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焚き火

前回まで短かったので今回は長めに。

 結局、この日は最高速度で移動し続けバイフォレストまで半分ぐらいのところまで来ることができた。しかし実際は森の中を走ることが多かったのであまり効率は良くなかったかもしれない。


 だが、明日からは森を抜けて平野を走ることになる。運が良ければ明日の夕暮れにバイフォレストに着くかもしれない。


「主様、今日はとりあえずここまでです」


 日はとっくに暮れており、あたりは暗くあまりものが見えない。


 とりあえず馬をそこら辺に括り付けて、木の枝を集めていく。


 懐に忍ばせておいたナイフで木の枝に火を付け焚き火を作ることにした。ボッという音と共に小さな火を起こして枝に引火させていく。


「主様、焚き火が出来ました。野営をするためにテントをはりますのでその焚き火で温まってください。今は夏ですが、アンドレの夜は季節に関係なくかなり冷え込みますので」


「うん、わかった」


 主様は直接地面に座って火で体を休める。


「ふふ、意外と大胆なんですね。主様のことですから地面になんか直接座らないと思いましたよ」


「そんなことないよ。服が汚れるなんて別に気にしてないし」


「へー……。さ、テントが出来ました。中に入りたかったら中に入っていただいていいですよ」


「いいよ、もう少しここでゆっくりしてたい」


「わかりました。雑ですけどご飯食べますか?荷物から取り出せばすぐ出来ますけど」


「うん、そうしよう」


 ……主様の目が重い。いつもと違う感じだ。


「……主様、どうしたんですか?何か具合が悪いのですか?」


「いや…ちょっと昔を思い出してね」


「昔?」


 焚き火を見つめながら、2人揃って体を丸める。


「うん。昔、1回だけひとりで野営をしたことがあるの。魔法の実験に明け暮れてたら、怪我して森から出られなくって。すごい……寂しかった。1人で寝泊まりするなんて初めてだし、何をすればいいかわからなかった。火を焚こうとか思ったけど、残ってた魔力なんて微々たるもので火なんて焚けなかった」


「でも今はその時とは違う。火もあるし、食べ物もあるし。何より1人じゃない」


 荷物から食べ物を取り出してモグモグと音をたてながら頬張る。


「……美味しいね」


「そうですか?」


「美味しいよ。食べ物があるだけいいし、食べ物がないのは辛いよ」


「そりゃそうですけど…。私たちは生き物なので栄養を補給しなければなりませんし」


「それもある、けどそれよりも精神的な面で追いやられる。私は生まれたときから食べ物がある生活だったから当たり前に手に入ってたものが手に入らないのは自分の無力感を際立たせる感じですごい辛かった」


「食べ物がある生活ですか。現にこの国の3%ぐらいの民たちはそれなりに飢えたものたちです。その数字だけ見たら見栄えはいいかもしれませんが、実体はそうではありません。第一にこのアンドレ王国は人間以外の種族が集まって暮らしています。その人口は人間に少し劣るぐらい。そのため3%という数は本当に侮れない数です」


「そうだよね…。やっぱり王族として、いやその3%に入っていない人々で手を差し伸べるべきなのかな」


「その選択は主様が決めるものです。しかしその手を差し伸べる第一人者は王族でなければ民はついていきません。そして主様はおそらく、王族の中で最も世間を知っている方です。私は先代の王が即位して間もない頃に生まれたはずですが、少なくとも王族が王城から何回も出ていたなんて聞いたことありませんから。けれど主様は違います。まだ18歳にして世間というものを知っている。だからこそ私は主様の護衛についているのですよ」


「ありがとね、フィニ。励まし…でいいんだよね?」


「はい」


「……私はもう寝ようかな。なんだか疲れちゃった。ご飯も食べたし、テントで寝ることにするよ」


 もう寝るのか。普段の主様だったらもっと夜更かしするイメージなのだが。


「わかりました。『洗浄』の魔法はご自分で?」


「うん、寝る前にやっとく。じゃあおやすみ」


「おやすみなさいませ」


 その場で礼をして私は再度ゆっくりと焚き火と向かい合った。



 焚き火を見ているとなんだか吸い込まれてしまいそうだ。ずっと見つめているとジーンと目が痛くなってくる。先ほど主様に話したが、この国の闇というのはそれなりに深い。そういう裏側の世界の住人である暗殺者はこの国の日が当てられていない場所をよく目にする。


 

 昔、とある貴族の暗殺を依頼された。まだ暗殺者としては駆け出しからちょっと後輩が出来始めるぐらいの頃。暗殺を依頼されたのはそれなりに影響力のある家だった。当時の貴族社会の勢力図をはっきりと思い出せるほど私の頭は良くないが、確か2番目ぐらいに大きい勢力の幹部を務めている家だ。


 私は依頼されるがままその家に出向き、その主人を殺した。なぜ殺されなければならないのか、それは一端の暗殺者は知る由もない。というか当時の私は知ろうともしなかった。なぜなら殺せればなんでもいいから。良くも悪くも、後先を考えない性格だとは思う。


