054 魔樹大陸へ
「アニキ、今日も指導してくださいよ!」
「超兄貴、頼んます!」
『兄貴様!どうかご指導頼みます!!』
俺が魔人族の国から帰ってきてからはや数年、相変わらず地上への召喚はお預け状態だ。だがしかし、ここ精霊郷でのんびりできているかと言えば、実はそうでもない。
何か知らん間に俺をてっぺんとしたカルト集団みたいなヤバそうな団体が出来ていて、そいつらが毎日俺のところに押しかけてくるのだ。
きゃわいい女の子精霊ならば俺だって悪い気はしないが、そいつらは全員が男。しかもふんどし一丁で男塾みたいな頭のネジが数本吹っ飛んだ思考の連中ばかり。さすがの俺もドン引きですわ。
「ああ、そうだな。じゃあ二人1組で、それぞれエレメントを出し合ってミックスソフトみたいなウンコを作ってみろ。丁寧にな。細部へのこだわりが重要なんだ」
だから俺は毎回こうして適当な指示を出してその場を凌いでいる。こいつらアホだからな、俺が言った事は大体喜んでやろうとする。
でも何だか最近、こいつらの技術が無駄に上がってきたようで、すごいクオリティで仕上げてくるやつらがちらほら出てきた。もしかしたら今回も異常に完成度の高い作品を提出してくるかもしれん。本当、俺なんか見本にしないで、もっと別のところに情熱を向けろよ。
オッス、オッス!と叫びながら訓練場に向かって走るイカれた集団を見送りながら、俺はため息を吐いた。
「ああ、そう言えばまたナビ氏から呼び出しくらってたんだっけな…行くか」
……
…
「あれ、今日はいっぱいいるじゃん。何かあるのか?」
俺がナビ氏の部屋に行くと、そこにはナビ氏の他に、ベル氏、クソジジイ、アクアリム氏がいた。何だ何だ、係の重役が勢揃いじゃあないか。
「ああ気にするな、これは別件で集まってもらっていただけだ。だが丁度良い、お前との話もここでしようか」
「どうもウンポコ君、お久しぶりです!」
「何じゃい、ただのウンポコかい」
「うるせえクソジジイ、死ね」
一通り皆に挨拶を済ませると、俺は席についた。すると「あっそうでした、アレを持ってきましょう」とアクアリム氏が立ち上がり、奥からティーカップを持ってきた。
何だ?紅茶?でも精霊にお茶は飲めないはずだよな、このカップは一体何じゃらほい。
そんな疑問をウンコ顔に貼り付けた俺に対して、アクアリム氏は嬉しそうな顔で教えてくれた。
「それは魔汁ですよ」
どうやら魔汁らしい。
いや何だよ魔汁って。説明省きすぎだろ。
「ええとですね、ウンポコ君から以前頂いた玉キントキがあったでしょう?アレを色々研究していたんですが、一年くらい経った時ですかね。保管していた玉キントキから汁が染み出してきたんです。調べてみると、何とそれは高純度の魔素!つまりマナの塊から魔素が染み出してきたんです。それをちょちょっと加工して飲みやすくした精霊用飲料、それが魔汁です」
「ええ…何かいいように言ってるけど、つまりは芋から出てきた腐れ汁じゃねえか。そんなもん本当に飲んで大丈夫なのか?」
「問題ありません、むしろ味は良いですよ。微量ですが魔素も吸収できますし、これは優れモノです。おそらくこれから精霊郷に広まっていく事でしょう」
「へえ、そんなクソ汁がねえ…」
「それに魔汁のおかげで研究も進んでいます。ウンポコ君の【豊穣】の魔素をマナに変える原理は分かりませんが、マナを魔素に戻す事は出来ました。これを基盤にして様々な環境において…」
アクアリム氏の話が止まらなくなってしまったので、とりあえず俺は魔汁とやらに口をつけた。うは、みたらしを薄めたみたいな味がするがな。うむ…だが予想外の味だが悪くはない。アリっちゃアリだな。おいらみたらし団子好きだし。
ズズズ…と魔汁をすすったところで、一連のやり取りをみていたナビ氏が口を開いた。
「ああ、もういいかな。そろそろ話したいんだが」
「ああ、すまんナビ氏。おけまるおけまる」
俺が適当な返事を返すと、ナビ氏はため息をついてから話を始めた。
「今回、君にちょっとした提案があってね。というのも、君は最近殆ど召喚されないだろう?実はなかなか君に合う召喚士がいないんだ」
「まあ、確かに呼ばれんけども。でもそれ今に始まった事じゃないぞ。最初からだ」
「そうなんだがね、このままのペースだと魔王出現までに成長が間に合わないんだ。こちらの都合で申し訳ないが、君の力は是非とも欲しい。早いところ上位精霊になってもらいたいのだ」
「それはまあ、俺だって成長できるならそうしたい。でも合う召喚士がいないんだろ?どうするんだ?」
俺がそう聞くと、ナビ氏は世界地図を取り出して俺に見せた。
