016 まるでお相手になりません
鬱蒼と緑が茂る森の中。
今は暖かい時期ということもありブンブンと虫が飛び回っていて、それを皆邪魔そうに手で追い払っている。
そんな中俺たちは、ヤンスがチャームポイントのニクソンに先導され、森の中を進んでいた。
俺はというと、ネクスの横をお馴染みの並行移動でスイーッと軽やかに滑走中。
周りの奴らは見ちゃいけないものを見てしまった的な態度でチラチラ視線を送ってくるが、赤緑のおっさんズは「おお…これが奇跡の御技…」とか言って拝んでくる。
いや、奇跡じゃないよ。見えないと思うけど割とキモい触手の御技だよ。
そうして歩いていると、先導していたニクソンが足を止め、「…この先にいるでヤンスね」と報告してきた。どうやら魔物が出たらしい。
いよいよ魔物と初エンカウントだ。まず負けはしないだろうが、少しだけ緊張するな。
「丁度いいじゃん。このウンピコの実力見てみようぜ」
とネクスが言い、皆も「それが良い」と同意。俺も別に良いぞと返す。
そして俺を先頭にして少し進むと、4匹のサルみたいなやつと1匹のでかいカブト虫が見えてきた。
ふーむ…初めて魔物見たけど、思ったよりキモいな。だが何とも弱そうな感じだ。
「あれはゴブリックモンキー、通称ゴブザルです。それと、ゴブレクスビートルですね、通称ゴブ虫です」
と赤のおっさんが教えてくれた。
どちらも初心者の冒険者でもパーティを組めば問題なく倒せるレベルの魔物とのことだが、「数が多いけどホントに大丈夫?」と女の子、ヴィーカが心配してくる。
この子、今一つ俺の強さを信用していないようだ。
俺は「大丈夫だ、問題ない」と告げ前へ一歩進み出る。
「ウキャウキャアァ!」と気持ち悪い緑の顔したサルが棒を振り上げてこちらに駆け出し、同時に気持ち悪い顔が付いたカブトムシが突進してくる。
俺は静かに、前方数メートル帯へ5本の魔力触手を薄く伸ばす。
そして魔物が俺に迫り、全員が攻撃範囲に入った瞬間俺は術を発動した。
「”地刃”《アースエッジ》」
生成した土を瞬時に岩へと変質。
そして返しのついた剣の形に変形させた刃を、勢いよく地面から数本ずつ生やした。
ズドドドシュドシュシュ!!と一瞬にして全ての魔物が複数の刄に貫かれ、そして黒いもやへと変わっていった。
こいつらクソ雑魚かよ、弱すぎだろ…
その時、何か金色の短い糸みたいなのがフワ〜と飛んできて、俺とネクスの中に吸い込まれていった。
その後、続いて金色のホコリみたいなのが他の奴らに吸い込まれていくのか見えた。
…これ何?
とりあえず消費魔力を確認っと。
ふむ、今ので20の消費が。範囲全部に攻撃したから結構魔力食うな、今度から無駄なく狙おう。
通常、スキル一つにつき消費魔力は1だ。だが範囲を広げたり魔力量を多く込めたりすると消費魔力が増えてしまうのだ。
魔力の回復手段が無いこの下界では、なるべく魔力は節約せねば…。
などと考え、一帯が剣山へと化した地面の魔力を解除し、全ての剣山を消し去る。
そして後ろを振り返ると、そこには口をあんぐりと開けた6人の姿があった。
「なっ…何じゃそりゃああぁぁーーーっ!!」
と皆が絶叫。
「ちょ、ちょっと、凄いじゃないウンピコちゃん!あたし見直しちゃった!」
「す、すごい…。これが魔法…!」
「こ、これは恐ろしい力でヤンスね…」
そして始まる賞賛の嵐。
ネクスは「や、やるじゃねぇか…」と少し悔しそうにしている。フフン。
そして赤緑のおっさんズは地面に正座して拝み倒していた。うむ、苦しゅうないぞ。
ちなみにパックが魔法と言ったが、それはエレメント系の術の事全般を指しており、精霊しか行使できない奇跡の技なのだそうな。
「ふむ…こんな雑魚どもでは相手にならんな…」と強キャラムーブをかます俺。カッコいいだろ?ネクスが更に悔しそうな顔をしておるわ。
そしてその後、ゴブリィバタフライとかいう気持ち悪い顔がついたでっかい蝶々が二匹出てきた。
どうもこの森はキモいゴブリン系の顔が付いた魔物しか出ないらしい。
しかし何と「ゴブリン」という魔物は下界に実在せず、お話の中で語られる架空の化け物であるとの事。へぇ。
そして今回の魔物はネクスとヴィーカが討伐を名乗り出た。
ネクスは「地獄突き!」とか叫んで蝶々を槍で突いて爆散させてた。威力があるから多分【刺突】のスキルだろう。
しかしこいつ、召喚で大分魔力消費したのに何でスキル使ってるんだ?
