008 火のライオン
俺は進化した能力を確かめるべく、頭の中でステータスを開く。
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名前:ー
種族:下位精霊(土)
魔力値:10785/32325
マナ値:0
スキル:土生成、射出、変態、魔力値拡張1.5、言語、異界神の加護
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うーん、まず魔力値がぶっ飛んでるね。
進化して倍になって、更にスキルで1.5倍になったのかな、これは。数値だけでもすでに漂うこの無双感よ。
マナ値は0に表示が変わったけど、これについては今のところよく分からん。
あとはスキルだな。【射出】と【変態】を実際に試してみたいし、そろそろ行きますか。
俺は魔力触手でガチャリとドアを開け、家の外へと出る。
岩石地帯と火山地帯の間にある、高い岩壁に区切られた場所。訓練所へと俺はスイーッと移動していく。
岩壁の門をくぐると中はかなり広がっており、ちらほらと他の精霊も見える。
薄くて丸い板や人型の岩人形、特大サイズの大岩などが設置してあり、それらを的にして術の練習をしているようだ。
俺は近くの、丸い的に向かって火球を放つ精霊を観察してみる。
全身赤くてまんま牛の顔をしている、火のミノタウロスみたいなやつだ。サイズはピクシーと同じくらい。
そのミノタウロスが掌に魔力を集めると拳サイズの火球が生成され、それを勢いよく的へ発射した。
おお、思ったより速い。
火球はボゴン!と音を立てて的に着弾。
プスプスと煙を立ち昇らせた的は、上半分が焼け焦げて抉れていた。
うむ、まあまあの威力。やっぱり【射出】の強みは射程だな、大体200メートルくらいには軽く届きそうだ。命中率は別として。
少し移動して、今度は岩人形のあたりを見てみる。
そこには、全体的に金属質な体で、丸っこくて足が4つある変な形の精霊がいた。
そいつは自分の前方へ魔力を広げると、そこから10個ほどの岩玉を生成。それら全てが同時に勢いよく発射され、複数の岩人形へと向かう。
ドガゴゴゴーー!!という衝撃音が収まると、どうやら8割ほど命中したようで4体の岩人形に複数の穴が空いていた。
これすげえな。
えーと、まず【土生成】と【射出】だろ。そんで土じゃなくて岩だったから、変質系のスキルか。
そして複数同時に射出するスキルの、計4つ以上のスキルを組み合わせてる。
すごい実力だ。中位…?いや、上位の精霊かな、多分。
さて…と頭を切り替え、俺は別の岩人形の所へと移動。
まずは【土生成】で作った固い土の塊を岩人形に向かって【射出】で飛ばしてみる。
ヒュン!ボゴ!という軽めの音。
うーむ、岩人形は多少へこんだだけだな。所詮は土、威力は低めだね。
次に土塊を【変態】でカチカチの岩塊に変質させ、それを【射出】する。
今度はズゴオォォン!!という大きな音が鳴り、岩人形の肩のあたりが抉れていた。
うむむ、なかなかの威力。そしてヘッドショットは結構難しい。
続いて岩塊を【変態】で槍状に変形。それを【射出】する。
すると、岩人形の胴体に半ばまで突き刺さった。
よしよし、いいね。どんどん行こう!次はこうだ!
岩の槍を【変態】で鋼鉄に変える。それにギュルギュルと回転操作を加えて【射出】する。
ズギュルギューン!と音を立てて飛んでいった鋼鉄槍は、あっさりと岩人形の頭を爆散させ、後ろの岩壁に穴を開けて埋まってしまった。
こりゃーすごい!鋼鉄でこれなら、もっと固く変質させたら誰も防げないのではなかろうか。今度かっこいい技名を考えねばなるまい。
遠距離攻撃はとりあえず十分と考えた俺は、近距離の戦い方を思案する。
試しに、魔力触手の先から出した土塊を【変態】で鋼鉄化し、刀状にしてみる。
ブンブンと触手で握り振るってみるものの、イマイチうまく力が入らず、何ならすっぽ抜けそうな感じだ。
まぁ触手数本で体を持ち上げるのがやっとだしな。
魔力発動の起点としては優秀だけど、物理的な使い方はやっぱり限られるか。
うーむ、しかし力が入らなくても可能な攻撃…。としばらく考えた俺は、今度は刀ではなく丸くて薄いノコギリ状の刃に変形させてみる。
その刃をギュイィーンと高速回転させて振り回す。
うむ、なかなかいい感じ…だけどちょっと当てにくそうだな。
円状のノコギリから、取手をつけた長細いチェーンソーみたいな形に変形させる。
うむ、振り回しやすいし、何よりとてもかっこいい!
