最終話【後編】 それが茶色転生
「何事じゃ!?早く連絡水晶を起動せい!」
「よし、起動した。ふむ、ふむ…どうやら魔物が来たようだ。それも大物だな」
「大物?何者じゃ」
「前に言ってた魔王システムの残滓みたいなものだ。それが力を蓄え、魔物を引き連れて来たようだ」
そのナビの言葉に、列席している王達は震え上がる。しかしここは精霊の都タケハニヤス。魔物退治の専門家が揃っている。
「レオをリーダーに、戦闘精霊は魔物を迎え撃つのじゃ!」
「了解、アニキの帰りに間に合うよう片付けてくらあ!」
そう言ってレオと複数の精霊達が飛んでいく。しばらくすると、西の上空で激しい戦闘音が大気を震わせた。どうやら戦闘が始まったようだ。
「む、今度は別の紫水晶から連絡か。…ふむふむ、何っ!?今度は東の空から多数の魔物だと!?」
何と今度は逆の方から魔物の群れが近付いてきているという。どういう事だ、これは明らかに何者かが指示をしているとしか思えない。もしやこれも魔王の残滓の仕業なのか。
「ナビ、このままでは人手が足りんぞ。こうなったらワシが出るしかないかの」
「レイン、あの数に君だけでは無理だ。こうなったら人間の手を借りるしか…」
「何だ何だ、久しぶりにウンコ頭を見に来たのに、騒がしいナリね」
「あはは、やっぱりウンコ君の周りにはいつもトラブルがあって楽しいね」
「私もきちんとご挨拶したかったのですが…まずはあの魔物達を駆除しないといけないようですね」
「ああ、ヴァイスちゃんはウンコ君と初対面だからね。こないだは神様が降りてたから」
そんな声が上空から飛んでくる。上を見上げれば、そこには黄金、黒、白の三匹の竜が悠然と構えていた。どうやら王の復活を見に来てくれたようだ。
「り、竜殿。すまない、魔物達をお願いできるだろうか」
「あいつら邪魔だし、仕方ないナリねえ、さっさと終わらせるナリよ」
「いっくよー!」
そう言って三匹の竜は東の空へと飛び立ってくれた。すぐにそちらからも激しい戦闘音が聞こえてくる。
「よし、これでなんとか…」
と一息ついた時、またも紫水晶からナビに連絡が入った。まさか…と嫌な予感をしつつ、ナビは水晶を起動した。
「き、巨大な魔物の集合体が北から近づいている…だと」
それは最悪の知らせだった。今まで見た事も聞いたこともないような形状の魔物。様々な魔物の体を融合させた、合成獣のようなおぞましい魔物。明らかに魔王の残滓が異形の姿へと変貌した存在だ。長い時間をかけて力を蓄え、このタイミングを狙っていたのだろう。
「なっ…!?もうそこまで…!」
速い。知らせを聞いたばかりなのにもう目視できるほど迫っている。
どうする、もう打つ手がない。この場で唯一残った戦闘精霊、レインが行くしかないのか。
「…ワシが行く。竜達が来てくれるまでは持ち堪えよう。じゃがもしワシが死んだら…あとは頼むぞ」
「レ、レイン」…!
そう言ってレインが決死の覚悟を決める。自分の身を盾にして戦う、守る者の姿だ。
「ワシとて精霊王になりかけた身…行くぞ!!」
「レインーーーッ!!」
レインが上空へ飛び、ナビが叫ぶ。相手はどう見ても魔王級の化け物だ、一人で勝てるわけがない。数分だって持ち堪えられるか怪しい。
「レイン…」
がくりと膝をつくナビ。不安そうに顔を青ざめさせる参列者たち。
しかしそんな絶望的な空気が流れる中、美しい声が凛と響いた。
「大丈夫。ヒーローは、来た」
「えっ、この声は女王陛下!?ヒーロー…という事はまさか!?」
どこかの紫水晶から響いたその声に合わせて、世界樹の果実が地面に落ちる。皆の視線がその実に集まる中、実はゆっくりと開いた。
「なっ……!!」
その実からは、紫色の液体がドロリと力無く出てきた。待ち望んだ王がその実から誕生するとばかり思っていた面々は、そのくっさ〜い紫の汁を見て何とも言えない表情をしている.、
「違う、それはただの世界樹の老廃物。見るのはあっち」
再び紫水晶から声が飛ぶ。慌てて遠くへ目を向けた時、突然大地が揺れた。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ…!
