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茶色転生 〜インパクト最強の異形精霊はクールに無双したい〜  作者: 花祭きのこ
第三章 『悪魔の精霊』編
34/72

032 プニムポリム

俺たちはジジイの案内で、切り立った崖が乱立する地帯へと来ていた。


「ジイさん、ここって風のやつらが住んでるところじゃねーか。係長ってのはこんなとこにいるのかよ?」


「ここで合ってるわい。何せあやつは風の精霊じゃからの、家が仕事場みたいなもんなんじゃ」



レオパルドが訝しげにした質問に、先を歩くジジイは振り返りもせずに返答する。

そしてしばらく歩くと、崖の上にポツンと建つ塔のような建物が見えてきた。



「見えたぞ、あそこがプニムポリムの住む家じゃ」


その建物が目的地だったようで、俺たちは崖を登り、塔の中へと足を踏み入れた。




「おーいプニムポリム、居るかのー。わしじゃ、レインじゃよー」



入り口のドアを開けてジジイが大声で呼ぶが一向に反応が無い。

ジジイもその反応を最初から予測していたようで、「相変わらずじゃのう…」と呟きながら勝手にズンズンと中へ入り始めた



「おい、人の家なのに勝手に入ってもいいのか?」


そう俺が聞くも、さして気にする素振りも見せず、



「いいんじゃよ、何せあやつは生粋の引きこもりじゃからな。こうして客の方が部屋まで行かんと会うことも出来んのじゃ」


と説明する。

立場が上の精霊に呼ばれても部屋から出ないので、連絡水晶という『連絡係』がスキル付与した道具で連絡を取っているとの事だ。

全く…精霊は食事も排泄も不要だからな。言ってみれば引きこもりの理想形みたいなもんだ。


そんなことを話しながら階段を上へと上がっていき、3階に出て一つの部屋の前まで来ると、ジジイが足を止めた。どうやら目的の精霊はこの部屋にいるらしい。



「おーい、プニムポリム、わしじゃ、レインじゃ。ちょぅとようじがあるんじゃら開けてくれんか」


トントンとドアをノックしながらジジイが呼びかけるが、いくら繰り返しても一切返答は無い。

  


「…何の反応もないな。ジジイ、嫌われてるんじゃないのか?」


「うるさいわい!あやつはいつもこんな感じなんじゃ。重度の引きこもりなんじゃ」


なるほと、要するにコミュ障なのか。だが、これでは埒が開かないな。



「レイン先生、この前はどうやって下界の様子を見せてもらったんですか?」


「うーむ、この間は遠隔操作で投影水晶に映してもらっただけじゃからのう、実はわしも直接は会ってないんじゃ。そういえばもう50年は直接会ってないのう」


プリシールの質問に哀愁を漂わせながら答えるジジイだったが、ふと思い出したように顔を上げた。



「そういえばこないだの時、竜に喧嘩売ったお前の事をえらく気に入っておったな。投影水晶から、お前に会ってみたいとか呟く声が聞こえてたぞい」



そう言って俺に目で訴えかけるジジイ。

なるほど、次は俺が声をかけろってか。

…その情報ホントなんだろうな、全然違ってたら、俺ただの勘違いウンコじゃねえか。


仕方がない、と俺はジジイとバトンタッチしてドアの前に立つ。



「あー、どうも初めまして。俺の名前はウンポコ。黄金竜に昇竜拳をぶちかました一介のウンコ精霊だ」



身も蓋も無い俺の呼びかけに、レオパルド以外は「おいおい」と顔をしかめるが、何とこれが見事に功を奏した。



「…キミ、ウンポコ君?…もしかして、ホンモノ…?」



小さい声がドアの向こうから聞こえ、皆は一斉に静まる。


「ああ、そうだ。この間見てたんだろ?俺が多分映像に映ってたであろうウンポコだ」



「…入っていいよ。…でも、キミだけ。一人だけで来て」


「俺だけか?ジジイとか俺の友達はダメか?」



「…ダメ。ジジイ…レインもダメ。…キミ一人だけ」



どうやら俺一人だけしか中へ入れないらしい。ジジイがコクリと頷くのを見て、俺は「分かった、俺一人で入る」と返答した。


するとギギギ…とドアが開いたので、俺は「行ってくる」とジジイ達に告げ、単身で部屋の中へと入った。




…パターン!



