33-13 共に過ごした日々 真実のサイズ
階段を上りゆくアンジェの姿を、魔法の光が眩く照らし出している。
「アンジェ様、ダメ、私嫌です! お願いです戻って下さい!」
リリアンがアンジェに縋ろうとするのを、ルナが羽交い絞めにして引き留めている。グレースは心配そうに両手を握り締めるが、シエナとシャイアは対照的に、ボックス席の手すりまで身を乗り出し、ゴンドラに乗り移ったアンジェを羨望のまなざしで見つめた。
「素晴らしいですわ、アンジェリーク様!」
「私、とても誇らしいです!」
アンジェは無言で二人に微笑み返してから、ルナの腕に守られてポロポロと涙を流しているリリアンを振り仰ぐ。
「リリィちゃん、ありがとう、きっと大丈夫よ。一つだけ、お願いを聞いてくださる?」
「……嫌です」
「そう言わずに聞いてちょうだい」
不服そうな回答に、アンジェはくすりと笑った。
「この先……わたくし、いろいろ言いますけれど、本当にお慕いしているのは貴女お一人ですことよ。それを疑わないでいただきたいの」
「……アンジェ様……?」
リリアンが首を傾げながらポロポロと涙をこぼす。その紫の瞳がアンジェを照らす光を受けて煌めくさまは、ため息が出るほど美しい。あの瞳がわたくしを見つめている、あの輝く瞳はわたくしのもの……。
「……ルナ」
「……おう」
「解説、よろしくね」
「は?」
親友が思い切り怪訝な声を出したが、アンジェは応えずにゴンドラの手すりを掴み、舞台の方へ視線をやった。エイズワースが手を挙げるとゴンドラがゆっくりと動き出す。アンジェを照らす光もそれに追随する。あちこちから歓声とも野次ともつかぬ声が上がるが、アンジェは視線は一切動かさない。
(桟敷席はほぼ満席……)
(千人はいるかしら)
向かう先の舞台で何を聞かれるかは想像がついた。アンジェが今日の講演に参加した動機と、エイズワースの魔法プレゼンを見た感想を求められる。それをローゼンタールらがフェリクスを貶め、クラウスを礼賛しているのだと都合の良い解釈をし、アンジェ──不当な扱いを受けているフェリクスの婚約者、セルヴェール公爵令嬢が自分たちの味方になった、と観客に示すのだろう。
(けれど……あいつの意図が分からないわ……)
アンジェは壇上のクラウス、リリアンが偽物だと言い切ったクラウスをじっと睨む。アンジェの知るクラウスとは雰囲気が違う、表情が違うが、それでも場に合わせて振る舞いを変えていると言われればそういうものかと思ってしまいそうだ。リリアンの確信を持った言葉がなければ、あれが偽のクラウスであると看過するのは難しかっただろう。
(マ……ラキオン……)
アンジェと目線を重ね、クラウスの姿をしたマラキオンがニヤリと笑う。
(あいつは、ずっとわたくしを狙っていたわ……それは間違いない)
(アシュフォード先生にも長らく取り憑いていて……)
(ローゼンタール先生にも、最近取り憑いた……?)
