024 野獣先輩
「やった、レベルが10になったよ!」
効率の良い方法を得たパーティメンバーはその後も順調にマナを溜め、パックを最後に全員がレベル10に到達した。
皆がレベルが10になったら、アニアンの神殿で進化の儀を受けようという話になっていたので、これで最初の目標は達成。
というかまぁ、想定外に一日で目標達成してしまった訳だが。
「じゃあ一旦街に戻ろうぜ、さすがに腹もへったしな」
とネクスが提案し、確かにそうだね、と皆も同意。俺たちは来た道を引き返すことにした。
入り口は向かってしばらく歩いていると、道の先の方から何やら音が聞こえる。
「む、どうやら誰かが戦闘しているみたいでヤンスね」
ニクソンが言う通り、先の方から聞こえるのが確かに戦闘音だと分かり、進むにつれその音がが大きくなってきた。
そしてその姿も確認。
獣人の4人パーティが、横穴から出てきた巨大ダンゴムシと戦っているところだった。
「ンアッ…ォオン!アオォン!!」
鋼鉄の大鎧を装備したガチムチの大きなゴリラが、ダンゴムシの転がり攻撃を受け止め、奇声を発している。
何だよその声、聞いてると不安になるわ。もしや、攻撃されて喜んでるのか?…いや、やめよう。考えたくない。
しかしゴリラのパワーは大したもので、わずかに押されつつもガッチリとダンゴムシの縦回転を押さえ込む事に成功している。
「今よ、みんな!やっちゃって!」
ゴリラが叫ぶと、他の三人が斧や鉄の棍棒などを手に取り、皆でダンゴムシを殴り出す。おお、なかなか手際が良いな。
「すごい、かなり安定した戦い方だね」
「本当は俺たちも、ああいう戦い方が理想なんだよなぁ。でも今はまだ完全にパワー負けしちまう…。もっとレベルが上がったら俺たちも実戦で練習しようぜ」
パックとネクスがそんな話をしている間に、鉄鞭みたいな武器を持ったゴリラがダンゴムシを思いっきり叩いた。
ゴパアァン!と激しい音が鳴り、ダンゴムシの胸部がベッコリとへこむ。そしてそのままダンゴムシは、黒いもやとなって消えた。
「やった!倒したぞ!」
「先輩!ヤジュ先輩!大丈夫っすか!?」
「ふふふ、ありがと。私は大丈夫よ。ホラ見て…こ〜んなにピンピンしてる」
魔物を倒した獣人パーティは勝利を喜び合っているようだ。
ゴリラ、犬、豚、牛の、筋肉ゴリゴリむさ苦しい男4人パーティか。
それにしてもあいつら、何かお互いの距離がやたら近いな…。まあ、ただの気のせいだろう、うん気のせいに違いないな、間違いない。
と、ここでニクソンがさっきのダンゴムシを鑑定レンズで覗いていたらしく、その確認した情報を教えてくれた。
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名前:ハードバグ
種族:魔物(虫)
ランク:B−
戦闘力:2351
特殊能力:硬化、大回転
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うむ、なるほどね。
脅威に感じる部分は特に無いな。まぁ硬いんだろうねって感じ。
正直俺は一刻も早くこの場を早く立ち去りたかった。
だってあいつら怖いもん。何か、こう…とにかく怖いもん。
しかしニクソンが引き留めて魔物の情報を説明し始めた事で、あちらのゴリラがこっちの存在に気付いてしまったようだ。
「あらぁ…あなた達はだぁれ?ここはBランク魔境よ、あなた達ってそんなに強そうに見えないけど」
と言いながらゴリラが近寄ってきた。
くっ…こいつ、何か微妙にケツをプリプリさせてるのが腹立つ!やめてくれ、SAN値が削れる。
「いや、こう見えて俺は召喚士なんだ。一応Aランク冒険者ってことになってるよ」
とネクスが普通に答えた。
こいつ、このゴリラを前にして危機感とか全然感じないのか?ちょっとすげえな。
「ウホッ、いい男…」と呟いたゴリラは、締まりのない顔になる。
「へえぇ召喚士!あっちの坊やの他にも、この街に召喚士が来たってことね。うん、いいじゃないの、へぇ、ふぅん…」
ゴリラはネクスの顔と体を舐め回すようにジロジロと見ると、次は横にいる俺に視線を向けた。
ゴリラは一瞬ピクリと驚いたような反応を見せたが、興味深そうに俺の事も見てくる。
「そうやって無遠慮に見てくるのはやめてくれ。俺はそういう趣味は無いんだ」
俺が話すと、ゴリラはまたちょっと驚いたような反応を見せ、顔を離した。
「あら、ごめんなさい。あなた精霊…よね?私、精霊ってまじまじと見たことが無くって、ふふ。こういう変わった形の精霊もいるのね、ビックリしちゃった。でもこうしてよく見たら、ちゃんと精霊って分かるわね」
はっきり分かんだね、と言いゴリラは笑う。
「私の名前はヤジュ。Bランク冒険者で、このパーティ『真夏の夜の獣道』のリーダーよ。みんなにはヤジュ先輩って呼ばれてるの、よろしくね」
そうにこやかに自己紹介をしてきたヤジュ先輩、いや野獣先輩。
それに対して「よろしく!」と普通に自己紹介を返すネクスを横目に見ながら、こいつはヤベェ…ガチの人じゃないか!と俺は戦慄していた。
いや、人それぞれの価値観があるんだし、別にいいっちゃいいんだけど。俺に被害がなければ。
うん…うん、そうだよ何も問題は無かったじゃないか、ただし俺に被害が無ければ。
狭い価値観だった事を反省した俺は顔を上げる。
すると野獣先輩はすでにネクスの肩に手を回し、「へえ、ここ今日が初めてなの…じゃあ先輩がいろいろと教えてあげないとね」なんて言いながらすんごい顔を近付けていた。おいネクス気をつけろ、危ないぞ!
