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017 ピュア・ピーチュリエティア


「ふぅ…危なかった。マイケルさんに止められて街に入れない所だった」


と安心して一息つく俺。するとヴィーカが


「何で隠すのよネクス。精霊様よ?別に堂々としてたらいいじゃない」


と不機嫌そうに苦言を呈してくる。

こいつ、最初はあんなにキモがってたくせに、あの強さを見た途端に意見を180°変えやがって…。


だがそれは俺のプライドが許さない。


あれだけ毎日「俺はカッコいい精霊を呼ぶんだ!」と公言していたんだ。

それがこんな、喋るウンコが俺の精霊でしたなんて…とても周りには言えない。

果物屋のおばちゃんも道具屋のお姉さんも応援してくれたのに、一体どんな顔して伝えればいいんだよ。

俺はまたため息をつく。

 


「はぁ…どうしようかな」


「ちょっと気にしすぎじゃあないのか?他の奴らはそんなに俺のことを恥ずかしがってるようには見えんぞ」


「パックとかヴィーカは自分の事じゃないから冷静でいられるんだよ。俺は色んな人にカッコいい精霊呼ぶって宣言しちゃったからなぁ」


「ふむ…じゃあとてもカッコいいマッスルボディで横に立ってやろうか?」


「お前やめろよ!あれマジで気持ちわる…ぃ…」


俺は惰性での話をやめ、ようやく誰と話していたのかに気付き、隣にいるウンコを見下ろした。



「おっ…お前、何で出てきてんだよ!ちゃんと半分でもいいからボールに入ってろよ!」


「いや、あれ無理だぞ。グッて入っても、すぐにニュルンと出てきてしまうからな」


「そうよ、ウンピコちゃんが可哀想じゃないの。ネクスも我儘言ってないで、ちゃんと優しくしてあげなさいよ」


「そうだね、強い力を持った精霊様なんだし、もっと堂々としてていいと思うな」


「ヤンスヤンス」



俺が慌てていると、ヴィーカ達もウンピコの味方を始めやがった。くそう、裏切り者め…!


師匠たちの方へ目を向けると、澄んだ目をして「そうだよネクス。ウンピコ様を大切にしなさい」と言われた。なんか瞳孔開いてて怖いよ師匠。


全てを諦めた俺は「分かった、もういいよ…」と肩を落とし、宿屋へと足を向けた。



「うわっ、何だ!」


「ひ、ひいっ!」


「ママー、あれなぁに?」


「しっ!見ちゃいけません!」



案の定、街を行き交う人のいろんな声が聞こえる。


さらに途中、ウンピコが「目線が低い。高いところから街を見物したい」と言い出し、俺の頭の上に乗ってきた。

もはや抵抗する気力が無くなった俺はそのまま歩いていたが、俺は「ウンコ頭」とか変なあだ名を付けられていませんように…と神様に祈った。

後日、「便髪のネクス」という通り名がついているのを知った俺は静かに泣いた。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



ネクスが宿に着くと、ヴィーカとパックは魔石を持って冒険者ギルドへ、ニクソンは道具屋へ、赤緑のおっさんズは「宿屋で待っていなさい」と言い残して神殿に報告へと、それぞれ別行動となった。


ネクスは魔力を大分使ったせいか、「疲れた、寝る」と言い、すぐにベッドで寝てしまった。



ううむ、暇になってしまった。


ネクスとは何か不思議パワーで繋がってる感覚がするので、あんまり離れられなさそうな感じがする。…いや、暇だし試してみるか?