俺が入ると勝手にドアが閉まった。


部屋の中には水晶から立体的な映像が投射されており、そこには豆粒くらいの大きさの黄金竜が映し出されていた。


そして映像の前には背中を向けて座る一人の精霊。その映像の灯りに少女の後ろ姿が照らし出されている。



「…来てくれた。ありがとう」



少女の後ろ姿を見ていると、後ろを向いたまま不意に声をかけてきた。


「…うむ、改めてよろしく。俺がウンポコだ」



そう俺が挨拶すると、少女はゆっくりと振り返った。



「…プニムポリム。よろしく」




長い薄緑色の髪は後ろで無造作にまとめられていて、ややボサボサ。

しかし、その非常に整った顔立ちは目を見張るものがあり、下位精霊のようにデフォルメされた容姿ではなく、人間の姿に近い。

外見的には16、7歳くらいの感じで、起伏に乏しいスレンダーな体型。

うむ、どこからどう見ても美少女枠だな、こりゃ。


長い睫毛をクルリンと跳ねさせ、無表情で翡翠の瞳を俺に向けてくる。



「プニムポリムか…。うむ、何と言うか可愛い名前だな。非常に萌える」


「…?…ありがと。キミもカワイイ形」


「これをカワイイっていうセンスはかなり尖ってると思うぞ。…ああ、そういえば一回だけ下界でヴィーカに言われたことあったな」


「その子はセンスが良い。有望」



と、俺の軽口に乗ってくるプニムポリム。こいつ、喋り方はアレだが、けっこうノリいいな。



「それで、せっかく顔合わせに来たのに何で俺しか中に入れてくれんのだ?」


「キミ以外には興味ない。全然。全く」


「ほう、そりゃまた光栄な事だが…こんな俺の一体どこが気に入ったんだよ」



そう言って俺は割とマジな問いかけをした。

だって俺だぞ?今まで接点無いのにこんなウンコに興味持つかね、普通。

あ、いや怖いもの見たさとか、ゲテモノ好きとか、そういう偏向的な嗜好を持ったお方の可能性もあるのか



「姿。形。強さ。度胸。意外性。将来性。全部気になる。この先もずっと見ていたい」



しかし、プニムポリムは真っ直ぐに俺の目を見ながら、そう答えた。



こ、こいつ目に迷いが無い…だと。

何て綺麗な目をしてやがる、こいつぁ〜

気を抜くと、尻の毛までむしられちまいそうだ。


フッ…しかし甘いな。

俺はベテラン童貞君ではあるが、決して勘違い童貞君じゃあないんだぜ。


こんな男が勘違いしそうな言葉を並べられても、俺は負けない。屈しない!

勘違いして傷つくのは絶対に嫌なんだぜ!


ようし、落ち着け。照れるな。クールに行こうぜ。


まあ落ち着いたところで、非モテ非リアを生涯貫いてきた純朴な俺には、こんな時どう返していいのか正直全然分っかんねえんだけどな!


 


「フッ…お前の好きにするといい」


「うん、そうする」



そして頭をフル回転させ悩んだ(0.1秒)末の俺のクールな返答に、被せ気味に返すプニムポリム。くっ、強い…。



正直すんごく照れくさいので、俺は話題を変えるために、「今は何見てたんだ?」と聞いてみた。


すると「黄金竜」と、またも食い気味の返答。

話を聞くと、プニムポリムは竜、特に黄金竜のファンなのだそうな。この間も黄金竜を追っかけてたらたまたま俺が現れたのだとの事。

そして黄金竜に対する俺の度胸、そして強さに惚れ込んだのだそうな。



「しかしこの黄金竜、何でこんなに遠くから映してるんだ?これじゃ何言ってるか分からんだろ」


映像に映る、豆粒ほどの大きさの黄金竜を見ながら俺は尋ねる。だってこれ、絶対不便だろ。せっかく世界が見えるのに何で超絶遠目なん?



「黄金竜が嫌がるから。竜は近くで見られてると気付く。だから遠くから見るだけ。嫌われたく無い」



なるほど、竜は相当に敏感なんだな。

確かに、こんな豆粒みたいに遠くから映してるのに、たまにチラチラこっちに視線向けてるもんな。こっち見んな。



「あと声は元々聞こえない。見るだけ。出来るなら一度竜と話してみたい」



そうか、これ【万里眼】っていうスキルだったっけな。見るだけで音は聞こえないのか。


しかし音は聞こえなくて正解だな。

あの黄金竜のコロ助みたいな話し方聞いたら、百年の恋も覚めて、その幻想もぶち殺されるぞ。


「ああ…うん、まああんまり期待しない方がいいぞ。夢は見るからこそ楽しいってなもんだ」


「…?よく分かんないけど、分かった」



コテンと首を傾けながら返事するプニムポリム。

くっ、こいついちいち可愛いな…。いや、いかんいかん。平常心だ、クールガイ、ファッキンビッチの精神だ。



「そ、そういえばこのモニター…投影水晶って、見たいもの何でも見れるのか?あ、近距離での竜以外でな」


「可能。見たいもの見放題」


「おお、すごいな!是非、俺にも色々見せてくれ!」


「問題ない。むしろ一緒に見よう」



おお、やった!これで長い待機期間の最高の暇つぶしが出来たぜ!フヒヒ。


「ありがとな。よし、それじゃ試しに…そうだな、ネクス・アーヴァインってやつ見れるか?ベジタル王国にいるやつなんだが」


「ん。任せて」



そう返事をして、プニムポリムは右眼を閉じる。と同時に投影水晶も真っ暗になった。

そして左眼の眼球をグルグルグルグルと高速で動かすと、ある所でピタリと眼の動きが止まる。


「見つけた。…これで合ってるはず」



そうしてプニムポリムが右目を開けると、投影水晶にも映像が映り、そこにはこの前感動の別れをしたばかりのネクスがしっかりと映っていた。



「おお、これは本当にすごいな!ありがとうプニムポリム、お前が邪魔じゃなかったら毎日ここに来たいくらいだ」


「うん、来て。待ってる」



テンションが上がった俺の軽い言葉に、顔を近づけて即答するプニムポリム。くうっ…平常心平常心。



そうして俺は、有能な遊び友達を手に入れたことに喜びながらも、こりゃ勘違いして爆死しないよう距離感には気をつけないとな…。



映像に映る、ダンゴムシに轢かれてピクピクしているネクスを見ながら、俺はそんな事を考えるのだった。おいネクス、ちゃんとミスリルの槍使えよな。


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