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ポストと手紙

今日はいつもより長めです。


 第三軍の屋敷の前にはポストが置いてある。それはもちろん軍令を通達するためのポストだ。このようなポストはどこの屋敷にも必ず1つは置いてあるが、それが使われることは少ない。

 なぜなら大半の屋敷は文官の方に属する貴族が所有しているからだ。この国は貴族社会であり、1番上には王族、次に貴族、最後に平民がいる。しかし正確に言うならば、貴族のところには同列に軍がある。そしてその軍の長に近い地位にいる者たちは家があり、武官の貴族という扱いになる。


 つまり少ない。今は騎士団と軍合わせて6つしかないのに、そこの幹部レベルに偉くないと貴族扱いとならないのならば必然的に分母が少ない。多く見積もっても40家が限界だろう。対して文官貴族は都市1つ1つに配置されているためおそらく100ほどの家がある。


 話を戻すと、屋敷の前にあるポストは軍令を通達するためにあると言った。そして文官貴族は大半の情報を王城で定期的に行われる会議で得る。そのためポストなんてものは使われないのだ。では、反対に常に戦況に目を向けている武家貴族がポストを使うかと言われれば実はそうでもない。


 理由は簡単で軍に居れば部下から毎日のように情報が提供されるからだ。だからこちらも使わない。


 では誰が使うのか。それは主に怪我をしたなどの理由で戦場に一時的に居られなくなった武家貴族だ。今使っているのは5家あるかないかだ。


 そうみると私たちの屋敷はかなり特殊だと言える。武官ではあるが戦場には出向かないという性質上ポストを利用するが、そんな武官はなかなかいない。というか歴史を見てもいない。私が知る限りでは。


「主様、ポストにこれが」


 そんな訳ありのポストに今朝、投函があった。それは1週間前に人間の国へと行った第三軍の者たち、正確には伝令役であるマーシャからの伝令だ。きっちり1週間で来たところから察するにあまり大きな損害を受けていないだろう。


「開けていいよ。というかフィニは副官なんだから届いたらすぐに開ける権利ぐらい与えるよ」


「わかりました」


 懐からさっとペーパーナイフを取り出し手紙を開封する。


 開封した手紙をサラッと一巡し主様に渡す。


「特に大きな問題は今のところ発生していないようです。損傷もゼロで、作戦も滞りなく進んでいると」


「それはよかった。じゃあ無事、今週の分の作戦を渡すことができるね」


「そうですね。今週を乗り切っていただければ来週は大きな作戦が待ってますからね」


「うん。そこからが本格的な戦いの始まりだから」


 前に話し合ったときにシミュレーションした絵が本当に起こるかはわからない。けれど最も起こる可能性が高いものを選んでるし、仮に起こらなくてもいいように作戦は組んである。


「けれど緊張しますね…」


「だねー。でも気楽に行こうよ。そんな張り詰めても疲れるだけだし」


「主様にそのセリフを言われると何か腑に落ちませんね」


 ちょっと違和感が。


「ええー、そうかな」


「いつもは立場逆じゃないですか」


「それもそうだね」


 ガチャ。


「?」


 今何か音が…。


「どした?」


 首を傾げていると主様が声をかけてきた。


「……いえ、いま何か音が聞こえた気がしたのですが」


「うーん、気のせいじゃない?私は何も聞こえなかったし」


「おそらくですが、ポストに何か入れられた気がします」


「そう?じゃあ見てきてくれない?」


「わかりました。一応魔法を使える状態にしといてください」


「はいよ」

 

 玄関口からでて、ポスト箱覗きにいく。すると一通の手紙が入っていた。


「これは……」


 封筒を留めるマークのところには王城のマークがあった。つまり軍部だ。それぞれの騎士団が出している手紙にはそれぞれの紋章が付けられるが、その上に立っている王城にある軍関係の本部から出される手紙には王城がモチーフとなっている紋章が使われる。

 使われることはなかなかない。なぜなら軍部のトップからの手紙ということは強制力がそれなりにある。なので騎士団など受取手が不快な思いをしないよう使われることは非常に少ない。つまり重要な知らせということだ。心なしか紙質もいい。『あれ』が行われるかもしれない。