大地から王城の塔並に太い茶色の柱が何本も現れ、それが生き物のように動く。その柱だと思っていた者は何と指だったようで、続けて規格外に巨大な手、腕、肩が現れ、そしてついにその頭部が現れた。
非常に濃い劇画町の顔。国旗にもなっている特徴的な形の頭。
初対面なら顔をしかめ、見知った者ならその姿に尊敬の念を向け震える。そう、それはまぎれもなく皆が待ち焦がれていた世界の英雄。精霊の王。
「ウンポコ!!」
「ウンポコ君!!」
「ウンポコ様ァーーッ!!」
その姿に皆が歓喜。爆発せんばかりの声援を受け、大地から全身を出した王、ウンポコがニヤリと笑う。
「お前ら待たせたな、イッツ!ショウタァーイムゥ!!」
ワアアアアァァ!!!
ウンポコの演出にオーディエンスはみな大乱舞だ。待っていた。伝説のウンポコの戦いが今その目で見られるのだ。
「相手は魔王の残滓の塊か、悪くない」
立ち上がり、体長1000メートルはあろうかというウンポコが敵を見つめる。相手も前進を止め、ウンポコを警戒しているようだ。
「ギギギイイィィィ!!」
そしてウンポコに対抗するかのように、何と魔王の残滓もムクムクと巨大化を始めた。だがその大きさはせいぜい300メートルといったところ。ウンポコと比べると人間とチワワくらいの差がある。
「ヘアッ!!」
ウンポコの容赦のないチョップが魔王の残滓に突き刺さる。
もう技術とか技とか関係なく、その圧倒的な質量でもって魔王の残滓の体が大きくへこむ。
「デァッ!!」
続いてウンポコのローキックが魔王の残滓の体を抉る。これももう説明が必要ないくらいに魔王の残滓の下半身を破壊し、ボコスコにしていく。
その圧倒的な質量による戦いを前に戦慄している皆に、またも紫水晶から声が届いた。
「ウンポコは世界樹に溶け込み、ずっと大地から見守っていてくれた」
下半身を破壊された魔王の残滓を、ウンポコかが片手で持ち上げる。
「病める時も健やかなる時も、戦争している時も辛い時でも、いつでも」
その魔王の残滓の残った上半身を、ウンポコが上へ放り投げる。
「でもそんな世界は今日でおしまい。ずっと平和で楽しい世界が始まる。だって…」
王城の最上階から青く透き通った、美しい精霊が顔を出し、紫水晶に語りかける。
そしてその美しい精霊の見つめる先。そこには、落ちてきた魔王の残滓を巨大な尻でヒップアタックして完全に破壊するウンポコの姿があった。
「私の旦那様が帰ってきたから」
パァアアァァーーッ!!!
ウンポコの光る尻によって全ての魔物が消し炭になっていく。
その余波で東の魔物も西の魔物も全てが消え去り、一瞬にして世界の危機は過ぎ去った。
…
「アニキーーッ!!」
「ウンポコーーッ!!!」
「あ、ウンコ君だ」
「でかいウンコになったナリねえ」
レオやらヤミナやら竜どもやらの声が次々と集まってくる。一仕事終えたばかりだというのに全く…人気者の辛いとこね、これ。
「よう、ちょっと待ってろ。先にやらなきゃならん事がある」
俺は体を縮小させ、茶色い体に黄色のふんどしという懐かしのスタイルに変身した。
そして騒ぐ連中を置いといて、王城の最上階までひとっ飛び。
「よっす、プニムポリム。200年も待たせて悪かったな」
「ん…」
プニムポリムは目に涙をため、そっと俺にマントと王冠を渡してきた。
ふかふかのマントを肩にかけ、俺のために作ったような形の王冠をすぽっと頭にはめこむ。
「…帰ったら言う言葉がある」
プニムポリムが顔を近づけ、手をギュッと握る。
「ああ…ただいま。プニムポリム、愛してるぞ」
「…うん!私も」
そうして俺たちは拍手と大歓声に包まれながら、200年ぶりに口づけを交わしたのだった。
ひどい死に方をしてから始まった俺の転生物語。色々な出来事があったけど、まだまだ始まったばかり。
これからもきっと、楽しく幸せな物語は続いていくだろう。そう、大切な仲間や愛する者たちに囲まれて。
これが俺の歩んだ物語。そして胸を張って誇るべき物語。
この人生にタイトルをつけるならば…そうだな。茶色転生ものがたりってところだろうな。
〜おわり〜
ここまで読んでくださったみな皆様、本当にありがとうございました。こんなふざけた小説が皆様の暇つぶしになってもらえたのならば、幸せの極みです。
初めて書いた小説という事もありひどい駄文でしたが、何とか最後まで駆け抜けることが出た事を嬉しく思います。ブックマークや評価を頂いたり応援して下さった皆様、重ねてお礼申し上げます。
このお話はこれで終わりですが、また別の小説を書いています。『私のスキルは魔改造おじさん〜カオスなおじさん大量製造、ある意味最強チートです』というまた不真面目で下らないお話を投稿しますので、良かったら読んで頂ければ幸いです。
https://ncode.syosetu.com/n1668jz/
※ちょっとリンクの貼り方が分からないので、載せれませんでした。すいません。