「世界の中心に魔樹大陸という場所がある。地図の…ここ、この小さな大陸だ。ここはちょっと特殊な場所でな、実はこの大陸にはアースアースでも最優秀の召喚士一族…というか部族がいるんだ」
「エリートみたいなやつらか?なるほど、そこになら俺を呼べるやつもいるってわけだ」
「うむ…まあ、そういうことだ。だがここは魔素と瘴気が極端に濃くてな、魔物もSS級以上しかいない地獄のような場所。ここには今まで上位精霊以外を召喚させた事がない。何せここは魔王が現れる地だからな」
魔王…おいおい、なんつう物騒な場所だよ…。完全にラスボスのところじゃねえか。
「で、そこんなとこに俺を送り込むと…。それ、ちょっと鬼畜すぎない?俺さんが可哀想とか思わんかい?」
「そこなんだが…。正直、君はそこいらの上位精霊よりも戦闘力が高い。多分問題なく魔物と戦えるだろう。なので君ならば特別に中位精霊のままでも出撃させても良いと判断したんだ」
そしてナビ氏いわく、俺単身ではなくて何人かの上位精霊と一緒に魔樹大陸の魔物討伐をするのでリスクはさらに低いとの事だった。
少しだけ考え、俺はその案にOKを出した。と言うか、呼ばれる機会が極端に少ない俺にとっては普通に良い話だ。特例でそこに入れてくれるこのチャンスを逃す手はない。
「よし、決まりだな。では一つだけ仕事をしてもらったら魔樹大陸へと送ろう」
「仕事?俺に?何かあったっけ」
「うむ、本当につい先ほど入ったのだ。君、前に精霊珠を人間に渡しただろう?その人間から召喚の申請が来たのだよ」
「以前、人間に?あ、もしかしてそれって」
「ああ、ネクス・アーヴァインという人間だ。ほんの数時間ほどしか顕現させられんがな、行ってくると良い」
と、そんな話をされた俺は、割と急ぎ足でポポーンと下界へ送られた。
……
…
「よっす、久しぶりだな」
久しぶりに会ったネクスは立派なおっさんになっていた。そういやこいつも30半ばか…ヒゲとシワも増えるよな。
「おっ、お前…体が…!!」
そしてそんなネクスは俺のボディを見て驚いていた。前は頭部分しか無かったしな、俺のホワイトスリムボディを見てこんな反応をするのも当たり前か。
「パパー、このうんちが本当に『悪魔』なのー?」
「そうだよ、デイジィ。パパがこの悪魔うんち君、ウンピコを召喚したんだよ」
「わあ、本当だったんだ!パパすごーい!!」
そして召喚珠を使ってまで20年ぶりに俺を呼んだネクスの反応がこれである。どうやら娘ができて、ある意味有名な俺の事を娘に自慢したかったようだ。ネクス君は相変わらずのようで何よりだ。俺けっこう感動的な別れ方したと思ってたんだけどなあ…。
とまあ、呼び出しの理由はしょうもないもんだったけど、俺も久しぶりで嬉しかったし色々と話をした。
ネクスはあの後、知り合ったネクスのファンと結婚したらしい。それで4年前に娘が生まれたとデレデレしながら言っていた。ちなみに娘はデイジィというらしい。どうでもいいけど、ここのパーティメンバー関連って大乱闘ゲームのキャラと名前似てるよな。
他のメンバーの話を聞くと、何とニクソンとヴィーカが結婚したらしい。あんなヤンスヤンス言ってたのにニクソン、やるじゃん。
パックはどうした?と聞いたらネクスは言いづらそうにしてたけど、パックは野獣先輩とくっついたと教えてくれた。
あいつマジか…確かにそっちの素養はあったけど、まさかそう来るとは。一体どっちが妻役…いや考えるのはよそう、誰の為にもならん。
「おっと、そろそろ時間か」
数時間話し込み、俺の体が点滅してきた。今回の召喚は特別なものなので、こういう感じで帰還させられるらしい。
「じゃあね、悪魔さんまた会おうね!」
「…ウンピコ、わざわざありがとな。もしこの子が召喚士になったら面倒見てくれよな」
「ああ、もし縁があってまた会えたらな。それにあと50年で魔王復活だろ?その時はちゃんとお前も前線に出てこいよ」
「ハハ、その時に体が動いてたらな」
「気合いで何とかしろよな。じゃあまたそのうちな」
「おう。…またな、ウンピコ」
そして俺は短い下界の時間を終え、精霊郷へと帰還した。懐かしい友人に会ったし、久しぶりに楽しい時間だった。
「…人間の寿命は60年だぞ」
ネクスはポツリと呟くが、その声は風の中へと溶けていく。
※
「さて、いよいよ行くか。魔樹大陸!」
そして帰還早々に俺は魔樹大陸とやらへ転送。そこでの任務が始まった。
そしてその半年後、土の中位精霊ウンポコは『四獣』の二匹と同時に戦闘し、その結果第一級戦闘不能状態となる。
あの奇妙な形の、一部で愛されていた土精霊。その姿を見る事は無く、もうすぐ50年が経とうとしていた。
長々とおやすみすみませんでした。
またちょくちょくと再開させてもらいます。