第六話
俺は神であるアルデバランに辛くも勝利し、その勝利を讃えてくれている村人達のもとへ向かおうとしたその時、アルデバランの全身が光を発し始めた。
その光は光量を上げ、直視出来ないくらい眩く煌めくとやがて小さくなって形を変える。
光が収まるとそこに居たはずのアルデバランの身体は既に無く、1つの手袋が代わりにあった。
「な、なんだったんだ・・・」
俺は若干警戒しながらもその手袋を手に取る。
左手用のグローブだが、アルデバランの付けていた派手な装飾が施されたグローブとは少し違い、手の甲と拳を守る為のシンプルな装飾が付いているだけのものだ。
「もしかして・・・奴の物とは少し違うけど神具なのか?」
「いや、それよりもまず・・・アイツがこの手袋に変わっていった感じに見えたけどどういう事だ・・・」
神々が使う唯の道具だと思っていたが、今起こった現象を踏まえると神自身が神具に成るってことか?
だとしたら父さんの親友って・・・この仮面?
いや、でもまだ確定した訳じゃ――
あれこれ考えているうちに、そのグローブが光の粒子へと変化して俺の左手へと流れていき、完全に収まる。
「なんか、手の中に入っちゃったけど・・・どうやって出すの・・・?」
・・・そういえば! アルデバランが何か言ってから発現してたな。なんだっけ・・・
「確か・・・装衣"アルデバラン"」
すると突如として左手が光だし、その光が先程のグローブへと変化する。
「うわまじか、できた・・・」
まぁこいつの性能は後でじっくり確かめよう。
今は村人達と勝利の喜びを分かち合うのが先だ。
「あんたはこの村を救った勇者だ!!」
「本当にありがとう!」
「神に勝てるなんて信じらんねぇ! 本当に勇者なのか!?」
勇者・・・この世界にもそんな概念があるのか。
「お父さんっ!!」
この村では聞きなれない、若い女性の声が背後の社から聞こえた。
振り返って見てみると、そこにはボロボロの衣服を身に付けた若い女性が何人も姿を現していた。
「ま、まさか・・・そんな・・・」
「嘘だろ・・・生きていたなんて・・・」
村人達の目から涙が零れ落ちる。
アルデバランに捧げられた若い女性達は生きていたのだ。
皆一様に女性達の下へ駆け寄る。
だが、数人ほど居ない者もいるそうで、その人達の親族や恋人であっただろう村人達は悲しみに暮れていた。
「ユート君・・・いや、ユート殿。この度はなんとお礼を言って良いやら分かりませぬ。本当にありがとうございました・・・!」
あれから数時間後、社に蓄えられていた食料がまだまだ沢山残っていたので、今は村人達と勝利の宴をしている。
先の戦いでめちゃくちゃ腹が減っていたので、少し申し訳ないがバクバクと料理を食べていた。
そんな俺に村長は感謝の言葉を送る。
「いやいや、俺もアイツにムカついてたし、感謝される事はしてないですよ」
「それに、俺がもう少し早く来てれば救えた命もあったかもしれないと考えると、感謝なんかされる権利はないです」
「いいや、私の娘もあの世で感謝しているはず。村を救ってくれてありがとうと・・・そう言っている気がします」
・・・そうだったのか。村長にも娘がいて、生きて帰ってこれなかった内の1人なのか・・・
「そこでユート殿。何か報酬を差し上げたいのだけど何をお求めですかな? 申された通りの報酬を、私の全てを賭けてご用意させて頂きます」
ここで俺はかっこつけて「そんなもんいりませんよ」なんて言えれば人間として上等なんだが、生憎そんな余裕が俺には無い。
「そうですね。であれば3つ程お願いがあります」
「何なりと」
「では1つ目。俺はまた近々この村を出ようと思っているので、次に着ける1番近い町までの準備を整えて頂きたいです」
「左様ですか・・・本心を言えばこの村にずっといて頂きたかったのですが、ユート殿にも旅の事情があるのでしょう。お任せ下さい」
「2つ目。これは俺の旅には欠かせない事なんですが・・・」
「欠かせない事とは?」
「実は俺はこの世界の人間じゃないんです。昨日ここに来たばかりでこの世界のことが何も分かりません。なので色々教えてもらいたいです」
俺がそう言うと村長は目を見開き驚嘆の表情を浮かべていた。
「・・・ユート殿にも何か秘密があるやと思っておりましたが、とても信じ難い事ですが嘘を言っているとも思えませぬ・・・」
俺はこの世界に来る前の事を村長に話した。
「まさかそのような事が・・・まずはお父上にはご冥福をお祈り致します」
「ありがとうございます。それで3つ目は俺にこの世界で生き抜く術を、魔法を教えて頂きたいです」
「私で良ければ喜んでお教え致しますぞ。この知識の全てをユート殿に伝授させて頂きます」
そうして俺は旅の準備が整う数日間の間、村長に魔法を教えてもらう事となった。