012 飴屋さん
〜ある日の早朝〜
気持ちの良い朝だ。
川のせせらぎを聞きながら新鮮な魔素を吸い込み、まだ人(精霊)の少ない街をのんびりと歩く…。
うむ、やはり朝の散歩は風情があって良いもんだ。
俺はクリなボーのような足を本体の下から生やし、ピョコピョコと可愛らしい姿で精霊郷の街中を散歩していた。
やはり足があるのと無いのでは散歩の質が段違いだからな。とりあえず足っぽいものを土で生成し、それを操作することで何とか散歩の気分を味わっているのだ。
うむ…魔力操作の練習にもなるし、これぞ一石二鳥というやつだな。
「おっ、ウンポコのアニキじゃないっすか!チィスチィーッス!!」
そんな静かな散歩の空気をぶち壊すかのように、騒がしいライオンが声をかけてきた。
「レオパルドか、おはよう。…お前、まだ朝早いんだからあんまり騒ぐなよ。またあのクソジジイに怒られるぞ」
「そんなの全然構わねーっすよ!大丈夫大丈夫、問題無いっす!」
そう言ってガハハと豪快に笑い飛ばすレオパルド。
いや、俺がうるさいの嫌なだけなんだけど。
まあ…この底抜けの明るさもこいつの長所ってことで、勘弁してやるか。
そうして「アニキ、今日はどこ行くんすか?俺も一緒に行っていいっすか?いいっすよね!?」と勝手に付いてきたレオパルドと一緒に、俺たちはテクテクと道を歩く。
途中、歩く俺の姿を怪訝な顔で見る風の少女精霊にフッ…、と流し目を送ったりしながら、俺たちは広場まで出てきた。。
やはりこの時間はまだ人もまばらだな。
俺は何となく、広場の奥の住宅街を見ながらレオパルドに声をかける。
「あれって全部ピクシーの家なんだろ?ピクシーって案内役以外に普段何してるんだ?レオパルド、お前知ってるか?」
「前に聞いた話だと、ピクシーが何十人がかりかでこの精霊郷の環境を作ってるらしいっすよ。ほら、魔素を濃くする技術って感じの。それを交代でやってるみたいっすよ」
「へえ、そうなのか。じゃあピクシーってかなり重要なんだな、ピクシーのおかげで魔力を溜められるんだからな。それにしてもレオパルド、お前よくそんな事知ってるな。やるじゃん」
そう俺が褒めると、レオパルドは「へへっ」と照れながらブンブン尻尾を振る。うむ、分かりやすい奴め。
そうして広場を散歩していると、聞き慣れた声が俺たちを呼び止めた。
「あっ!!おーいおーい!ウンポコ!レオパルド!おはよー!」
声の方を見てみると、プリシールが大きく手を振って俺たちを呼んでいた。横にポロックもおる。
何だ、こいつらも朝早くから活動してたんか。
「おはよう、プリシール、ポロック。お前らも朝早いな。こんな時間に何してるんだ?」
「それはこっちのセリフだよ、男二人でむさ苦しいなあ。ま、私もポロックとさっき偶然会ったばっかりなんだけどね」
プリシールがそう言うと、ポロックも頷いて返す。
「そんで、こんな朝早く何してんだ?朝の散歩とか婆ちゃんみたいな事言うなよな」
と言うレオパルド。やめろ、その術は俺に効く。
「アハハ、そんなわけないでしょ!私はね、飴よ。飴屋さんに来たのよ」
「飴?俺たち精霊が飴なんか食えるのか?そもそも消化出来ないだろ」
飴と、俺はその言葉にすぐ反論したが、プリシールはチッチッとムカつく動きをして説明を始めた。
「この精霊郷の飴屋さんではね、魔素を材料にした精霊でも楽しめる『飴のようなもの』を作ってるの。少量生産だから、もらえるのは先着順なのよ」
ほう、精霊でも楽しめる飴か。この体になってからは嗜好品も何もなかったからな。
本当だったらそれはちょっと楽しみだ。
「その飴屋、俺も行きたい。どこにあるんだ?」
と聞くと、プリシールは広場に居並ぶ店の一つ、やけにカラフルなレンガ作りの店を指差した。
「…おじゃましま〜す」
プリシールを先頭に店のドアを開ける。
カランカランとまさにお店のようにドアベルが鳴り、「はーい」と奥から精霊が出てきた。
「いらっしゃ〜い。…あら〜?もしかして初めての子かしら?」
そう間延びした声で出迎えてくれたのは、水の精霊だ。
ちょっとぽっちゃりしてて優しそうな、言うなればおばちゃんって感じの精霊。
その精霊がいそいそと現物の飴を並べ、飴の説明をしてくれるようだ。
…この飴の形、まんまペロペロキャンディみたいだな。
そして「それじゃ説明するわよ〜」と水のおばちゃんは、楽しそうに説明を始めた。
「いい?この赤い飴が火属性ね〜。ピリッと辛くて程よい刺激を味わえるわ〜」
そう言って燃えるように赤い飴を俺たちに見せる。いや、実際にユラユラと燃えるようにゆらめいているな。
