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茶色転生 〜インパクト最強の異形精霊はクールに無双したい〜  作者: 花祭きのこ
第四章 中位精霊編
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045 裏技


【豊穣】を使うと、辺り一帯の魔素が消えてしまうので皆に迷惑がかかる。


その問題を解決するため、スキルの発動に必要な魔力が溜まった二ヶ月後、俺とアクアリム氏は約束通り集合し、訓練場の隅の方にいた。



「では行くぞ、見ててくれ」


「はい。何をするのかは分かりませんが、しっかり見てますよ!」



その返答を聞き、俺はスキルを発動する。



「まずは【土生成】」



目の前に直径5メートル程の土の塊を生成する。

これはただの土塊ではない。何とこの塊に魔力を一万ほど突っ込んであるのだ。

そして次のスキルを発動。



「【異界神の加護】からの〜…【豊穣】!」



俺の尻から出た魔力触手を通して、目の前の土塊に干渉する。

すると土塊はパアァッと黄金色に輝き、マナの気配溢れる土へと変化した。


その変化に目を丸くしたアクアリム氏を横目に、俺は目の前に浮かぶ土へと玉タマネギという野菜の苗を植え付けた。

前回の玉キントキは天を突くほどにツルが伸びてしまったので、今回はあまり背丈が伸びないであろうこの玉タマネギをチョイスしたのだ。


しばらく見守っていると、植えた苗がグングンと異常な速度で育っていき、葉部分が高さ3メートル程になった。

うむ、これくらいなら邪魔にならんだろう。


そして土を解除して消すと、しっかりマナの気配を漂わせた巨大な玉タマネギが、ズシンと地面に落ちた。



「よし、中身はどうだ…っと」



俺が大きな玉タマネギの皮をベリリと剥くと、そこから黄金色の輝きが漏れ出てきた。

うむ、しっかりと金玉タマネギになっているようだ。



「よし、成功だ。どうだアクアリム氏」



そうして俺はドヤ顔でアクアリム氏を見やる。そこには驚愕を顔に貼り付けたアクアリム氏がいたが、俺の呼びかけでハッと我に帰った。



「す、すすすすすごいですよウンポコ君!!そうか、魔力をいっぱい込めた土を作ってそれに【豊穣】を使ったんですね!…あれ、でも【豊穣】は魔素をマナに変えるんですよね?作った土塊、つまりエレメント体は魔力の塊のはず。魔力と魔素は違うはずなのに何故??不思議ですね、気になります!!」


「そこに気付くとは、やはり天才か…。いやまあそこは企業秘密で」



俺の返答に「教えて下さいよ〜!」と泣き喚くアクアリム氏。だが残念、これは秘密の裏技なのだ。



まず魔力たっぷりの土壌を作るところまでは良い。

しかしアクアリム氏の言う通り、魔力と魔素は微妙に違うので、魔力の塊であるエレメント体には普通【豊穣】は使えない。


だが俺には【異界神の加護】がある。

このスキルは魔素に干渉しやすくなるというもの。、これだけ聞くと地味だが、その干渉性能はチート級だ。

魔素が生物の体に留まるように最適化された形が魔力だ。ならばその魔力を、逆に魔素へ戻すことも【異界神の加護】ならば容易いこと。

しかも元々自分の魔力で作った土だったしな、干渉するのも更に容易だったという訳だ。



「だがこれで自力でのマナ野菜生産が可能になったわけだ。俺が作った土壌を使えばここの土地の魔素は消えないだろ?しかもここ精霊郷ならば魔力消費は無し。無限マナゲットの超裏技が爆誕したな」


「あ、それはダメですね!」



何一つ穴の無い完璧な俺の作戦、それを鼻高く見せつけたのだが、アクアリム氏に即否定されてしまった。



「何でよ、理屈は通るだろ」


不満を前面に出しながら問いかける俺への返答は、以下の通りだった。



今回の俺の発想は素晴らしい。

そして、確かに精霊郷には魔力消費をしない結界が張ってある。

しかしそれは別のところ、正確には魔力の貯蔵庫みたいなところから肩代わりしているだけで、無限に使えるわけではないらしい。

精霊には下界で魔物を倒すという使命があるため、精霊郷でなるべく魔力を貯められるように、という配慮なのだそうだ。

故にこのレベルの魔力を際限なく消費させることは許可できない、との事。本来は一万という膨大な魔力を消費する際は申請が必要なのだそうだ。



「というわけで無限生産は無理ですね」


「く、いい案だと思ったのに…」


「ですが確かにこのマナ野菜は惜しいです。なので特別な処置をしましょう」



そう言ってアクアリム氏は指を一つ立てる。


「貯めた自分の魔力を消費して自由にスキルを使える場所を用意しましょう。狭い区画…そうですね…君の家の裏あたりはどうでしょう。5メートル四方くらいですかね、そこだけ結界に穴を開けておきます。そこだけはスキルを使うと自分の魔力を消費する。つまり余った魔力を消費してマナ野菜を作ることが出来るわけです」


