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30-6 まなざしが含む熱 見舞

 イザベラはやはり今日は欠席のようだった。昼休みにフェリクスがわざわざアンジェとルナ、別テーブルでクラスメイトと食事をしていたリリアンをそれぞれ訪れて、見舞に行くかどうかを確認する。アンジェは今日は剣術部があるためその後なら、と答えると、リリアンとルナもその時間に合わせて一緒に行く、と回答した。フェリクスは満足げに頷くと、見舞の後で王宮でお茶にしよう、と言って貴賓室へと戻っていった。


 剣術部の部活には、珍しくフェリクスもルナも来なかった。課外活動時間の剣術部は、朝練にある二人一組の負荷運動はない。そのためフェリクスは彼の都合が合う時にしか来ない。ルナは用事がなければ顔を出してアンジェの相手をしてくれるが、今日は何か用事があるようだった。リリアンも同様で、結果としてフェリクス、ルナ、リリアンの三人が課外活動の終了時間間際に鍛錬場の入口付近に集まる結果となった。部活が終わるや否やリリアンがアンジェに飛びつき、それをフェリクスがにこにこと眺め、ルナが横で笑いを堪える。その組合わせのまま馬車に乗って王宮に向かい、イザベラに見舞の旨を伝えたところ、イザベラの侍女からは予想外の答が返ってきた。


「代表で、リリアン・セレナ・スウィート嬢だけ面会いただきます」

「えっ……」


 アンジェは思わず声を出してしまい、慌てて口を手で覆った。それはフェリクスもルナも同様だったようで、それぞれ小柄なリリアンをまじまじと見つめる。リリアン自身はさして驚いた様子はなく、深刻そうに唇を真一文字に引き結び、侍女の後についてイザベラの私室へと向かった。仕方なくアンジェとルナはフェリクスと共に彼の私室でお茶を飲みながら待つ。


「イザベラ様とリリィちゃんって、仲が良いご様子なんですの」

「へえ、そうなのか。全然知らなかった。イザベラは君たち二人と一番仲が良いかと思っていたよ」

「ええ、時々、お茶をしているようなのです。今日もお約束していたと仰っていましたわ」

「それなら、その約束について話したかったのかな?」

「そうですわよね……」


 アンジェとフェリクスが首を傾げる中、ルナはなにか心当たりがあるようで、アンジェを──部活のまま見舞に来たアンジェのジャージ生地が作り出す夢の曲線を、じっと見ながら笑いを噛み殺していた。リリアンは一時間もしないで戻ってきたが、なにか悲壮感漂う様子でぶつぶつと何事か呟いており、しかし面会の内容の詳細を一同に教える気はないようだった。


「リリィちゃん、イザベラ様はどんなご様子でしたの? やはりお加減がよろしくないのかしら」

「はい、あの……だるいそうなんですけど、熱とか咳とか、その、風邪とかではないそうです。えーとあの、ええと、そうだ、お疲れが出たんだろうって仰ってました」

「そう……心配だわ」


 慌てふためいてへたくそすぎる誤魔化し方の恋人に、胸が痛んでそれ以上は追及できなかった。そのままフェリクスが勧めるままに三人も夕食の席に招かれ、更に泊まっていけばいいという彼の誘いをリリアンがばさりと断り、残念そうなフェリクスに見送られて三人は帰路についた。


「……文化祭まで、あとどれくらいでしたっけ」

「二週間でしてよ?」

「二週間……」


 馬車の中、リリアンはアンジェの答を噛み締めるように呟くと、アンジェにばふりと抱き着いた。お菓子クラブの出店準備をしているのだから文化祭の日取りなど聞くまでもないはずなのに、わざわざ尋ねて深刻そうにしているリリアンを、アンジェはただただ見つめるしかできない。ルナは何か考え事をしているようで珍しく口数が少ない。しんとした馬車の中は、室温以上に指先を冷やすような気がして、アンジェはリリアンを抱き寄せるしか出来なかった。



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