表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/72

帰宅

「ただいま戻りました」


 一応扉を開けた時に言っておく。

 主様は地下にいるのでこの声は聞こえていないと思うが。


 この屋敷の地下室は仮に襲撃者が来たときの最終手段だ。入り口は割と探しやすいがその扉は非常に頑丈。無理やり開けようとしたら先にこの屋敷が吹っ飛んでしまうだろう。それぐらい頑丈。


 そんな扉はとある一定の動作をすることで開く。機密保持のためそのコードは私と主様しか今のところ知らない。私は扉をゆっくりと開け、主様がいることを確認する。


「ただいま戻りました」


「おかえり。遅かったね」


「すみません。後輩に絡まれて稽古をつけてきまして」


「別に大丈夫だよ。今は仕事もないしね」


 今はもう作戦の立案はお腹いっぱいだ。やるのは5日後とかでいい。


「そういえば部下の子達が人間の国に行くのはいつ?」


「明日からですね。いよいよ主様の計画がスタートしますよ」


「だねー、はじめての作戦だから緊張しちゃうよ」


「そんなに気負わなくていいですよ。部下たちは優秀ですし、作戦に目立った穴もありません。強いて言うなら不安要素は初任務、と言うことでしょうか。彼らの連携がうまくいくかどうかが鍵になりますね」


「うまくいってほしいなぁ。作戦が進めば進むごとに人間側は深い不安を覚えるし、それに応じて私たちは策を練る。面白いゲームだと思わない?」


「思いますね。頭脳戦というのはこういうことを言うんでしょうね」


「そうだろうね。でもフィニ、共感してくれるかわからないんだけど頭脳戦とリアルに刃を突きつけあう肉体戦って同じだと思うの。だって肉体戦ができる人はみんな戦闘IQが高いし、戦闘に慣れてる。数秒の未来なら簡単に予測できちゃう。そして頭脳戦が得意な人は大体肉体戦にも精通している。これって同じことじゃない?」


「かもしれませんね。私は圧倒的に武闘派ですけどある程度の駆け引きは得意ですし」


「だよねー」


「というか、前々から思ってたんですけど主様はなぜそんなにも戦闘に精通しているのですか?王族ですからあまり学ばないと思いますが」


「んーこれには訳があるんだけど、簡単に言うと『憧れ』かな」


「憧れ?」


「うん。昔っから思ってたの。このまま王女として生きて、何かおもしろいことはあるのかなって。ずっと閉じこもって、国民から崇められて。そんな人生は面白くないじゃん。こんな素晴らしい世界に来て、もったいないじゃん。ならさ、パーっと大きいことやろうかなって。歴史に名を残すような大きな人物になって。そのために戦いの知識を身につけたんだ」


「国王様とかに…反対されませんでしたか?」


 少し俯きながら答えた。


「もちろん反対されたよ。でも私はそれ以上にやりたかったし、何より自由になりたかった。親の反対を押し切ってでも、安泰の地位を捨ててでも、私はアンドレ王国第三軍の長として生きることに決めたんだ」


 決意を感じた。今まで誰にも話さなかっただろう主様の気持ちを私に話してくれた。


「そうですか……」


「その過程で、絶対に必要なものがあるんだ」


「なんですか?私にできるなら準備しますが……」


「フィニだよ」


「ふぇ?」


 思わず変な声が漏れてしまった。


「それは……どういう意味で…」


「そのままだよ。私にはフィニが必要なの。頼れる副官で、友達みたいな。そんな人が私には必要なんだよ」


 頼れる…だろうか。自分で言うのもなんだが私は時々暴走しかける。主様の前でなったことは今のところないが、それはあくまで今が平和だから。何か私を刺激するようなことがあればいつ私が暴走するかわからない。特にメイドとしてではなく暗殺者としているときは。

 自分でも抑えられないほどの感情が溢れ出してしまえば、昔のように、殺すことを生き甲斐として感じてしまう。


 そんな人を、主様は頼っていいのだろうか。………いや、そんな考えじゃダメだ。私が主様が頼れると思うような存在になろう。なぜなら私は、第三軍の副官だから。


「フィニ。1つ、お願いしていい?」


「いいですよ」


「フィニは私から、絶対に離れないでね」


「もちろんです」


 少し笑いながら答えた。


「なんてったって私は、主様のメイドであり頼れる副官なんですから」


 この言葉で、主様の顔が明るくなる。


「うん!」


 そして私に笑顔で抱きついてきた。


 いつもなら丁重に跳ね返すが、今は違う。優しく包み込むように抱き返してあげた。


 この日常を、この人を、一生懸命守りたいと思った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