「むむ、精霊郷の共有魔力は出せないが、貯めた自分の魔力ならそこで好きに使えるって事か。意外とケチくさいな」


「仕方ないです。そうしないと際限なく使われて魔力の貯蔵が枯渇してしまいますからね」


「仕方ない、それでいいから頼むよ」


「了解です」



そう言ってニッコリ笑うアクアリム氏。

まあいいだろう、マナ野菜生産禁止よりはマシだ。


それに逆に丁度いいかもしれない。

俺はなかなか召喚されないから魔力がいつも余ってる。いつも勿体無いと思ってたんだが、これなら魔力を無駄にしないで済みそうだ。俺は貧乏性なんだよ。


しかしこれで多少はマナの足しになるな。

何せ上位精霊になるにはマナ値が100万必要という話だからな。




「…と、いうわけで…」



そんなことを考えていると、アクアリム氏が急に地べたに正座し始めた。おいやめろ、急にどうした?一応公衆の面前だぞ。



「おい、どうしたアクアリム氏。頭が低すぎるぞ」


「いやあ〜実は私、本当に感動しちゃったんですよ。だってこれ、この精霊郷のシステムを変えかねない能力ですよ?精霊郷の魔素を安定させたまま、マナの成長も出来るなんて…。もしかすると新しい『係』が出来る可能性も…」



地面に正座したままそう語るアクアリム氏。なるほど、この力を上手く使えばここにいる精霊全員にマナが行き渡るかもしれんな。


「いや、それは嫌だよ。これは俺の力だ。俺の力は自分か、俺が認めたやつにしか使わんよ」



そうバッサリと切る俺。

アクアリム氏は「う、でも…」「あ、う…」と言い淀んでいたが、そのうちに「…分かりました」と諦めたようだ。



「ですが!ですが、そのマナ野菜、ちょっとだけで良いので定期的に私に譲ってくれませんか?研究の材料にしたいんです!もしかすると公式にマナ野菜が作れる未来が来るかもしれないんです!小さくてもいいから、どうか、どうかお願いします!」



勢いよく頭を下げ土下座スタイルになるアクアリム氏。こいつ、このお願いをするために正座してたのか。よっぽどマナ野菜が欲しいと見える。もう頭が半分土に埋まってるじゃないか。


俺は「まあ、ちっちゃくていいならやるよ」と返答する。

その返事にアクアリム氏はバッと顔を上げ、ご満悦の様子。なんと現金なやつだ。


「ありがとうございます!!…ちなみにですけど、この金玉タマネギ一つでどのくらいのマナ値なんですか?」



アクアリム氏の質問に、そういえばと思った俺は金玉タマネギに口を寄せ、チュウ〜ッと吸い付いた。


「…うむ、やはり美味い」



そしてステータスを確認すると、マナ値は5000ほど上がっていた。


「上がったマナ値は5000くらいだ。魔力一万使ってるから、もらえるマナ値の目安は使用魔力の半分だな」


「ふむふむ、なるほど。いやあ、ありがとうございます!参考になります」



こうして余剰魔力をマナ値の成長に充てる事のできる「裏技」を手に入れた俺は、アクアリム氏にも定期的に小さなマナ野菜を渡すことを約束しその場を後にした。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




あれから5年、案の定俺は誰にも召喚されずに暇を持て余していた。


そういえば最近知ったのだがこの世界には暦があって、今は精霊暦3245年というらしい。

まだ2回しか召喚されてないが、何気に俺が生まれてからもう20年も経ってるんだな…時間が経つのは早いもんだ。


そんな俺の生活に何か変化があったかというと、ほとんど変化らしい変化は無い。

午前中はレオ、プリ、ポロとの同期トリオとワイワイ遊びながら訓練して、午後はプニムポリムとまったり下界観戦というサイクル。


気付けば、いつの間にか同期とはあだ名で呼び合うようになっていた。こういうのも何か仲間っぽくていいよな…。

ちなみに俺は最近「ポコ」と呼ばれている。まあレオには相変わらず「兄貴」って呼ばれてるけど、あいつはブレない奴だからな。



「さて、そろそろプニムポリムのところへ行くか。あいつは本当ヤンデレだからな」



「遅い、ウンポコ」とジト目で見てくるプニムポリムの顔を想像しながら俺が足を踏み出した時。



ピンポンパンポーン


『土中位精霊のウンポコ、ウンポコ。10分後に召喚が開始されます。直ちに準備をするように。繰り返します、土中位精霊の…』



俺の召喚を告げるアナウンスが精霊郷に流れた。

これは、心の準備も出来ずにいきなり召喚されてきた精霊達が、『出撃係』に何度も要望を出した結果最近出来上がったシステムだ。

何を隠そう俺も要望を出した一人だ。だって心の準備くらいはしたいじゃん、登場シーンとか脳内でリハーサルしたいじゃん。



「ついに来たか」



中位精霊になってから初めての召喚。待ち侘びた出撃だ。、

高まる期待を胸に10分後、俺は黄金の光に包まれた。


そしてウンポコが消えた後、ハラリと音を立てて「マルゲリータ」と書かれた黄色い布が地面に落ちたのだった。


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