試しに岩人形の胴体に向けてギュイィーンと切りつけてみる。すると若干の抵抗はあったものの、ゴトリと上半身を落とすことができた。
ふむ、とりあえずこれで接近戦も大丈夫だろう。
そのうち手足が生えたら手持ち用の武器も考えよう。何せ今はつるっつるのウンコ形態なもんで。
防御の技は、簡単に【土生成】と【変態】でアースウォール的なのができるだろ、と思ってやってみたら案の定すぐにできてしまった。【変態】優秀すぎだろ。
これ、土だと割ともろいけど、材質変えれば最強の盾になるな、これ。
さて、夕方になってきたしそろそろ帰りますか。
スイーッと軽快に出口へ向かっていると、やたらと岩人形に向けて火球を放っているやつがいた。
あれ同期の火ライオンじゃん。あいつもここに来たんか。
ボケーっと見ていると相手も俺に気づいたようで、チッ!と舌打ちしながら近づいてきた。
「おい、なーに見てんだよテメー。このウンチヤローが!しょうもねー形しやがって、目障りなんだよ、帰れ帰れ!」
おやおや、そういう感じ?
なるほどね、チミ、ただのイキリライオン君でしたか。
だが残念。拙者クールキャラゆえ、DQNなんかには屈しないでござるよ、デュフフ。
「ふむ…気にするな、たまたま通りかかっただけだ。あとこの体はウンコじゃないぞ、時代を先取りしすぎたハイセンスなハイパーボディだ」
「うっせぇ意味分かんねーんだよボケ!テメー、俺っちをバカにしてんのか!?」
おやおや…どうやら怒らせてしまったご様子。やれやれ、煽り耐性ゼロの低沸点君だったか。
「どーせ術もろくに使えねぇクソザコナメクジなんだろ?ここは力が全てなんだよ!テメーみてえな存在価値のねぇクソ野郎はこうやって燃やし尽くしてやるぜ!見てやがれ、“俺様最強獄炎波”《アルティメットフレア》」
とライオンは叫び、掌に火球を生成する。
そして火球をポンデライ○ンみたいなファンシーな形に変化させると、それを岩人形に向かって打ち出した。
ズゴォンと音を立てて、可愛らしい火球は人形の顔に命中。
煙が晴れると、岩人形の顔には愛らしいライオンの顔の焼印が押されていた。やだ…かわいい。
ドヤ顔をするライオン。
俺はフゥ…とため息をつき、ライオンに背を向けた。こんなやつ相手にするのもアホらしいというものだ。
「お前も何かやってみせろよ!」「やーい、ウーンコ!ウーンコ!」とギャーギャー言い寄ってくるライオン。
さすがに少しイラっとした俺は、仕方ないな、と背中を向けたまま尻に力を集中させるが、この時俺は気を抜いてしまった。
尻から生まれた大きな鋼鉄塊の形を弾丸状に変え、ギュリギュリギュギュギュと高速回転。
異常な音を立てて回転している弾丸をボッ!!と発射すると、これまた異常な速度でズヒュンッ!とライオンのタテガミをかすめ、遠くの一際巨大な岩山に着弾した。
ズゴ!!ドガシャズガガガァァン!!!
と激しい音を立てて岩山は半分爆散し、俺の頭の上からパラパラと砕けた大小の岩片が降ってきた。
「えっ」
俺は唖然としていた。
尻から直の攻撃ってあんなに補正すごいの…?そりゃ加護あるけど…ヤバくない?
しかも正直、けっこう適当にやったし大して制御もしなかったんですけど…ふええ…。
と、ポーカーフェイスで呆然としている俺の横で、ライオンがガクリ、と膝をつき崩れ落ちた。
ボロボロと涙を流して放心するライオンの顔を見ると、左側のタテガミの部分がゴッソリと無くなっていた。
そしてチョロチョロと下半身から液体を漏らしていたが、精霊に排泄物は存在しないから多分アレは魔力だろう。魔力が漏れちゃってるのだ。
そして、やがてライオンは震えながらゆっくりと土下座して言った。
「す…すいませんでした!俺、調子に乗ってました!あっ、あの、その…アニキ、アニキと呼ばせて下さい!俺、俺…アニキに一生ついていくっす!!」
『あ、うん』
こうして俺に舎弟ができた。