「次はこれ、水属性の飴ね〜。この飴はとっても甘いから、一番人気なのよ〜」
そう言って深い青色の飴を手にする。動かす度に表面が波打ってるのが面白い。。
「そしてこれは風属性の飴ね〜。ちょっと酸味があって、スーッと爽やかな気持ちになれるわ〜」
と、今度は淡い緑色の飴を取り出す。近づくとそよそよと優しい風を感じる。
「それで最後がこれね〜、地属性の飴。しょっぱくて美味しいの〜」
そうして最後にうす茶色の飴を見せる。見た感じではやけに硬そうだな。
さあさあ、と飴を並べる水のおばちゃんに、俺は気になったことを尋ねてみた。
「すまんがちょっと聞いて良いか?俺たち精霊には味覚が無いはずなんだが、味は一体どこで感じるんだ?」
「あ〜それねえ、たまに気にする子がいるのよねえ」
そう笑い、水のおばちゃんは続ける。
「えっとねえ、体に魔素を取り込むイメージでこの飴を舐めるの。う〜ん、吸い込む感じの方が近いかしらね〜。そうすると、それぞれの属性の刺激を体全体で味わえるのよ〜」
「これはね、【魔素加工】のスキルを持った私たちが、魔素をこねて作ってるのよ〜。精霊にも楽しみがないとって思ったから、こうして一つ一つ作ってるの」
そう優しい顔をして教えてくれた水のおばちゃん。
なるほど、味覚じゃなくて多分魔素を吸い込む器官から全身に取り込むんだな。仕組みは何となく分かったような気がする。
そして、そうか…ここは精霊にとっての唯一の癒しの場所なんだな。俺はおばちゃんのその優しさ、そのバブ味に感服したよ。
「よし、じゃあ一つもらおう。俺は…そうだな、火の飴をもらおうか」
そう俺が切り出すと、他の奴らもワイワイと飴を選び始めた。
レオパルドは土、プリシールは風、ポロックは水を選んだようだ。
「は〜い、ありがとう。またおいでね〜」
「まいど〜」
「どうも〜」
「ありがとね〜」
店を出ようとすると、奥の方から更に三人のおばちゃんが挨拶してきた。
同じような顔してるし、各属性揃ってる…なるほど、属性ごとに飴の制作担当が違うのか。
お礼を言って俺たちは広場のベンチに腰掛けた。
いやあお金が存在しないから、タダでもらえるのは素晴らしいね。でもさすがに、一日に一人一本の決まりがあるらしい。生産が追いつかなくなっちゃうもんね。
「じゃあ食べよう!いただきまーす!」
プリシールの掛け声と共に、俺は手に持った赤くゆらめく飴を舐めてみた。
するとどうだろう。舌ではなく、確かに体全身が味覚器になったように全身で辛味を感じる。しかも全く不快ではなく、とても心地が良い刺激だ。
「これは美味いな…」
俺がそう呟き周りを見ると、他の奴らも「う、うまいっす!」「美味しいー!」「うま…うま…」と、驚きながらも楽しんでいるようだった。
俺はどんどん食べ進みながらも、ふと思ったことを呟いた。
「これ、もしかして赤と青を合わせれば甘辛い味になるんじゃないか?他にも茶色と赤で塩辛くしたりとか面白そうだし」
俺がポツリと言った言葉にプリシールは目を見開いて驚愕。
そしてプルプルと震えながら、絶叫。
「そっ、それよーーっ!!それ!絶対作ってもらいましょう!!」
「さすがアニキっす!天才とはまさにこの事っすね!」
「…組み合わせるのはモノづくりの極意だよね」
「お、おう…」
そうして、速攻でさっきの店に逆戻りした俺たちは、つい今しがたの案をおばちゃんに話した。
その案を聞いた途端、おばちゃん達もその発想に驚愕。
そしてクワッ!と急に顔が劇画風に変わり、「おい坊主、今からちょっぱやで試作品作るから、ちょいと味見してくれや」と男前に言い、おばちゃん4人は奇声をあげながら飴作りに没頭した。
空中の魔素をムンズと掴み、それをこねる事で飴として具現化させていく。
うわあ…あれ全部素手で作ってたんだ。
めちゃくちゃおばちゃんが素手で飴をこねくり回してるじゃんよ…。
「ほら坊主、ひとつ出来たぞ!どんどん食って味を修正させてくぞ!」
と、男前になったおばちゃん達は俺に次々と試食させ、4つの味の配合割合を決めていった。
その結果、「甘辛トッポギ味」「すきやき風味」「塩レモン味」「マヨネーズ味」の4つの味が爆誕した。
商品名はもちろん俺がつけた。味についても何度も調整したから、かなり本物に近いと思われる。
味の名前を聞いても誰もピンと来なかったが、皆に広まれば勝手に定着するだろう。
ハァ、ハァ、と床に倒れ伏すおばちゃん達は、「ぼ、坊主…ありがとよ。またきてくれや、サービスするぜ…」と親指を立てて言うと、ズウゥンとその腕も地に落ちた。
こうして精霊郷には新たな嗜好品メニューが増え、大いに精霊たちを賑わしたのだった。




