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002 転生したら泥団子だった

ーー白い、白い空間だ。


何も感じないようで、全てを感じる矛盾的な感覚。重くて軽い。冷たくて暖かい。特に尻のあたりがすごく生暖かい。

自分の体に目を向けると、体の輪郭が薄ぼんやりとしていて、淡く発光しているように見える。

そして尻のあたりには茶色いものがこびりついている。


俺、どうしたっけ?

たしか、最後の記憶は…ええと…

犬のうんこ…牛のうんこ…ケンシロウおじさん…



ハッ!そうだ、俺うんこ踏んで足滑らせて世紀末デコトラに轢かれたんだった!


死んだのか俺…

はぁ〜マジか…しょうもない…実にしょうもない死に方だった。まさか最後が糞轢死くそれきしとは…。もうちょっとこう、心がぴょんぴょんするような死に方がよかったよ。


しかしまぁ…仕方がないか…。

うむ、俺はありのままを受け入れられる器の広い男なのだ。これまでそうしてきたし、これからもそれは変わらない。

ネット傭兵稼業も大分やりつくした感があるし、未練も大して無い。

あ、でも畑の芋どうなるかな。まぁ誰かが勝手に掘って持ってくだろ。主に違法滞在してる諸外国の方々とか。



それにしても現世は大変だろうなぁ。

今ごろケンシロウおじさんも、「お前はもう…死んでいる」とか言って満足気に手錠かけられてるんだろうな。おじさんには是非やりきって頂きたい。



しっかしどうでもいいけど、何で死んでまで尻にこんなもんくっ付いてんだよ…。

マジでどうなってんの?クソの怨念すごすぎだろ…



そんなことをボンヤリと考えていると、



『おや、気が付いたかい?異界から漏れ出した魂君』



と、何だか耳ざわりの良い声が頭の中にポワンポワンと聞こえてきた。


むむ、誰だ!人を漏れ出ちゃった異物扱いする奴は。傷ついちゃうぞ!



『はは、これは申し訳ない。僕は神と呼ばれる存在の一人。精霊を司る精霊神ってとこかな』


ナ、ナンダッテー!神様ときたもんだ。

むむ…ということは…。こ、この展開は…!こりゃアレですかね。定番のアレ!



『そうそう、定番のアレだよ、さすが理解が早いね。地球では流行ってるよね。僕もよく読むよ、ラノベ』


おお、やっぱりそうか!やった!転生だ!異世界!?異世界なのか!?異世界ハーレムチート無双なのか!?



『そうだよ、異世界転生だよ。おめでとう、君は選ばれたんだ。いやぁ、一応無作為に選んでるつもりなんだけど、何故かオタクの人たちって当たり引きやすいんだよねー。何でだろ』


ふふ、能力使いは能力使いに惹かれ合うって金髪の吸血鬼様も言ってたし、引力がどうたらこうたらって神父様も言ってたしな。


『とまぁそういうわけで、君には今回精霊に転生してもらいます!』パンパカパーン』


むむ、いわゆる人外転生パターンのやつね。うん…悪くない。悪くはないよ。普通にかっこいいし、強キャラムーブかませそうな予感。



『そこで君にやってもらいたいことは、簡潔に言うと、魔物駆除と、これから出現する魔王的なアレの討伐です』


何と、魔物に魔王の討伐か。こりゃ完全にテンプレファンタジーだな。



『僕の管理する世界、アースアースには魔素っていうエネルギーが循環してるんだけどね、その魔素と瘴気っていう良くないモノが混ざり合うことで魔物が発生するんだ』


『この魔物は放っておくと魔素をどんどん吸い取っちゃうし、他の生き物を襲うから駆除が必要なんだ。そこで精霊の出番ってわけ』


なるほど…つまりは無双ゲーみたいに、魔物絶対殺すマンになれってことか。オーケーオーケー。

しかしどうでもいいけど、アースアース…ガチホモっぽい名前ですな。



『そして魔王的なアレ。こいつは魂と意思があって大体300年ごとに生まれるんだ。魔物を率いて世界を滅ぼそうとする、悪意の塊だ。君にはこいつに対抗する勢力の一人として戦って欲しい』


魔王様は完全悪のパターンか、王道のやつだね。ゲーム的で面白そうだし、やってやろうじゃん。



『ちなみに魔王は相当強いよ。前回は大精霊が1体以外全部死んじゃったし.その下の上位精霊も7割方死んだ。次の魔王出現まではあと80年くらいかな、早いとこ戦力を整えたいんだよね』


えっ、ちょマ?ほぼほぼ死ぬじゃねーか!どうすんだよ、負けないための対策はしっかり用意してあるんか?