(わたくしを狙うためにお二人に憑いた、というわけでもないでしょうし……)
(意図が分からないわ……)
アンジェは偽のクラウスから視線を逸らすことが出来ぬまま思考を巡らせる。
(いいわ……あの魔物の意図がどこにあろうと、今はそこまで詮索する余裕はない……)
(この場で、正体を暴くことができれば……くだらないネットワークビジネスから目が覚める方もいるでしょう)
(そう……わたくしてっきり、クーデターの準備は武器を集めることだとばかり思っていましたわ)
(資金を集め、共感者を集め……デモのような形で実施するのでしょう)
(幻惑の魔法で洗脳に慣れさせて、決行日に操ろうということなのかしら)
(何にせよ……)
ゴンドラが舞台に到着し、鳥かごの下半分のような柵の一部が自動的に開いた。アンジェが降りようとすると、一番近くにいたローゼンタールがニヤニヤしながら手を差し出してくる。アンジェはフェリクス専属弁護士の顔を嫌悪感も露わに睨み、その手を借りずに舞台の上に降り立った。魔法の光は眩しくアンジェを照らす。
ここにいる全員がわたくしを見ている。祥子が商品の企画などをプレゼンした時は、こんな大人数ではなかった。けれどもしわたくしが王妃となっていたら、この何万倍もの人々を前に、フェリクス様の横に立って対峙していたの。リリィちゃんと共に生きることになったらどうだろう? セレネス・シャイアンの配偶者は、やはり人前に立って演説などするのだろうか? 大丈夫、わたくしはずっと、大勢の人の前に立って話すことを思い描いてきた、大丈夫。
(……言いたいことを、言ってやるわ)
「セルヴェール公爵令嬢、お越しいただきありがとうございます」
「聡明な貴女なら、我々が描く未来の素晴らしさを理解いただけたことだろう」
ローゼンタールは受け主のいなくなった手を引っ込めながら慇懃に笑い、エイズワースが両手を広げて近付いてくる。そのままアンジェの肩を叩こうとしたが、アンジェは手を挙げてそれを遮った。
「……この度は、結構な場にお招きいただき恐縮ですわ」
大勢の者に注目される場では、一挙手一投足が、発言の隅々までもが注目される。言葉尻を捉えて拡大解釈され、本人の意図と違おうとも、最も衝撃的で面白味のあるものが流布していく。
(付け焼刃で正論を説いても、足元を掬われるだけ……)
(ならば……)
「わたくし、皆様にぜひお聞きいただきたいことがあり、恥を忍んでこうしてやって参りました」
「ほう、それは?」
「アシュフォード先生と……フェリクス殿下のことですわ」
アンジェの言葉に、手を払われたエイズワースが、一歩後ろに引いていたローゼンタールがぱっと顔を輝かせる。舞台上の全てが拡声されているのだろう、観客もざわりとどよめいた。眩しくて見えないが、ボックス席のリリアン達にも聞こえているだろうか? 偽のクラウスも僅かに目を見開き、アンジェを舐るような目線で眺めている。
「お二人についてですか。是非お聞かせ願えますか、公爵令嬢」
「……ええ」
アンジェは頷くと、視線を舞台へと移した。舞台役者がどのように語るかなんて知りもしないが、プレゼンの方法なら覚えている。祥子は何度もプレゼンをして、時に負け、時に勝つ中でその技術を磨いてきた。
「富める者、豊かなる者が幸福である、これは一つの真理であるかと存じます」
アンジェの声は殷々と劇場内に響き渡っていく。
(お願い、祥子……)
(力を貸して……)
「食べ物を得るために、衣服を得るために、住むところを得るために……富はなくてはならないものです。それらが不足なく満たされることは、一つの幸福の在り方なのでしょう。けれど富では決して得られないものが一つだけあります」