…あぁ、ドヤ顔してるわ。力を見せつけたかったのね、ハイハイ。
ヴィーカは多分スキルを使わずに二発の矢を顔面に命中させてた。うむ、良い腕前だ。
魔物が落とした小粒の結晶は定番の魔石だったらしく、ほんの少し魔力っぽい力を感じた。
ちょっと試しに吸わせてよと頼んだが、これは金になるからダメだと言われた。
ちっ、貴重な魔力の回復手段が見つかったかと思ったのに。
そしてステータスを見ると、俺のマナ値は5になっていた。
魔物一匹倒して1だけ?と思ったけど、そういえばネクスと折半してるんだった。こりゃ10万は遠い道のりですわ。
あ、もしかしてさっきの金色のやつがマナなのかね?
うん、絶対そうだろ、常識的に考えて。間違いないね。
そうして歩くこと2時間ほど。ようやく森が開け、大きな街が見えてきた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ここは城壁に囲まれた都市、デーコンの街。ベジタル王国の中では中くらいの大きさの街だ。
特産品はダイクンという野菜と上質な木材。大きい森が近くにあるから木材が豊富に採れるんだ。
奥の方に弱い魔物が出るけど、それを目当てに新人の冒険者が集まってきて、街が賑わっている。
こんな説明をしている俺の名前はマイケル。デーコンの街の門番をやってもう20年になる。もういい年したおっさんだ。
だが、俺の目が黒いうちは変な奴は絶対にこの街の門はくぐらせねえ。それが俺の仕事の矜持、誇りってもんだからだ。
さて、昼飯も済ませたし午後の仕事の始まりだ。ポールのやつと交代しに行くか。
…ん?何だ、ポールのやつが門のとこで何か騒いでるな。
あいつはまだ若いからな、ちょっと想定外の事があるとすぐにパニックになっちまう。
まぁ、もう少し経験を積めば判断力も身に付くだろう。
しかし何を…ん?何だ、相手はネクスじゃねえか。
あいつともここ一年毎日顔を合わせてるし、お得意様のハズだ。問題があるとは思えんが…。
俺はポールに「どうした、ポール」と声をかけ、ネクスと向かい合う。
ポールは「ネッ、ネクスの腰に下げてる物が異常なんです!」と唾を飛ばして叫んでいる。
ネクスは「何でもないですって!これは…こういう形のアレなんですって!」と焦りながら、何だかよく分からんことを言っている。うーむ、非常に怪しい。
「まぁ二人ともちょっと落ち着け。どれ…」
とネクスの腰に下げている玉を見ると、玉からとっても立派な茶色いクソがはみ出ていた。
しかもそのクソはビクンビクンと脈動いており、まるで悪魔付きのクソのようだった。
俺はゆっくりと顔を上げ、
「これ…何?」
とネクスに聞くが、何でも無いの一点張りだ。
埒が開かない俺は神殿騎士の二人にも問うた。すると綺麗な目をした二人は
「こちらは、とても神聖な…そう、この世界の救世主たる尊いお方なのです。早く神殿に報告しないといけない」
と真っ直ぐに俺を見つめて話す。
さすがに神殿が関わっているとなると、ここで止めては面倒ごとになる。そう判断した俺は「…分かった、通っていい」と通行許可を出した。
後でしっかり上司へ報告しようと思いながら、街へ入ったネクスたちの後ろ姿を見送る。
ネクスの腰の玉からは、さっきよりも更にズルリとクソが出てきていた。
俺は何も見なかった事にし、門の外へと目を向けた。
俺は門番のマイケル。後のことは上司に任せ、今は家族のため自分の仕事に精を出すのだ。




