046 魔人族の村
「我と契約して魔法少女になろうぞ」
召喚の光に包まれ、転移を確認したところで俺はいつものセリフを口にした。
そして黄金の光が消えて無くなり視界が確保できたところで、呆然と俺を見ているその面々を見据える。
どうやらここはどこかの建物の中らしい。
そしてその場にいたのは三人。少女と成人女性、そして婆さんだ。服装は…おお、着物だ。和風テイストとはイカしてるな。
そしてそいつらには共通する明らかな特徴があった。
蒼白の肌に額のツノ、白目部分は黒塗りになっていて瞳は血のような赤色。
そこにいたのは紛れもない魔人族の人間だった。
「ふむ…今度の召喚者は魔人族か」
その俺の小さな呟きを聞き、ハッと我に帰った様子の黒髪少女は、ようやく口を開いた。
「い、いかにも我々は魔人族の者じゃ!お、お主が此度の召喚に応えた土精霊じゃ…よな?私が召喚士のポルポナ・デイジージュレジュアンナじゃ」
「うむ、よろしくな。しかし相変わらず魔人族の名前は覚えづらいな…前に会ったやつの名前もピュアだかそんな感じしか覚えられんかったしな」
「む。失礼なやつだ、覚えとらんのか。私の名前はピュア・ピーチュリエティアだ」
のじゃロリ少女の覚えづらい名前に対して過去の魔人族の名前を引き合いに出した俺に、横から聞き覚えのある声が飛んできた。
そちらの方を見ると、腰に手を当てて仁王立ちしている三本ツノの銀髪女性。少女の横にいた成人女性だ。
いや、こいつは見覚えがある。確か…
「あ。お前…あの時の魔人族の…えーと、ピュアか?」
「その通りだ。貴様はあの時デーコンの街にいた土精霊だな。随分と可愛らしい体になったものだな」
久しぶりの再会にちょっとだけテンションが上がる俺だったが、スースーする変な感じにふと自分の下半身を見ると足りない物に気付いた。、
「なっ、何だと…!つんつるてんのすっぽんぽんじゃないか!俺の一張羅は一体どこに…そうか、召喚時は物を持ち込めないのか…!」
俺はプリッとした可愛い股間を隠すように砂でモザイク処理を施した。
「これは殺傷力が高いから気をつけろよ」と伝え、不用意にモザイク部分に触らないよう注意勧告をしておく。
その様子を見て若干引いた様子の少女、ポルポナが顔を引き攣らせながらおずおずと口を開いた。
「随分と変わった性格…いや、性格だけじゃないが、不思議な精霊じゃな。ババ様、そろそろ神官水晶で情報は照会出来たじゃろ。こやつ、どんな精霊なんじゃ?」
そう言って老婆に問いかけるポルポナ。しかし老婆は一言も発さず、口を開けたまま固まっている。
「…ババ様?」
そしてポルポナが再度呼びかけると、ようやくババ様とやらは再起動し始めた。
「…ハッ!!す、すまんかった、もう大丈夫じゃ。いや驚きすぎての…まさかこないだ話題になった有名な精霊が出てくるとは思わんかったからの」
「何、そんなに有名な精霊なのか?」
「そうじゃ。此奴は前名ジャスティス。5年前、下位精霊にしてグミグム公国を崩壊させた厄災。その二つ名は『悪魔』。それが此奴じゃ」
その情報を聞いて驚愕に顔を歪める二人。
僻地の割にこのババ様情報通だな。こりゃおそらく神官か。ちょっと祭司っぽい民族衣装チックな服装してるしな。
「そ、それは本当なのかババ様!国を一つ滅ぼしたじゃと?そんなやつを召喚して大丈夫なのか?」
「そんな恐ろしい精霊だったとは…。あの時逃げていて正解だったな」
俺を見ながらワイワイと騒ぐ面々。
「全く…噂だけで俺を判断せんでくれ。ほら、この濁りのない瞳を見てみろよ…青空のように澄んでいるだろ?」
「そんなこと自分で言う奴の話は信用できんわ。私の目には曇りきった夜嵐の曇天に見えるぞ」
なんて失礼なやつだ、この美しい瞳を見て扱き下ろしやがった。この野郎…モザイク外してやろうか。
「しかしポルポナよ、この『悪魔』じゃが、件の事件後に二級精霊へ昇格しておる。つまり此奴のことは神殿も認めておるのじゃ。上手く使えばかなりの戦力になるじゃろうて。そもそも危険な精霊ならば神殿も召喚の許可は出すまい」
俺の遍歴に不満を持った様子のポルポナだったが、ババ様の意見を聞いて「確かにの…」と少し考え直しているようだ。
「実力があるのは間違いないか。それに神殿が召喚の許可を出しているなら確かに危害は無いじゃろう。よし、なら契約してみるかの」
そう言って渋々ながら俺との契約に踏み切るポルポナ。全く…怖がりすぎだぞ。
「うむ、それじゃ俺に名前を付けるが良い」
「何じゃ偉そうに…。しかし名前…名前か、そうじゃな。よし!お前の名前は『ハニャンポポン』じゃ。古代魔人語で“尻から出る恐ろしいモノ”という意味があるのじゃぞ」
「おお、それはいい名前だな。ポルポナは相変わらずセンスが良い」
「ハ、ハニャンポポン…だと。そんなだっせえのが今回の名前…?オニャンコポンの亜種かよ…」