アンジェは言葉を切り、ローゼンタールをじろりと睨んだ。あのお茶らけたルナ──ユウトが、嫌悪感をあらわにするほど毛嫌いしている男。前世で何があったのか知らないが、平和なフェアウェルにネットワークビジネスを持ち込むのだ、ろくな男でなかったに違いない。彼らが長年練り上げてきた論理に付け焼刃の正論が叶わないならば、アンジェも長年抱き続けてきた想いで対抗するしかない。
「それは……愛です」
ローゼンタールが鼻で笑い、エイズワースがあからさまに顔をしかめるのが視界の隅に入る。偽クラウスはニヤニヤしながら腕組みをしている。アンジェは深呼吸し、拳を握り締めると、キッと観客席を真っ直ぐに見据えた。
「愛の中でも特に尊いもの……それは、年の差兄弟が互いを思いやる様であると言えるでしょう」
アンジェの青い瞳がきらりと輝く。
「敢えて……敢えて、クラウス先生とフェリ様と呼ばせていただきますわ。お二人がどれほど仲睦まじくお互いを思い合っていらっしゃるか、皆さまはお考えになったことがありまして? ありますかしら? 人は目に見えるものの少し先しか想像が及ばないと言いますわ、なかなかにクラ×フェリの魅力に気が付くことは難しいかと思いますの。今日この場をお借りして、わたくしがたっぷりとお話しさせていただきましてよ」
観客席がざわざわとどよめくが、アンジェは気にせずに話す。
「確かにクーデターはありましたわ……皆それぞれの正義があることでしょう。けれどそれは結局は、クラ×フェリが愛を確かめ合い、その絆をより強固なものにするための茶番でしかありませんのよ。クラウス先生はいつだってフェリ様のことを慮っていらっしゃるわ……クーデターは、フェリ様からの愛が揺らいだのではないかとご不安に思われたお気持ちの表れ……お二人のお気持ちが通じれば、そんなものはもはや不要なのです」
「……公爵令嬢?」
ローゼンタールがアンジェに手を伸ばしてきたが、アンジェは一歩脇に踏み出してそれを避ける。
「フェリ様よりクラウス先生の方が優秀ですって? どちらが優れているかなんて些末な問題ではありませんこと? 肝心なのはフェリ様をクラウス先生が陰に日向に見守りお支えしているということ……フェリ様がクラウス先生の前でだけ、少年のように無邪気な笑顔を浮かべていらっしゃることですわ!」
アンジェは頬を紅潮させ、拳を握り締めて熱く語る。ルナは今頃爆笑しているだろうか? リリアンは怪訝な表情をしているだろうか? どちらでもいい、祥子の想いを、今この場で語りつくさなければ。
「婚約者であるわたくしにも見せない、あどけなささえ感じさせるフェリ様の微笑みを、みなさまは想像なさったことがありまして? あれは生涯に一度は拝むべきフェアウェルの国宝ですわ、心の隅々まで浄化されましてよ……それを受けるクラウス先生の包容力ある微笑み! 世が世ならご自分が嫡子だったかもしれないのに、そんなことは一切気にかけず、弟を守り慈しむ優しいまなざし、それに蕩けるフェリ様……ああ! クラ×フェリの極みですわね! けれど逆転してフェリ×クラも趣深いのですわ、遠慮なさるクラウス先生をフェリ様が観劇に連れ出して……最高でしてよ、最高なのよ、クラ×フェリもフェリ×クラも! 王国の未来は、フェリ様が即位なさって、その横にクラウス先生が宰相としてそっと控える、これしかありませんわ、これこそ絶対正義! 最適解! 至高の世界! お分かりになりまして、クラ×フェリこそ至高! ……ですから」
アンジェはローゼンタールから逃げつつも偽クラウスの前までやって来た。偽クラウスはニヤニヤしながらアンジェを見返す。
「お前に……フェアウェルをお渡しするわけにはいきませんのよ。偽物のアシュフォード先生」
「……ほう。余が偽物であると申すか」
