003 土の赤ちゃん
うむ、泥団子だ。
つるっつるの茶色い球体。多分すご〜く小さいね、だってそこのキノコより小さいもん。うーん、大体直径3センチくらい?
うーむ、このタマタマが精霊の赤ちゃんって事なのか…。うっすらと光ってはいるけど見た目は完全にただの泥団子だぞ。
ただ、これだけは分かるぞ…属性は絶対土だろ、これ。正直火とか風が良かったんだけどなぁ、地味属性を引いてしまったようだ。
さっと周りを見渡してみる。
地面の上にはふよふよと大小の泥団子が浮いている。あっちの湖の上にもふよふよと水玉が浮いているのが見える。
あの玉も全部精霊っぽい。
それにしてもみんな飛んでるのね、精霊っぽくて良いじゃん。俺も飛びたい。
それにしても目もないのに、何で周りが見えてるんかな。うーむ不思議だ。
とか考えていたその時、後ろから声をかけられた。
「あ、あの…すいません。今日初めて来られた小精霊様…ですよね?」
声の方に意識を向けると、そこには透き通った羽を背中に生やした、二頭身のねんどろいどみたいな女の子が立っていた。
多分ちっこいんだろうけど、今の俺からしたら相当に見上げる形だ。
緑の長い前髪のせいでお顔がよく見えないけど、多分可愛い。おどおどとしてるし、何だか気が弱そうな雰囲気。
うむ、実に良いね。
「あ、あの、私、精霊様達のお世話係をやらせてもらっています、ピクシーのペペと申します。どうぞ、よ、よろしくお願いいたします」
ペコリと頭を下げるペペ氏。
あ、こっちこそよろしくです。む、これどうやって話せばいいんだ?意思表示出来ませんがな。
「ま、まずは私が【念話】のスキルを使って、私と念話で話せるようにします。わ、私に向かって言葉を強く念じてみて下さい」
おお、念話!便利な能力ですな。
ええと、強く…ぐむむ。
『こんな感じか?聞こえてる?』
「は、はい、バッチリです!」
おお、すごい!本当に伝わったがな。
「そ、それではまずご自分の情報を確認して頂きます。『ステータス』と強く念じてみて下さい」
ステータス!お約束のやつキタコレですな、デュフフ。
では行くぞ…ステータスオーープゥンッ!っと。
すると、頭の中にポワワ〜ンと情報が浮かんできた。
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名前:ー
種族:小精霊(土)
魔力値:1
マナ値:ー
スキル:土生成、言語、異界神の加護
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おお、これがステータスか。ふむふむ…やっぱり俺は土精霊なのね。
そんでスキルは3つと…え、でもこれおかしくね?この最後のやつデフォルトじゃないよね絶対。思いっきり異界って言ってるし。
うーん、これはあとでペペ氏に聞いとこ。とりま今は最初の説明を聞こうか。
『オッケー、無事確認できたよ』
「そ、それでは詳しく説明していきますね」
説明によると、この場所はアースアースの世界の中でも隔離された特殊な空間らしい。
「精霊のゆりかご」と呼ばれ、赤ちゃん精霊から一端の精霊へと安全に育つことのできる場所、とのこと。
ここで少しずつ魔素を吸収していき、魔力量が一定値に達することで精霊への進化許可が下りるらしい。
ちなみに、一定値ってどのくらい?と聞いたら、魔力値2000以上になったらOKとのことだった。
『それで、大体どれくらいの期間で2000貯まるんだ?』
「そ、そうですね…みなさん大体10年くらいでしょうか。も、もちろんそれぞれ個人差があるので誤差はありますけど」
なんと、10年もかかるのか!俺は早く強くなりたいんだが、最初のスタートラインに立つまでが長いな。
とはいえ文句を言っても仕方がない。別に命の危険があるわけじゃないんだし、色々試しつつじっくり成長させて頂きますかね。
『なるほど、とりま理解した。ところで…このもらったスキルについて聞きたいんだが』
「は、はい、それも説明します。ま、まず
【生成】系のスキルですが、これは魔力を消費して各属性のエレメント体を作り出すスキルです。あ、あなた様の場合は土を生成することができます」
「つ、次に【言語】のスキルですが、こ、これはアースアースで使われる全ての言葉に対応できるという優れたスキルです。ただ人間準拠なので、動物や魔物の言葉には対応していません」
「そ、そして3つ目の【飛行】のスキルですが、これは文字通り空を飛ぶことができます。こ、このスキルが精霊様の主な移動手段になると思います」
やはり。
やはり俺のスキルにはおかしいのがあったね。てか俺だけ飛べないとか、地味にへこむじゃんよ…。俺だって空を自由に飛びたいよ。
うーむ、このイレギュラーはさすがにお伝えせざるを得まいて。
『あの…俺、【飛行】が無くて、代わりに【異界神の加護】ってのがあるんだけど…これ何?』
「えっ?……」
…
おや、ペペ氏がフリーズしてしまった。
こりゃよっぽどのことなんだろうね。うむ、これはもう言わざるを得まい。
俺、なんかやっちゃいました?
その後数分固まっていたペペ氏だが、ようやく青白い顔をして現実に帰ってきた。可哀想に、なんか老けた?
『ところで異界神って何ぞ?こっちの神様とは違うよね?』
「わ、わわわ分からないですよ、そんなの!わ、私だって聞いたことないですよ!」
『前例がないのか…仕方ない。こりゃ色々と検証してみる必要がありそうだ』
異界のとはいえ、神は神。きっとすんごい力があるに違いない。こりゃチートの予感!
「と、特別な経緯の方が来ると啓示があったとは聞いてましたが、これは何とも…。
と、とにかく、これからしばらくはここでゆっくりと魔力を育てて頂きます。な、何か特別な事をする必要はありませんので、わ、私は一年ごとに確認に来ます」
と言い、「では頑張って下さい。失礼します」と一礼し、早々とペペ氏は去っていった。
こうして、俺はようやく精霊としての第一歩を踏み出したのだった。