ポルポナの付けた名前を褒め称えるピュア。
その破滅的な名前のセンスに脱力した俺は、ステータスにしっかり反映されている事を確認し、さらに肩を落とした。
「よし、それではハニャンポポンよ、私の村を案内しよう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
魔人共和国。単純明快な名前のその国は、国という体を取ってはいるがその実は、複数の村を集めて国と為しただけの超小国である。
この国が何故他国から侵略されずに存続出来ているのか。
それは魔境に囲まれた地という環境もあるが、最も大きな理由は魔人族の特性にある。
魔人族は魔物を操り自身の力とする、いわゆるモンスターテイムを生業とする種族だ。
穢れた魔物という生物を自分たちの手足とするその特性。他の種族はそれを忌み嫌い、迫害の対象としてきた。
しかし魔物の力は強力で、それが集まる国ともなれば容易に手出しはできない。
そうして世界に忌み嫌われながらも、こうして今日まで国として存続して来れたのだ。
「何かすぐそこになかなかでっかい山があるな。高尾山くらいあるんじゃないか」
村の奥、というかすぐ側に大きな山があり、俺はその山を見て感想を述べる。
「あれは御新山じゃ。今は守って下さるお方はおらんが、もうすぐじゃ。もうすぐ守神様が降臨なさる」
「へえ、守神ねえ。魔人族の守神だからやっぱり魔物なのか?」
「魔物ではない。が、それに近しい存在とも言える。おいおい貴様も知ることになるだろう」
守神、というポルポナの言葉を聞いて感覚的に発した俺の質問に、ピュアが意味深な返答を返す。
魔物じゃない、けどそれに近い…。何だろうな、精霊か?
「…そしてここまでが畑で、ここが集会場。まあ、このコージ村はこんなもんじゃな。他も村もおんなじようなもんじゃ」
一通り村を見せてもらったが、想像以上にショボい村だった。
というか、ポルポナが着物っぽい服を着てるから想像はしていたが、建物もいわゆる茅葺き屋根の和風建築だった。
ここにも転生者の面影を感じるな。
人口は多分500人くらいか?その規模の村が10個集まって国と謳ってるんだから、恐ろしいほど超小規模の国だ。
それでもこうして堂々と生き残ってるんだから、よっぽど戦う力に秀でてるんだろう。
村を囲む魔境、ヤプーの森は、冒険者ギルドでいうところのA〜Sランクに相当する、というのがピュアの見立てらしい。
その魔物を一人数匹テイムすると言うのだから、確かに戦力としては相当なものなんだろう。
ちなみに村は御新山を囲むように配置されており、テイムした魔物は御新山にて飼育しているとの事だ。
という事はあの山、魔物だらけなのか…。勝手に入らんようにしよう。
「それじゃ集会場に入るぞ。村長たちが集まっとるからな」
そう言って目の前の建物の玄関を開けるポルポナ。ちなみにこの村の村長は、後ろから付いてくるババ様らしい。神官にして村長か、ババ様って有能なんだな。
割と広めの集会場の中には、すでに9人の年寄りと一人の若い男、それと水精霊が一人、俺たちを待つようにして座っていた。
そして戸を開けた俺たちに集まる視線。
「待たせたな年寄りども。此奴が今回召喚した土精霊のハニャンポポンじゃ」
そんな言い方で挨拶をするポルポナ。こいつ口の利き方もう少し何とかならんのか。
しかしそれは通常運転だったようで、顔を顰めはするものの爺さん婆さん達は突っ込む様子はない。
しかしそこに意を唱える人間が一人。
「おい、ポルポナ。お前村長たちに対してその口の利き方は何だ!」
そう物申したのは一人だけいた若い男。多分横にいる水精霊の召喚士。そんなところだろう。
「何じゃお前。…おお?もしかしてギルギアか、久しいのー!それで泣き虫ギルギアが私に何ぞ用かの?」
ポルポナの動じない返答に、ギルギアと呼ばれた青年は歯をギリギリとさせて反論する。
「い、いつの話だそれは!今はもう召喚士として一人前以上に活躍してるんだよ!見ろ、俺の召喚した水精霊を!中位精霊だぞ!」
興奮した二本ツノの男、ギルギア青年が唾を飛ばしながら隣の水精霊を前へと押し出す。
背中を押された水精霊は、若干面倒臭そうにしながらも前へ進み出る。
「あー、僕がギルギアに召喚された中位精霊のシャビィだよ。まあ、この辺の魔物なら簡単に無力化出来るくらいには強いかな。よろしくね」
そう言ってヘラリと笑う水精霊のシャビィ。そして俺を見てフンと鼻で笑い、続けた。
「そこにいる気色悪い土精霊よりは、よっぽど役に立つんじゃないかなあ」
「ほう…」
そんなシャビィの挑発を聞いて俺は一歩前に進み出た。
ニヤつくギルギア青年とシャビィ。
そして顔を青ざめさせるポルポナ、ピュア、ババ様の三人。
大丈夫だ、俺は冷静だぞ。こんな事は日常茶飯事だからな。
だから俺は冷静に返答した。
「よし…坊主、殴り合おうや」