偽クラウスは初めて口を開いた。声はクラウスのものだが、話し方は全く違う。アンジェは違和感に背筋が粟立つが、深呼吸をして動揺を誤魔化す。偽クラウスは薄い笑みを浮かべると、ずいとアンジェに向かって一歩踏み出してみた。
「余が偽物であると申すか、ルネ」
「……わたくしをその名で呼ぶのは、この世でただ一人……恐ろしい魔物であるはずでしてよ」
「それがどうした、余こそがクラウス・アシュフォードその人である」
アンジェは一歩後ろに下がる。偽クラウスは更に一歩前に出る。アンジェは下がるのを止め、触れられそうなほど近くまで寄った男をぎろりと睨み上げた。
「美しい瞳であるな、ルネ……」
偽クラウスが笑う。
「強い女ほど、抱いた時に浅ましく鳴く様が楽しめるというものよ」
「冗談はほどほどになさることね、偽者さん。……どれだけ姿かたちを似せようとも、肝心なところを化かすのを忘れておりましてよ?」
「……何だと?」
偽クラウスは気色ばんで更にアンジェに詰め寄る。アンジェは一歩下がりたいのを堪え、偽クラウスの顔をまじまじと眺め──彼に、アンジェ達に注目する全ての者にアンジェが何を見ているのか分かるように、ゆっくりと視線を下に降ろし、ある一点で止まりそこをじっと注視した。
完璧な美貌と頭脳を持つ公爵令嬢。そのあだ名が人々に想起させる、人を見下した高慢な笑みを、アンジェは浮かべた。
「……ちっさ……」
「は?」
アンジェは口許に手を当て、クスクスと笑ってみせる。
「そんな小ぶりなものでフェリクス様のお兄様を名乗ろうだなんて……ふふ、身の程を知りなさい、マラキオン!」
「……なっ……」
偽クラウスが絶句した瞬間、アンジェは彼の服の胸ぐらを掴んで引き寄せ、股間を力いっぱい蹴り抜いた! 同時にアンジェの背後から衝撃波が襲い、偽クラウスを直撃する。アンジェが振り向くとそれはどうやらローゼンタール家のボックスのあたりから飛来したようだ。
(リリィちゃん──!)
きゃあああ、と観客の誰かが悲鳴を上げた。何があった、襲撃か!? あのクラウス・アシュフォードは偽物!? ローゼンタール先生は無事なの!? それはあちこちに伝染し、場内がたくさんの悲鳴と怒号に包まれていく。
「うぐっ……うおおおお……!」
偽クラウスは股間を押さえて床に倒れ伏して呻いている。その全身から黒い煙が立ち上り、アンジェが容赦なく尻や背中を追撃するたびに、偽クラウスの姿がぼろぼろと崩れ去っていく。
「皆、ご覧になって! 偽物ですわ、恐ろしい魔物でしてよ!」
「やめろっ、アシュフォードに触れるな!」
ローゼンタールがアンジェに手を伸ばしてきたが、アンジェはライトニングダッシュを使ってそれを避けた。エイズワースが掌を向け魔法を放つがアンジェのほうが速い、防御するまでもなくあっさりとかわす。偽クラウスは崩れ落ちる人間の破片の中からあの紫の髪と褐色の肌が現れ、怒気に満ちた金色の瞳でぎろりとアンジェを睨んだ。
「ルネ……いささか悪戯が過ぎるぞ……!」
立ち上がった魔物の姿に、きゃああ、うわああ、と悲鳴が上がる。
「お前のようなお転婆は、余がしっかりと躾ねばなるまい……!」
「躾ける? わたくしを躾けるですって?」
アンジェはクスクスと笑いながら、マラキオンが突き出してきた腕を避ける。
「冗談は、貴方の息子だけになさることね!」
ライトニングダッシュでアンジェは空中を駆けあがり、ローゼンタール家のボックスを目指す。マラキオンが怒り狂ってアンジェを追うが、ボックス席からリリアンが光の矢で狙撃し、マラキオンの行く手を阻んだ。ルナが空中で双頭刀を構えており、やって来たアンジェの腕を掴み、ボックス席の中に投げ入れた。
「ずらがるぞ、このクソ赤ちゃん!!!」
「アンジェ様、皆さんを先に!」