『だから君みたいな別世界の魂にも干渉を試してみたんだ。もしかしたらすごく強くなるかもしれないしさ!もちろんそれだけじゃないよ、今回は精霊の数自体も大分増やした。そのせいでちょっと成長が遅くなっちゃってるけどね。人間も格の高い召喚士が増えてるし、十分戦えると思うよ』


そうか、なら大丈夫かな…。

む、しかし召喚とな。もしや精霊は召喚獣的な感じなのか?



『その通り。召喚士が召喚スキルを使うことで、初めて下界に顕現できるんだ。一応格での区分けはしてくれてるけど、どんな人間に呼ばれるかは分からないよ。あ、ほらガチャだよガチャ!好きでしょそういうの』


いや、そんなガチャ嫌だよ俺は。

むむ…しかし、相手は選べないのか。

これ、悪人に召喚されたらいいように使われそうな気がする。

ゲームでもそういうやつ多かったし。それか戦争の道具にされたりとか普通にありそう。



『そういうことも、まぁあるだろうね。君たちはいわば兵器みたいなものだし、欲深い人間は確かにいる。人間や時には同胞と戦うこともあるだろうね』


おいおいマジかよ、そんなんでいいの?魔王と戦うってのに、そんなことしてる暇ないだろ。



『だから神官たちには魔物に専念するよう啓示は出してるよ。それでも戦争って起きちゃうものだし、そこは割り切って君の成長の糧にするといいよ。人間も死ねば一応世界に魔素として還元されるし、経験値的なやつも手に入るよ。あっ、でも若い精霊はなるべく殺さないで欲しいかな。一応手間がかかってるし、魔王戦に向けての貴重な戦力だからね』


うーむ、なかなかに冷淡な考え方。神様故の大局的な視点ってやつかね。

何かいつ死んでもおかしくなさそうな世界だし、こりゃ気合い入れて強くならんと…。


ということで神様、定番のチートスキルの授与オナシャス!


『あー残念だけど、個人個人に特別な力を与えてる余裕なんて僕には無いよ。でも一応デフォルトでスキルは3つあげるし、成長していけば自然と強くなるよ。大丈夫大丈夫』


ぐぬぬ、チートは無しか…。残念。こりゃ地道にやるしかないか。あい了解です。



『それじゃそろそろだね。これから君を精霊の赤ちゃんに転生させるよ。そこから先の事はお世話係がいるはずだから、その子に聞いてね』


よし、なんだかんだ言って楽しみになってきたな。神様、俺最強の精霊になって魔王をぶち殺してさし上げますわ!


『うんうん、よろしくね。じゃ、うんこ踏んで死んだうんこマン君。期待してるよ!がんばって強くなってね!プークスクス』


あっテメ!ケツにうんこ付いてるからってバカにしやがったな、お前ちょっと姿見せ…うわあああぁーー!!!

シュビビビャーーーン!!ピュイピュイ!!ピュルルシュボンッ!!



俺の体は無理やりに圧縮されたあげく、チュポンと次元の穴的な裂け目に吸い込まれていった。





『ふう…これで良し、と。しかし面白い死に方してたから、ついからかっちゃったよ』


『それに…あのお尻についてたのって、多分あっちの世界の…フフ。ホント…楽しみな子だ。ああ、でも彼が大精霊になっちゃったらどうしようかなぁ、色々考えておかないとね』




ーーーーーーーーーーーーーーーー





うーーん…

ううぅーーん……

あの神様ヤロウ…ぶち殺してさしあげますわ……



ハッ!…こ、ここは一体!



目が覚めるとそこは、暖かな地面の上だった。


森もあった。湖もあった。火を吹く山もあった。

それら全てが光の壁で囲まれ、一つの箱庭のようになっていた。


そして俺は、ちっちゃ〜い泥団子になっていた。




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