野獣先輩のパーティメンバーはそれぞれ、犬の獣人がタダノー、豚の獣人がハターノ、牛の獣人がトーノーというらしい。
俺は全く興味が無いから覚える気はなかったが、それぞれ「よろしくオナシャス!」と丁寧に俺に挨拶してきた。まさに後輩の鑑。
意外にも野獣先輩は真面目に指導してくれているようで、チームの動きや洞窟での戦い方など、本当に色々教えてくれた。
ネクスとの距離が近く、明らかにヴィーカへの対応が塩なのはまあ、多分気のせいだろう。
ヴィーカは「もう、何なのよ…」と不満を口にしていたが、そこはご愛嬌というもの。人種が違うのだよ。
手厚い指導を受け、一区切りがつくと野獣チームは奥へ、俺たちは入口へとそれぞれ別れることになった。
「また街で会いましょうね」
と言われたネクスは「はい、また!」と明るく返していたが、ヴィーカはともかく他の男二人も何かを感じていたようで、何だか苦い顔をしていた。
「あのさぁ、ネクス。あんまりあの人と仲良くしない方がいいんじゃないの?」
「何だよヴィーカ。あんないい人に向かってお前、何で事言うんだよ!」
「いや、ネクス…僕もあんまり言いたくないけど、ヴィーカの言う通りだと思うな。ぼ、僕もネクスがその、先輩と距離が近いの嫌だし…い、いや何でも無い。とにかく少し距離を空けようよ」
「何だよパックも。…ニクソンもそんな顔して、お前らちょっとおかしいぞ」
「やめとけお前ら、ネクスはちょっと頭のかわいそうなやつなんだから。こういう奴は痛い目にあって初めて気付くのだ…そう、自分の愚かさというものに」
俺がそう締めると、納得いかない顔をしたネクスは「何なんだよ…」と石を蹴りながら文句をこぼした。
む、いや待て、ちょっとスルーしかけたけど。
え?パックお前まさか…。まさか薔薇の世界の住人だったのか?なんて事だ、こりゃ油断できねぇぞ。
はるか後方から、うっすらと「…ンアッー!アーッ…ス!」という雄叫びが聞こえてきたが、実際あれは魔物と戦っている声なのだ。間違ってはいけない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
今日は宿に泊まって明日神殿で種族進化の儀式をお願いしに行こう、という事になり、俺たちは部屋で話し合いを始めた。
話の内容は、戦闘スタイルの変更点と、進化でどういうスキルを取るかというものだ。
どうやら進化の際には、かなりの選択肢の中から好きなスキルを選んで習得できるらしいのだ。う、羨ましい…。
その分初期スキルよりは性能は劣ったものになるでヤンスが、とはニクソンの言だ。
「で、今日一日を見てお前はどう思ったんだよ、ウンピコ」
気だるげにソファに座るネクスが俺に問いかける。
「そうだな。まず率直に言うと、パックとニクソンは武器を変えた方がいいな。なんせ圧倒的に火力が足りない。まあパックに至っては、攻撃の時は盾じゃなくて武器を使えって話なんだが」
玉の中から俺は意見を述べ、改善のために「とりあえずお前らのステータス教えてくれ」と頼むと、三人ともすぐに教えてくれた。
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名前:パック・ヴォルクナー
種族:唯人族
レベル:10
戦闘力:443
魔力値:21/21
スキル:頑丈、怪力、捨て身
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名前:ニクソン・ポルカスク
種族:唯人族
レベル:10
戦闘力:425
魔力値:22/23
スキル:索敵、器用、俊敏
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名前:ヴィーカ・シュレッド
種族:唯人族
レベル:10
戦闘力:402
魔力値:23/26
スキル:狙撃、貫通、遠目