 しかしそれなりに人道というものは理解していた。夜中にその家に忍び込み、主人を殺した。そんなことに心は痛まないが、主人が寝ていた側に小さなケージがあった。そのケージには5人、小さな子供たちが入っていた。歳はまだ10歳ぐらいだろう。まとまって脅威に備えるかのように警戒心が強く、体にはアザや打撲の跡がたくさんあった。

 この瞬間、この主人が暗殺をされるに値する人物だと深く理解した。子供たちを玩具として扱い、子供たちをこんなに怖がらせて。


 けれど、この国の闇はそんな生ぬるいものではない。たしかにこの家主も死に値する行為をしてきている。しかしもっともっと残虐な行為をしてきてる奴らが民間には多い。それこそ信じられないような行為をだ。


 そんな汚れ切った奴らは死んだ方がいい。我々暗殺者はそんな汚れ物を消毒している。そういうと聞こえはいいが実際はただの殺し屋だ。やってることは暗殺対象となんら変わりない。だからこそそんな汚れ切った私たち裏の世界に主様など表舞台で活躍するものたちは入ってきてほしくないのだ。主様然りメモリアや国王様、幹部の方々全員。彼らは表舞台でこそ輝ける。裏の世界にはどうか入ってこないでほしい。


 ……そう思うと、私も表舞台で活躍する自分にも憧れた時期もあった。正直ポテンシャルはあると思うし今からでも転向は遅くない…?いやいや、今は第三軍の副官だから、そんな地位要らない。側からみたら十分表舞台に立ってると思うからだ。


「そろそろ火を消さないと…」


 敵地、王国内関係なく野営の火は消さなければならない。敵地では言わずもがな敵に見つかりやすく、王国内でも野党たちが蔓延っている地域があるため迂闊に夜通し火をつけているのは自殺行為に等しい。

 嫌な話、私たちは女だ。物品を物色されたりすることだけじゃ済まないこともあるにはある。無論、そういう経験はないが。


 足音をたてないよう静かに周りを見て湿った木の枝がないか探す。木の枝は木の枝でも湿っていればかなり鎮火剤として優秀だからだ。


 とりあえずそこら辺の湿った枝を手いっぱいに持ち一気に火の元へ放り込む。すると微かではあるがジュワッと音を立てて火を鎮火していく。数分もしたらほぼ全て火は消えて寒気が体を襲ってくる。


 けれどとりあえずは焚き火で出来た炭というか木の残りかすを辺りに適当に撒いておく。焚き火があった痕跡があると後々面倒なことになる。


 私は寝巻きには着替えずそのままの服でテントの近くで寝ることにした。寝る…というよりは仮眠に近いのだが。


 これは暗殺者の癖ではあるが、外でそう簡単には寝ることができない。仮に警備がガッチガチに固められたとしてもできないのだ。誰に教わったでもないが暗殺者は慣習的に1番最初に敵の存在に気づかなければならない。特に夜間は。暗殺者は一般兵に比べて夜は冴えるし、パフォーマンスが鈍ることもない。しかしそれは眠りが浅く、すぐに臨戦態勢に入れるからだ。


 そんな慣習を見て育てば私もそれをせざるを得ない。いやほんとに。入隊した頃は深く寝過ぎて同僚にいじられたことが何回か。

 彼らが言うにはアンドレ王国で育ってきてるなら暗殺者は夜寝ないと知っている、だそうだ。どうにも子供たちは騎士と暗殺者、将来どちらになりたいか聞かれると意外にも半分半分ぐらいで割れるそうだ。しかし実際大人になった頃には騎士が9割、暗殺者は1割も居ないそうな。果たして彼らたちには何があったのか…。


 真面目な話、多分は暗殺者のハードルの高さに威勢が削がれていくんだと思う。暗殺者って結構ドライなとこが多い。子供の頃はそれがカッコいい!と映るんだがいざ入隊を迫られると素っ気な…と思う人が多くみんな騎士の方に行ってしまう。


 なんとか改善せねば将来人員が不足してしまう…。今も全然足りてないし。暗殺者師団の者でなんとか入れようと策を練ってはいるのだが社会に適合できなかった者も多く勧誘なんて無理。はぁ……やっぱり子供たちに暗殺者のかっこいいところ!なんて題で絵本を売り出すしかないか。


 まあぶっちゃけ、洗脳に近いと言えばそうなのだが今更だよな。もうずいぶん長いこと戦争をしているし今更引きかえそうにもどこに行けばいいかわからない。王族は後ろをみて引き返す能力も前に進もうとする力なんてもう持ち合わせてはない。だから主様のような前にただ突っ走るイレギュラーが必要なのだ。そうしないと国が未来へと動いていかない。


 ……こんなくだらないことを夢想しているなら寝た方が身のためか。もう月がかなり高いところまで来ている。日にちを跨いだぐらいの時間だろう。メモリアに会う時に疲れ果てた姿だと笑われそうだからゆっくりと目を瞑って意識を無くしていくのだった。


焚き火って…落ち着きますよね。

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