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028 黄金の竜

目の前の圧倒的覇者の姿から、誰も目を逸らす事が出来ない。。


その黄金の体からは尋常でない程の威圧感が放たれており、大気をビリビリと振動させている。



こいつは無理だな…。

戦っても勝てる気が全くせん。あの爪の一振りで俺のコアが砕けて死ぬわ。



全く動かない俺たちをチラリと横目で見た黄金竜は、すぐに視線を目の前の蛇蜻蛉へと向け直し、その首元へとかぶりついた。


グシャリと何の抵抗も見せずに砕け散る蛇蜻蛉の首。しばしの痙攣の後、シュウゥとその身体を黒いもやへと変えた。


黄金竜は蛇蜻蛉の魔石をバリバリと噛み砕き、美味しそうに飲み込むとペロリと舌なめずりをした。



「さて」



低く全てを支配するかのような声を発し、黄金竜はゆっくりとこちらへ振り返る。



ああ、こりゃもうダメだ。

こんな存在自体が冗談みたいなやつに目をつけられたら、逃げることすら絶対に無理だ。

俺一人ならともかく、こいつら全員無事にともなるとまず不可能。

こいつが超絶おマヌケさんの抜けポンチンじゃ無い限り、突破口は見つからない。


ゴクリ…と俺たちが身動き一つ取れずに見守る中、黄金竜は名乗りをあげた。




「吾輩の名前はガルガリオン・ヴィルムガルド。貴様たちも聞いた事ぐらいはあるはずナリ。吾輩こそが彼の有名な”黄金の覇者”ナリよ」



んん〜?


…あっれぇ〜?

何だろう…。ちょっと何とかなりそうな気がしてきた。不思議。



その気の抜けた話し方を聞いて俺は少し落ち着きを取り戻したが、竜の名前を聞いて「えっえっ」と4人は更に目を見開いて動揺している。


「あの竜、有名なのか?」と聞いても口がアワアワとするだけで答えが返ってこない。

ダメだこいつら、混乱の状態異常にかかってやがる。知らんけど。



「ククク…貴様らは運がいいナリね。丁度暇していた所だ、吾輩の力の一端をその身で味わってみるナリよ」



俺たちの反応を見た黄金竜はニヤリと口角を吊り上げ、ゆっくりと口を開く。


その口内に恐ろしいまでの魔力が集まり、キュイィィンと凝縮していく。



あれはマズイ!!おそらくブレスってやつだ!!

くう、何て魔力の猛りだ。あんなもん体にかすっただけでも魂ごと消滅するぞ!



幸い俺も魔力を練る時間はあった。

確率は低いが脱出の算段も一応着いた。

やってやる。やらなきゃ全員消滅するだけだからな!



ガパリと開けた黄金竜の口内から黄金の魔力が迸り、大気が震えバチ、バチチと紫電が瞬く。

くそっ、魔力が可視化できるなんて、何て化け物だよ。


そして暴力的なまでの魔力が熱を持って吐き出されるその寸前———



「“昇 竜 拳”《マキシマム・インパクト》!!」



地面から放たれた蒼白の巨拳が、黄金竜の顎目掛けて放たれた。



しかし黄金竜はその拳をガシッと両手で受け止め、軽々と押さえつけてしまった。



ニヤリと笑う黄金竜。

だが、まだだ!



「“昇竜拳弐式”《セカンド・インパクト》!」



俺は巨拳の先端から更に拳を生成。

拳から生えた拳が黄金竜の手をすり抜け、見事に竜の顎を撃ち抜いた。



スコーン!!



気の抜けた音と共に、黄金竜の頭は上へ跳ね上がり、口内の魔力も霧散する。



その隙を逃さず、俺は【異界神の加護】を発動し、破格の魔力を尻に込める。


くっ、この技だけは色々とマズイから使いたくなかったが…この際仕方がない!

そして俺は奥の手を発動した。




「“多重クソ分身の術”《ヘヴンズ・イリュージョン》だってばよ!!」




俺は魔力を干渉できる範囲全てに、俺の分身体を作り出した。



その数およそ300。



俺の愛らしいボディを優先して作成したため、チャームポイントである濃い〜顔はちょっと再現性が低くなってしまった。


しゃくれた顔、パンパンに膨れた顔、目と口が3になってる顔、ゆるキャラみたいな顔など、かなり適当になってしまったが、これが限界なのだから仕方が無い。

どうせ魔物には区別つかんだろ。



自分の周りが一瞬にしてウンコの海と化した事に驚愕した様子の黄金竜。

分身は触手の要領で操っているので、一つ一つがモゾモゾと蠢いている。



「うわぁ…キモいナリね…」


と、ちょっと引いている黄金竜。

よし、効いてる効いてる!この隙を見逃す手は無いぜ!!



俺は未だ硬直しているネクスたちを土でくるみ、おっきなボールを作成。中には柔らかめの土を張り、外は鋼鉄製にしてある。


「え?なっ」


驚くネクス達を無視して、俺はその巨大な玉を斜め上空に打ち上げた。

丁度天井が無くて外に通じてるから助かった!