俺は魔力触手を駆使して、2階の窓から下の路地へとダイブする。

下に犬がいて、めちゃくちゃ吠えながら逃げていったが、多分人には見られていないだろう。



路地裏を進み大体30メートルくらいは宿から離れただろうか、丁度大通りにぶつかる辺りで前へ進めなくなってしまった。 


ふむ、このあたりが離れられる限界ってとこか。とりあえず戦闘に支障は無さそうだな。

それに何となくだけど、成長したら射程がもう少し伸びる気がする。いや、伸びて欲しい。

上位の精霊になるほど規模が大きい術が使えるらしいし、この距離だと召喚者が危ないからな。




検証を終え、巨大ウンコに擬態しながら宿屋へと戻っていると、途中にある細い横道の先から男の怒鳴り声が聞こえてきた。


何だ?と興味本位で覗いてみると、男2人が細身の人間を壁に追い詰めている様子が見えた。 


ボロボロのマントを頭から被っているため顔はよく見えないが、身長と線の細さから女性のように見える。


そうこうしているうちに、男の一人が怒鳴りながら腰の剣に手を伸ばし始めた。

やや、これは良くない。俺もこんなところで死体を見たくは無いし、仕方ないが助けてやるか。


俺は土で2メートル超えのマッスルボディを形成し、のっしのっしと歩いて男たちに声をかけた。



「オイ…こんなところで何をやっている。邪魔だ、散れ」


と慈愛たっぷりに優しく言うと、俺を見た男たちは「ヒイァーーッ!」奇声をあげ、全力で走り去っていった。 

おい、剣落としていったぞ。



「お前は大丈夫か?ちょっと落ち着けよ」



と、俺はフードから顔を覗かせたそいつに話しかけた。



額から3本のツノを生やし、白目部分が黒塗りで赤い瞳、そして蒼色の肌。そこに居たのは魔人族の女だった。



「…何故止めた?そして何故魔人語が話せる。貴様、何者だ」


「お前から物騒な魔力の発動を感じたからな。それに理由も分からんのに一方的な殺戮を見せつけられたくない。俺は昔、一方的に送りつけられたブラクラのURLを踏んで、恐ろしい目に会ったというトラウマがあるんだ」


「ブラ…何?何言ってるのか分からんが…その珍妙な姿と魔力、言語能力…。そうか。貴様、精霊か?」


「おっ!お前も魔力とか感じちゃうクチ?その通り、俺は精霊様だ。もう少し尊敬してくれても良いんだぞ」



俺が優しくジョークを言うが、女は「こんな姿の精霊の情報は無かった…新個体か?しかし精霊がいるとなると…この街はこれまでか…」とブツブツ独り言を言っててリアクションがない。

磯野〜、会話のキャッチボールしようぜ!



「おい、女。何で魔人族がこんな所にいるんだ?魔人族はもっと北の地に住んでいると聞いたぞ」


と、ジジイから聞きかじった知識を元に言うと、女はこちらに向き直った。

 


「女ではない。私の名前はピュア・ピーチュリエティアと言う。覚えておけ。私はちょっと…とある物を探しているだけだ、この街も卵屋を見たらすぐに出て行く。だからもう私に関わるな」


「えっ何て?ピュ…ピーチュ??魔人族の名前って皆そんなに分かり辛いの?」


と俺は戸惑うが、「では、さらばだ」と女はものすごい速度で走り去ってしまった。


ピーチュリ…もうピーチでいいや。まぁ魔人族は長生きって言うし、またピーチとは会いそうな気がするぜ…。と一応フラグを立てておこう。


蒼色だけどけっこう美人だったし、何より俺の姿を見て一切引かなかった。俺としては割と好印象だったのだ。






そして俺はネクスの部屋へ戻ってきた。ネクスはまだ寝ていたが、ヴィーカとパックは帰ってきていて宿屋のロビーにいた。

暇だった俺は普通にロビーに出て二人と話をした。


冒険者ギルドでは魔石の買取をしてもらったとの事で、今日の相場では極小魔石一つ205ペスになったらしい。ペスというのはこの東大陸の通貨で、大体30ペスあれば一食食べれるらしい。 

食うだけなら冒険者は良い商売だね。



そして冒険者ギルドで言われた重要なことが一つ。無事召喚成功の報告が神殿に届けば、精霊が在中の時に限り、召喚士はAランクに昇格するとのことだ。

今までEランクだったのに大丈夫か?とも思うが、このランクが俺たち精霊に対する国の評価なんだろう。期待されてますなぁ。


そんな事を話していると、低級の魔力回復薬を手にニクソンが帰ってきた。

この薬は一万ペスもするところ、8500ペスに値切ったでヤンスとニクソンが得意気に言っていた。たっけ。 


それでも回復するのは魔力値15程度。普通は3食食べて休んでも、魔力値は1日で1しか回復しないらしいから、そりゃ魔力回復薬は超有用アイテムだわな。  

ただ、下痢になったり微熱が出たりと結構体に負担がかかるとのこと。うむ、ちゃんとリスクもあるのね。



そうしてしばらく皆で休憩していると、起きたネクスが部屋から出てきた。

魔力回復薬を渡されたネクスは嫌そうな顔をしつつも一息で中身を飲み干し、「まっずぅ〜…」とえずいていた。味もリスクの一つだったか。



ようやく体調と魔力を少し取り戻したネクスも合流し、皆で赤緑のおっさんズを待っていたが結局その日は二人とも帰ってこず、次の日を迎えるのであった。


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