009 仮の名は
朝になり、俺は自宅のベッドで目を覚ます。精霊は別に眠る必要なんて無いのだが、やはり眠ると気分的にスッキリする。
俺は何となく自分の体を見やる。
うむ…相変わらずとんでもない形をしておる。昨日のライオンはよくもまぁこんなウンコに舎弟入りしたもんだ。
俺はポワポワ〜ンと昨日のことを思い出す。
(「アニキ!アニキほんとすごいっすよ!まだ精霊の体もらって一日なのに、あの大岩ぶち壊しちまうんだから!あの大岩は選ばれた精霊しか破壊できないってプリングルさん言ってましたよ!」)
ポワポワ〜ン。
あの大岩壊したことがよっぽど凄かったようだ。
いや別にやろうとしてやったわけじゃなくて、予想以上に尻からの出力が高かっただけなんだけどね。でも話し相手ができてちょっぴり嬉しい。
などと考えていると、コンコンとドアをノックする音。
「待ちたまえ」と声をかけ、触手でガチャリとドアを開ける。
するとそこには金髪ショート褐色肌の女子ピクシーが立っていて、驚いた表情をしている。
いきなりドアが開いた上、濃い〜顔のでっかいウンコがお出迎えしたことに驚きのコンボを決めたようだ。
「俺がこの家に住むことになった精霊だが」
と声をかけるとハッと我に返り、「世話係のピョンコっていうっス、よろしくっス!」と元気に挨拶した。
おお、元気っこキャラか。俺を見てもすぐに受け入れてくれたみたいだし、なかなかええ子や。
「それじゃ、今から学び舎に案内するっス」
と言い、お隣のセミ顔ロボと一緒に広場の方へと向かう。
俺の移動方法を見てピョンコ氏は口が開いていたが、突っ込んでくることはなかった。ええ子や。
広場の建物の脇を通ると、何やら商店らしき店がいくつかあった。精霊も買い物するのか?と聞くと、
「あれはピクシーのためのお店っス。あっちにピクシー達の住宅街もあるっスよ」
と教えてくれた。
一際大きな建物に到着し、大きなドアを開けて中へ。割と質素な廊下を歩き、大きな部屋の前に立つと「失礼するっス」と断りドアを開けた。
中には水色の老人と、やる気なさそうに浮いている緑色の子供がいた。
「じゃ、お願いするっスー!」と言いピョンコ氏がドアを閉める。
しばらく老人も子供も俺の姿を見て怪訝な顔をしていたが、二人とも徐々に驚愕の顔に変わっていく。何だ?顔芸か?
そうこうしているうちに再びトントンとドアがノックされ、ガチャリと開く。おかっぱ娘ピクシーと一緒に入ってきたのは、水色女子精霊と昨日のライオンだった。
「おっ、アニキ!早かったっすねー!」とか言いながら俺に寄って来るライオン。
水色女子はえっ、と驚いた顔をしている。この空間驚きすぎだろ。
そして水色老人が口を開いた。
「さて、皆集まったようじゃし、始めるとするかの。わしは『教育係』を務めさせてもらっている水の上位精霊じゃ。名をレイン・マクスウェルという。こっちは助手の風上位精霊、ピーノじゃ」
「初めましてー、ピーノだよ。よろしくねー」
と、教師の二人は自己紹介をする。
…何かレイン先生の名前だけ他と雰囲気違うな。何というか、すごくカッコいい。パ行が入ってないからかな?
「さて、これからお主らに仮の名前を与えよう。こう見えてわし、300年以上も名前を与え続けてるからのう、けっこう評判も良いんじゃよ」
と笑うレイン先生。けっこう気さくな爺さんだな。
しかし仮とはいえ、ようやく名前がもらえるのか。できればカッコいいのでオナシャス!
「じゃあまずは、そこの火の坊主。こっちへ来い」
ライオンがレイン先生の前にズンズンと進み、腕組みをして立つ。レイン先生はまじまじとライオンを見た後少し考え、
「よし、お前の仮名は『レオパルド』じゃ」
と告げた。
おお、レオパルド!カッコいいな!
奴も気に入ったのか「いいじゃん!じいさん、ありがとな!」と満面の笑みだ。
そして次々と呼ばれ、水色女子は『プリシール』、セミロボは『ポロック』と名付けられた。
「さて、最後は…」
難しい顔をするレイン先生の前に、ススス…と移動する俺。
レイン先生は俺の頭の先から下、右から左と万遍なく観察する。
そして「クソ…いや、フン…うーむ……」と不穏な呟きをしていたが、一つ大きく頷くとついに口を開いた。
「よし、お前の仮名は『ウンポコ』じゃ」
と告げたレイン先生の顔面目がけて、俺は無言で土塊を発射。
バカァァンと小気味よく土が弾け、汚れた顔で「な、何するんじゃ!」と叫ぶレイン先生。
ふざけんな!流石の俺だって怒るわ!もうこんなやつ敬わなくていいわ、クソジジイで十分だよ!
「クソジジイよ…。その名前はあまりにもひどすぎるのでは…?」
ユラリ…と殺気を込めて問う俺に戸惑いを隠せないクソジジイ。
狼狽しつつも、「だってしょうがないじゃん!それにもう名前付けちゃったし!」と開き直りやがった。
その後も、ワーワーと喚き散らすクソジジイ。
ピーノ先生は気だるそうに見ているし、他の三体も遠巻きに様子を伺っている。いや、レオパルドは手を振り回して応援してるな。
何かもう変更はできないとジジイが喚くので、ステータスを見てみる。
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名前(仮):ウンポコ
種族:下位精霊(土)
魔力値:10853/32325
マナ値:0
スキル:土生成、射出、変態、魔力値拡張1.5、言語、異界神の加護
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「おい、本当にステータスに名前載っちゃってるじゃねーか!ふざけんな!」
「だから、もうしょうがないんじゃって!仮名は一回しかつけられないの!」
と再びワイワイと言い争う俺たち二人。
しばらくすると、二人ともハァハァと息を切らし、とりあえず場は収まりを見せた。だってもう変えられないんじゃ仕方ないじゃん。心底納得いかんけど。
「ハァハァ…仮名は重要なものではあるが、今はとりあえず真名を得るまでのつなぎとでも考えておけば良い。今つけた仮名は精霊郷でしか使わんし、仮名は自然とたくさん手に入れられる。それに…お前じゃろ?訓練場の大岩砕いたのは。まぁまだお前の格も全然足らんかったし、岩の核も残っておったが…。しかしお前なら早々に真名を手に入れられるじゃろ」
と話すクソジジイ。「どういうこと?」と問うと、「これから色々と教えていくから、聞いていれば分かる」とのこと。
ふぅ、と一息つくと真面目な顔をしたクソジジイが皆に向き直った。
「それでは、色々とあったが、これから授業を始める」
こうして、クソジジイによる楽しい授業が始まるのであった。