもないですがいかんせんもう日が暮れているので聞きに行くのは厳しいかもしれません」
「そっか…」
「……しょうがないので私の軽食を使いますか」
「そんなの持ってるの?」
「ちょっと待ってくださいね」
私はメイド服をバタバタとして色々と物を落とした。
「えっと…これじゃなくて、これでもなくて…。あった、これですね」
「え、今明らかに容量オーバーしてる量がメイド服の中に忍ばせてあったけど?なんならナイフとか毒っぽいものとか入ってたし」
「気のせいです。それより食べるなら食べちゃいましょう。メイドのおやつですけど、エネルギー的には最高効率ですよ」
「これ…飴?」
「飴とは似ていますが、飴ではないですね。さっきも言ったようにメイドのおやつです。原理はよくわからないですけどなんか美味しいんですよね。でも安心してください。毒や怪しい薬などは入っていないので」
「なら1粒…」
「どうですか?」
「味は悪くないけど…固くない?」
「そうでもないですけどね?このぐらいなら顎力でなんとでもなりますよ」
そう言ってバリボリと音を立てて飴を噛み砕いた。
「え……、マジ?」
「別にこのぐらいどうってことないじゃないですか。これで硬いと言われては主様の非力さには落胆しますよ」
「んー…悔しいけど噛み砕くのは無理かなぁ。舐めて時間使って溶かすしかないや」
「ん…本当に、主様よくその体で生きてこれましたね」
「そんなに言う⁈」
「あはは。冗談ですよ。まあ噛み砕けない人は一定数いるとは思いますが、しかしこれはアンドレ王国のメイドであれば全員が持っているような超一般的なメイド菓子です。けれど舐めて食べるというのはあまり聞きませんね」
「マジか…。私が柔らかいものばかり食べてるからかな?」
「それは私のせいでもありますね。主様にはよく火が通ったものをと思い調理しているのでそれが仇となって顎の力が弱いままになってしまったのかもしれません。まあ、貴族の家ではたびたび起こることらしいですが。当主やご子息を甘やかしすぎたらそれが裏目に出て悪い方向に進むなんてことは」
「へー…。フィニにはもっと厳しく当たってもらうべきなのか…?」
「それはそれでどうかと思いますが…。現在かなり気を遣っているのは事実ですね」
「だよねー。フィニの敬語はなんか取ってつけた感じっていうかあんまりしっくりこない気がする」
「しょうがないじゃないですか。主様と違ってまともに敬語の教育を受けてきていないんですよ。生まれが生まれですし」
「私も別に教わったことはないけど。敬語ってこう、周りの大人が使っているのを見て慣れていくものじゃないの?」
「そうであればよかったですね。暗殺者同士の会話なんて基本命令形ですし、酷いと単語のみでの会話なんてありますよ。まあ私は単独任務を好んでいたので同僚とすら会話をしませんでしたけど」
「なるほど。だからフィニの噂に『無口』なんてものがあるのか」
「ちょっと!その噂、どこから聞きました?場合によってはそれなりの対応をします」
「どこからって言われても。噂なんだから出所とか伝わり方とかはわかんないよ。というかその対応ってなに?」
「いえ、特にはしませんよ。ただ私のお気に入りの部屋に連れて行くだけです」
「お気に入りの部屋って…?」
「拷問部屋ですね」
「だめだよ。絶対に。友軍への拷問は反逆行為以外では認められていないからね」
「私の噂を流した時点で情報漏洩と言えなくはないですから実質反逆罪ですね。弁明は拷問室でって感じです」
「やめてよ。ただその拷問室はちょっと興味あるかも…」
「そっちの方がやめてください。王族などが立ち入っていい場所ではありません。常に血の匂いが立ち込めているような場所ですし。というか主様は時々狂ったような発言をしますね。その発言は最悪身を滅ぼしますよ。好奇心というのは慎重に扱ってこそです」
「はいはい」
「……もう寝ましょう。なんだかんだ日が沈んでから2時間は経ちました。いつもなら寝ている時間ですよ」
「分かったー」
そう言って主様は寝巻きに着替えてベッドに入った。
「ほら、フィニも」
布団を捲りトントンと自分の隣を見せてくる。
「私はいいですよ。まだ眠くありませんし」
「いいからいいから。このベッドかなりでかいし」
言われてみれば女性2人なら余裕で眠れる広さがあるが。
「いや…」
「いいの。命令しちゃうよ?でもフィニには出来るだけ命令したくない」
「…はぁ」
根負けだ。
「わかりました。私もそこで寝ることにしますよ」
「やったー!何気にフィニが初めて一緒に寝てくれる」
「普通メイドにそんなのは頼まないんですよ。頼むとしても男の方ぐらいで」
「いいの。私はフィニが隣で寝てくれるなら」
私は保護者か。自分でツッコんでしまった。
「私はもう寝ちゃいますよ。主様も早く寝てください。明日また行軍が始まるんですから」
「はーい」
そう言って部屋の照明を消して寝る体制になった。
「おやすみなさいませ、主様」
「おやすみ、フィニ」
フィニに冗談とかを言わせるのには抵抗があったんですけど、面白くなったのでいいかなって思いました。