街の方角へと射出された巨大玉。



そしてすぐに玉と俺の間に30mほどの距離が空き、俺の体は玉の動きに引っ張られて宙を舞った。



ポカンと口を開けて唖然としている黄金竜がどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。


どうやら追ってくる気は無いらしい。何とか逃げ切れたようだ。

…危なかった…本当に命拾いした。



そしてかなりの距離を飛行した巨大玉は、一応俺の操作のもと、何も無い草原へと着地した。



「ふう…お前ら大丈夫か?もう出てきていいぞ」


玉を少しずつ消滅させながら話しかけるが、誰も返答をしない。

どうしたんだ?と様子を見ると、玉の中はゲロまみれで悲惨なことになっていた。


ああ…そうだね。

あの狭い玉の中でシェイクされたらそうなるよね。こりゃ失礼!いやあうっかりうっかり、てへぺろてへぺろ。



「いやぁメンゴメンゴ!ちょっと刺激が強すぎたみたいだな。でも無事逃げ出せたんだし、うん。勘弁な!」



そう笑う俺にネクスは「お前は…アホか…」と一言だけ言い、パタリとゲロの中に倒れた。


「全く…根性の無いやつらだ」」



そう言いながらも、俺は自分の未熟さを痛感していた。

世の中にはまだまだ強いやつが沢山いる。

自分の手が届く範囲で、気に入ったものを守るためにはまだ力が必要だな、と改めて思うのだった。







「しかし一体何だったナリかね、あのウンコは」


そう言いながら黄金竜、ガルガリオン・ヴィルムガルドは茶色い分身体を一つずつプチプチとつぶしていく。

地味だが意外と楽しいその作業に、つい時間を忘れて楽しんでしまったのだ。


「今度はちゃんと吾輩のパフォーマンスを見てもらうナリよ」


自分の凄さ、偉大さをアピールするために、一番派手で強力なドラゴンブレスを見せつけようとしたのだが、変に勘違いしたウンコに邪魔されてしまった。

黄金竜は思い出しながらクスリと笑う。


「今度はちゃんと説明してから見せるのが良いナリね」


そう言って最後の分身を潰すと、満足した黄金竜は翼を広げ、大空へと舞い上がった。


「さて、ここの虫も喰ったし、次はどこの魔境に喰らいに行くナリかね」



そうして黄金竜は気ままに空を駆けていく。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「お前、何てことするんだよ!」



アニアンの宿『腹の限界亭』。その部屋のベッドから起きたネクスが、開口一番そんな事を俺に言ってきた。他の面々もぐったりとした様子ながらも何とか起き上がり、俺へ視線を向けてくる。



「だから悪かったって言ってるだろ。あの時はあの移動方法しか無かったんだよ、分かるだろ?」


と俺が言うが、ネクスの反論は別のものだった。



「違う!それは別に良く…はないが、違うんだ。お前、何であの時あいつに攻撃したんだよ」


「あいつって、黄金竜の事か?いやいや、あれは危ない所だっただろ。あの時俺が攻撃しなけりゃ全員消滅してたぞ」


「そんなわけないだろ!いや、お前…もしかして知らないのか?名前聞いただろ?ガルガリオンって、あの“黄金の覇者”ガルガリオンだぞ?」


「いや…すまんがマジで知らん。何?そんなに有名なやつなのか?」



そう俺が言うと、ネクスを始め、4人とも驚いていた。だが、察したニクソンが説明を加えてくれる。



「ガルガリオンっていうのは、先の魔王大戦で人間に協力してくれた竜のうちの一匹でヤンスよ。ドラゴンマスターのツヨシ・ルリオカ…も知らなそうでヤンスね。そのルリオカが使役していた竜でヤンス」


「ツヨシ…そいつはまた…。いや、それはとりあえずいい。つまりは人間に好意的な竜だったって事か。…じゃあもしかして、あの時あいつは別に俺たちを襲うつもりは無かったって事か?」


「今まで人間が襲われたという報告は無いから、おそらくその通りだと思いやす。あそこまでやって結局見逃してくれたのが良い証拠でヤンスよ」



何でこった…こりゃあ早まった事をしてしまった。

今度会ったらしっかり謝ろう。…いや、やっぱり全力で接触を回避しよう。それが良い。


「そうだったのか…いや、正直すまんかった」


俺が素直に謝ると、仕方ない、生きていたし良かったよ、と皆は許してくれた。こいつら優しすぎだろ…。



「ところでさっきの話だが、ルリオカってやつはまだ生きてるのか?」


と、俺は気になることを聞いてみた。

だって明らかにあっちの世界の名前だよ。

転生者か転移者か分からんが、絶対に日本と関係があるだろう。今もいるならぜひ会って話をしてみたい。


「ルリオカって、確か2回前の魔王大戦…500年以上前に戦ったんだろ?人間なんだからもう生きちゃいないだろ」


「そうそう、ネクスの言う通り、もう死んでるよね。でも竜は4匹生き残ってて、その後も私たちのために戦ってくれたんだよね。1匹は200年前の大戦で死んじゃったけど」


そうヴィーカが付け足す。



「それがルリオカの最後の命令だったって話でヤンスよね。

『黄金竜ガルガリオン・ヴィルムガルド』

『白輝竜ヴァイス・アルテマライト』

『黒滅竜イクシミリオン・シュヴァルツァ』

『剛堅竜タルタロス・ハートワークス』

この4匹でヤンス。そして先の大戦で死んだのが剛堅竜でヤンス」


おお…何て格好良い名前なんだ。

ツヨシ・ルリオカ…こいつぁ間違いねえ、厨二病の匂いがプンプンしやがるぜ!



「でもそのうちの一匹と出会えるとは思わなかったよね。殆ど目撃例も無いみたいだし、普段どこにいるのか分かってないからね」


「本当でヤンスね。噂では魔境で大きく育ったボス魔物を狩ってまわってるって聞きやしたけど、それもあながち嘘じゃあ無さそうでヤンスねえ」


そうパックとニクソンが感慨深げに話す。



その後も話は続き、「竜は死んでも何かの卵からまた生まれる」とか、「ルリオカがコメに生卵を割ってかけようとしたら、その鶏卵から黄金竜が出てきた」とか、都市伝説みたいな話をして大いに盛り上がり、その夜は更けていった。


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