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そのスキル構成を聞いた俺は、なるほど確かにこいつら凄くバランスが良い、優秀な才能を持っているなと感心した。
そして同時に、ネクスの魔力値は人間の中では高かったんだなあということも分かり、これまた感心した。
そしてそれら感想を含め、全てを考慮した上で俺は再び意見を述べる。
「まずパック、さっきも言ったがお前はまず武器を使え。せっかく【怪力】があるんだから、武器で殴るだけでも全然違うだろ」
「武器は、そうだな…。乱暴に使っても壊れにくいのがいい。ゴリ…野獣先輩が使ってた鉄鞭みたいなやつとか丁度いいんじゃないか?」
俺がそう提案すると、ソファに腰掛けたパックは嫌そうな顔をして考える。
「あの武器かぁ…僕ちょっと嫌だな。それなら小型のメイスとかにしようかな。大盾持っていても使えるしね」
そう言って、パックは自分で答えを出した。
ちなみに【頑丈】と【怪力】は常時発動型で、【捨て身】はお察しの通り高リスク攻撃らしい。だからこいつ魔力全然使ってないのね。
「そしたらお前は進化で、魔力消費して強力な攻撃が出来るスキルを取るべきだな」
と方向性を決めた。
「次はニクソン、お前もやっぱり決定力がに欠ける。まあ斥候だし戦闘特化じゃ無いから仕方ないんだが、今の超接近戦だとリスクとリターンが見合って無いな」
言われたニクソンも「そうでヤンスね、結構ヒヤヒヤしながら戦ってるでヤンスからねぇ」と頷く。
「だからお前は少し離れて近中距離で戦うのがいいと思う。具体的なオススメ武器はズバリ鎖鎌だ」
「お前のスキルは3つとも常時発動だろ?【器用】があれば扱いの難しい鎖鎌も問題無く使える。そして隙を見て、素早さを生かし弱点に一撃を叩き込むんだ」
鎖鎌と聞いて難しい顔をしたニクソンだが、「それなら確かに余裕を持って立ち回れそうでヤンス…」と頭を巡らせている。
「そして取得スキルは投擲系のスキルが良い。中長距離からナイフや短槍を投げてもいいし、目潰しなんかを投げてもいい。立ち回りの幅が増えるぞ。時点で力が強くなるスキルだな」
そう言われたニクソンは「すごく参考になったでヤンス」と、納得した表情を見せた。
「続いてヴィーカ。お前は…正直火力アップだけを考えればいいと思う。結局遠距離攻撃は強いからな、更にスキルを重ねて攻撃を強化するのがいいだろう。魔力量を増やすのもいいな」
考えをヴィーカに伝えると、「私が一番優秀ってことね!ありがとうピコちゃん!」とベッドに寝転がりながら喜んでいた。現金なやつだ。
さてこれで全部終わりだな、と話し合いを終わろうとすると
「おい、俺わぃ!俺へのアドバイスわい!」
とネクスが割り込んで来た。
こいつはもう、全くもう。
「ネクス、お前は何でもいいよ、どうせいつも精霊が付いてるんだし。それに今でもバランスいいだろ、魔力回復で他のやつよりスキル回数使えるんだから。もう適当に、生け花とかのスキルでいいんじゃないか?」
「何で俺だけそんな適当なんだよ!ひどくない?ウンピコお前、俺のこと嫌いなのかよ!?」
「言わせんなよ恥ずかしい」
「こっ、この野郎…!ん、いや待て。お前もしかして知らないのか?召喚士は精霊が帰った後、一年間は召喚出来ないんだぞ。その間俺だって危ないんだぞ!」
なんと、それは初耳だったな。
確かにそれなら余計に俺が鍛えてやる必要性が出てきたな。全く…しょうのない奴だ。
「ふむ…それならネクス、お前は防御系統のスキルを取れ。召喚出来ない期間も冒険者やるんだろ?なら死なないことが第一だ。それに今死なれても俺が不完全燃焼になるしな」
俺がそ言うと、ちょっと鼻白んだ様子で
「お、おう…そうか。ありがとな」
と何か礼を言ってきた。
何だこいつ?チョロインみたいな挙動しやがって。お前は決してヒロインでは無いぞ、勘違いしないでよねっ!
こうして話し合いは幕を閉じ、明日の種族進化の儀式を迎えるのだった。




