表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/72

久しぶりの帰宅

「ただいま戻りました」


 久しぶりに第三軍の旗を見た気がする。しかし実際は5日ほど。ちょっとした旅行だったなあとしみじみ。


「フィニ!」


 屋敷の扉を開けると、主様が抱きついてきた。


「どうしたんですか。ちょ、強く抱きつきすぎです」


「だって…寂しかったんだもん……」


 抱きついてくるその顔には少し涙が浮かんでいた。相当寂しかったんだろうな…。抱きつかれることはあるが、こんなにも強く抱きつかれることはあまりない。


「もう…たった5日じゃないですか。これでも急いで帰ってきたんですよ?」


「どこ行ってたの?私それすら知らないんだけど」


「ちょっと親友に会いにですね。詳細は後で。主様は何をしてたんですか?」


「別に……魔法の研究を」


「なんでちょっと拗ねてるんですか。もしかして友達とか親友とかいうフレーズに思うところがあったんですか?」


「うん……。私、同年代の友達とかいないし」


「王族ですもんね。いくら活発な主様とはいえ、街に出向いたことはあまりないでしょう」


「うるさいなー。友達なんかフィニがいればいいの!」


 頬を膨らまして迫ってくる。なんだこのかわいい生き物は。


「しかし私は同年代ではありませんよ。年齢も90歳ほど離れていますから」


「関係ない。お互い見た目は同じぐらいの年齢に見えるし、違うのは経験ぐらい」


 魔族の見た目は人とは異なる。それは種族上の違い、角の有無だったり羽の有無だったり。しかしそれ以外にも年齢によって見た目の変化の仕方が違うことも挙げられる。


 人間はその80年の寿命のうち産まれてから死ぬまで見た目を毎日変えながら一生を終える。

 しかし魔族の大半は生まれた時から20歳までは人間と同じように見た目を変えるが、それ以降は見た目が変わらない。見た目が変わらない時期は長く、全盛期といえる時間の間は見た目が変わらない。

 エルフの場合は20歳から280歳ぐらいまでの260年ほど。獣人は少し短く20歳から230歳ぐらいまで210年間。竜人族はさらに短く20歳から200歳までの180年間見た目が変わることはなく、軍にいればずっと鍛錬できる。

 まあ吸血鬼とか悪魔とかはこの枠組みとは外れてるからわかりにくいが。


 主様の場合そろそろ老化が止まり、姿が変わらなくなると思う。今はまだ止まっていない………はず。


「フィニの友達は何歳ぐらい?」


「珍しいことに同い年です。なので110歳ですね」


「ヘー………。いいなー、羨ましいよ」


「やっぱり友達が欲しいんじゃないですか」


「そりゃそうだよ!居て損はない!」


「そうですかね……」


 友達はぶっちゃけ必要最低限でいい。多くても気にすることが増えて心労が溜まる。


「あ、そうだ。フィニ、執務室に来てくれる?現地活動部隊から手紙が届いててね」


「わかりました。着替えたらすぐ行きます」


 主様は執務室へ向かい、私は2階にある自室へメイド服をとりに行った。このメイド服を触るのもかなり久しぶりな気がする。懐かしいぐらいだ。


 今着ている私服を脱ぎ捨てて上からメイド服を着る。細かな箇所を確認して、最後に紐で腰の部分を縛ったら完成だ。


「失礼します」


「はいこれ、私はもう読んであるからフィニも確認して」


 机に置いてある報告書を確認する。

 そこにある文字たちを読み終えると顔が勝手に笑っているのが自分でもわかるほどだった。


「笑っちゃうよねぇ。綺麗に人間側は私たちの策にはまったよ」


「現地班に近くの人間の動向を見張らせていたのが功を奏しましたね。それで、どこの都市の軍が動いたのですか?」


「タールウェグらしい。ヴァルト王国の最前線都市だね」


 ヴァルト王国タールウェグ。ヴァルト王国はこのアンドレ王国に1番接している人間統治の国家だ。その最前線、ヴァルト王国の守備の要ともいえるタールウェグの軍が動いた。この事実はかなり大きく戦況を左右することになるだろう。


「流石に開戦はすぐではないですよね?少なくとも1週間は必要ですが……」


「いや、今すぐにでもやろう。タールウェグに1番近いのは……森厳騎士団か。協力を要請できるかな?」


「可能ですけど……少なくとも連絡に1日は要します。兵を揃えてもらう時間もありますし、やはり1週間が最低条件です」


「1週間か……。まだ兵の意識が内に向いているといいけど」


「それは心配事項ですが、そう簡単には戻ってこないと思いますよ」


「理由は?」


「簡単な話、軍というのは多数の人が集まって集団で行動する者たちのことです。その強さは個にはない数の強さ。しかしそれは行動の鈍化にもつながります。1人が思ったことなんて集団においてはなんの意味もなさないことが多いです。なので、結果的に全速力でタールウェグに戻ってこようとしても内陸部からは2週間ほどかかります。つまりタールウェグを留守にする時間は1ヶ月ということです。それほど余裕があれば我々の準備も念入りにできるというものです」


「それも事実ではあるけど早め早めに行動して損はないよね。早速だけどフィニ、森厳騎士団様に手紙を送っといて。内容はタールウェグの占拠、または壊滅の協力。お願いしていい?」


「了解しました。他に何か?」


「現地活動班に今後の日程を。枠組みはあるからちょっと練り直して送ってくれればいい。私はその間に父上に軍の手配ができないか直談判しに行こうと思う」


「護衛を……」


「大丈夫大丈夫。フィニは連絡系の事務仕事お願いね。夜には帰ってくると思うからそん時はよろしく」


「……わかりました。お気をつけて」



タールウェグは川などで国の境界を決める方法の名称です。アンドレ王国と人間の国とは川こそ通っていませんが川のように国境がすぐ変わります。なのでタールウェグという名前にしました。

実は元々はボーダーサイトという名前だったのですが、バイフォレストと被ってしまうのでタールウェグとしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