リリアンがマラキオンを追撃しつつ叫ぶ。ボックスの中では怯えた様子のグレース、シエナ、シャイアが身を寄せ合って震えている。アンジェは投げ込まれて打ち付けた肩をさすりながら立ち上がり、ボックスから舞台と桟敷席を見る。桟敷席は阿鼻叫喚で皆次々に逃げ出していて、舞台上ではローゼンタールとエイズワースが何か口論しており、マラキオンはリリアンの狙撃を受け身体がぼろぼろと崩れ始めたところだった。
「ルネェェェェェェッ!!!!!!」
崩れ行く身体で藻掻くマラキオンに、リリアンの追撃が直撃する。
「貴様っ……許さぬぞ!!!!」
「……っ」
マラキオンが咆え、アンジェはびくりと身体を震わせる。
「誰の……ナニが小さいだと……!? もう一度言ってみろ、ルネ!!!!!」
「……何度でも言って差し上げますわ!」
アンジェは震える手を握り締めながら叫び返す。
「短小! 小指! ポークビッツ!!!」
「ルゥゥゥゥネェェェェェェ!!!!!!!」
「ねずみだってもう少しマシなものをお持ちでしょう! 次からは隅から隅までしっかり真似して化けることですわ!」
アンジェの煽りにマラキオンは更に怒りこちらに突進しようとするが、リリアンの光の矢が、ルナの剣がそれを阻む。その間も身体はボロボロと崩れ続けていて、とうとう首から下は崩れて虚空へと消え去ってしまった。
「ルネ! 覚えておけ……お前は余の愛し子だ、必ず余の許へ来る運命なのだ!」
「そんな運命知りませんわ!」
首がボロボロと崩れながら、魔物はニヤリと笑う。
「来るのだ、ルネ、凛子も余の許におるのだからな」
凛子の名前を聞き、アンジェは怯んでしまう。追撃の手を緩めないリリアンを、空中で蛇のようにうごめく紫の髪と戦っているルナを眺め、ボックス席の手すりを握り締めた。
「凛子ちゃんは……無事なのね!?」
「……知りたければ自分の目で確かめてみろ」
アンジェの様子が変わったのを見て取り、マラキオンが薄く笑った。
「無事なのでしょう、お前のところにいると言ったのだから!」
「どうだかな。そなたが余に抱かれるというのなら教えてやらんでもない」
「教えなさい、凛子ちゃんは無事なのね!?」
マラキオンが薄く笑うのと同時に、魔物の脳天をリリアンの光の矢が打ち抜いた。魔物は大層な悲鳴を上げ、顔全体もボロボロと崩れ落ち、崩れた破片もあっという間に黒い霧となって霧散してしまった。
「子リスよくやった、ずらがるぞ!」
ルナがボックスに飛び込んできたかと思うと、グレースを小脇に抱え、シエナとシャイアの背中をばしんばしんと叩いた。
「急げ、捕まってあれこれ聞かれたら面倒だぞ。混乱しているうちに抜けるんだ」
「え……ええ、そうね。そうだわ……逃げましょう」
アンジェも我に返り、隣のリリアンに手を差し伸べる。光の矢を撃つ姿勢のままだったリリアンは、じっとアンジェを見つめると、フンと鼻を鳴らして不機嫌そうに顔を背けた。
「え……リリィちゃん?」
「何でもないです。行きましょう、ルネティオット様」
むくれた顔のままアンジェの手を無視し、リリアンはすたすたと出口のほうに歩き始めた。呆気にとられたアンジェがその背中を目線で追い、次いでルナの方を見遣る。ルナは自分の目の前を通り過ぎたリリアンをまじまじと眺めていたが、アンジェの視線に気が付くとニヤリと笑い、わざとらしく肩をすくめて見せた。
「悪い。面白かったからまだ何も解説してない」
「……リリィちゃんっ、あのっ、誤解ですの! あれはね……!」
「うるさい知らないですアンジェ様やらしーやだやだあっち行ってください!」
アンジェは慌ててリリアンを追いかけ、それに気づいたリリアンが脱兎のごとく逃げ出し、更にアンジェはそれを追いかける。ルナは笑いを堪えながら小脇のグレースを抱え直し、シエナとシャイアを立たせてボックス席を後にしたのだった。
劇場内は未だ騒然としており、ローゼンタールとエイズワースはいつまでも口論を続けていた。