「主様、軍本部からお手紙が」


「内容は?」


「まだです。しかし『あれ』かと」


「多分ね」


 封筒を適当に破り捨てて中身を見る。


「ほーら、やっぱり異動だ」


「私たちが…ですか?」


「いやぁ。多分第三軍が増設されるんだと思う。ただ今回の作戦で結果を残せば、だけどね」


「なるほど……。つまり今週の作戦がうまくいき、なおかつ来週までもがうまく行った暁には兵が増設されると」


 別に手紙には『今回の作戦』で、なんてことは書かれていないが『大きな戦果』をあげたらとは書いてあるので私たちが解釈して今回の作戦となっているだけだ。


「そ。人数が多いに越したことはないけどこんなに早く許可されるとは思ってなかったな」


「おそらくは国王様じゃないでしょうか?国王様は主様のことを溺愛しておられますし」


「そうかなー、まあこういう人員の増加は断る理由がないからありがたく頂戴するよ。こういう瞬間だけ王女でよかったって思う」


「ふふ。それ以外の瞬間では感謝しないのですか?」


「そんなことはないよ。けど大半の時は自分の立場にうんざりしてる」


「私にはその気持ちがわかりますが、多くの人はわからないと思いますよ。王女なんて生まれた場所においては最高クラスじゃないですか。私みたいに生まれた時から奴隷扱いされるよりはよっぽどいいと思いますけど」


 いい終わってから少し言葉に棘があることに気づいた。


「それはわかってるよ。私が言っていることもわがままだって。でもしょうがないじゃん。私はこの世界に来た時からそういう家系に産み落とされたんだから、それ以外の人生なんて私にはわからないよ」


「非情ですね。でもそれが正しいのも事実です。あったかもしれないイフの世界線の話なんかしても虚しいだけですし」


「フィニが理解してくれてよかったよ。こういうちょっと過激な意見って対立すると取り返しがつかないことがあるからさ」


「そういう経験は過去にありますね。暗殺者同士で意見が食い違った時とか、物騒な方向に話が飛躍しますから」


「…例えばどんな?」


「その時は私ともう1人、男の暗殺者でどのような行動を取るべきか意見が対立したんです。言い争いの末、結局殺し合いましたね。お互いが言っていたことは正しかったですし、仮に私の意見が採用されたとしても反乱を起こされる可能性は非常に高かったので」


「つまりもう死んじゃったと」


「はい。一応は先輩だったのでその暗殺者の死は報告しておきました。いつもだったら報告しないでしらばっくれるんですけどね。なんだかんだ報告しなくてもバレないですし」


「わーお……。暗殺者の闇を見た…」


「そうですか?いうて作戦報告の義務は課されていますけど守らない人も多いですし。特にその時代の暗殺者では、私が暗殺師団に入った頃は普通でした。けれど、時代の流れに沿って作戦報告の重要性が説かれ、みんな守るようになりましたね。私が暗殺師団の長になったときにはみんな報告してくれましたし」


「報告の重要性か……。それは第三軍のみんなに周知の事実として広めたいんだけどね。そのためにも部下との交流が必須なんだけど…」


「あまりその機会はありませんね。人間の国からの連絡手段なんて手紙以外確立されていないので文字上での会話が主です。しかし、昔から手紙同士でコミュニケーションを取っていた事例もありますし。なんでしたっけ、文通?みたいな言葉だったと思います」


「文通だなんて少しロマンチックすぎない?ただ単に私は部下と交流を深めたいだけだし。あの子たちにも休暇を取らせるべきなのかなぁ」


「それはそうでしょうね。増員の目処が立ったら休暇のローテーションも考え始めた方がいいかもしれません。ずっと人間の国で戦ってもらっては申し訳ないですし、疲労が溜まるとパフォーマンスも落ちてしまいます。そういう点も考えるべきですね」


「そうだねー」


 背もたれにもたれかかって大きくため息をつく。


「私たちは今こんなにのんびりしているけど遠い向こう側では頑張ってもらってるんだもんね。上官として、私たちもそれを相応の行動をとらなきゃ」


「ではどうしますか?やることは溜まっていますが」


「うーん、とりあえず魔法の研究しようかな。自由時間中に面白そうなやつ見つけたし、仮に実験が成功すれば戦闘能力が飛躍的に向上すると思うよ」


「飛躍的に……」


「うん。とりあえずはその実験するね。多分3日ぐらいは地下室から出てこないからご飯とかは適当に置いといて」


「え、地下室でやるんですか?」


「そうだけど?あそこ気に入ったし、爆発させても迷惑かからないし」


「……。あまり否定する理由はありませんからお止めしませんけど、くれぐれもご自身の体は大切になさってくださいね?」


「はいはい。地下室にいる間はフィニは何しててもいいから。出かけても地下室だから安全だし。それじゃあっ」


 そう言って走りながら地下室の方向へ行ってしまった。


 私はただ目をパチクリさせながらそれを眺めることができなかった。


「あれ?というか主様は魔法道具を持って行ったか?」


 思い返してみるが、おそらくは持っていなかったと思う。まったく、これは地下室にすでに大量の魔道具が散乱してるな。いつか突撃して片付けをしないと」


「さてと、私は何をしますか……」


 


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