第二話
「よっ!!」
あれから数時間が経過し、何度かのゴブリンみたいな奴と戦闘を経てだいぶ感覚を掴んできていた俺は、今では軽々とゴブリンを塵に変えられるようになっていた。
「そういえばコイツら倒した時、なんかちっこい石みたいなもの落としてたな・・・」
拾い上げて観察してみると、淡く紫色に発光している。
「とりあえずとっておくか」
何かに役立つかも知れないと思った俺はその石をポケットにしまい歩みを進める。
「ん? なんか今までとは違う匂いがする・・・それも結構数が多いぞ・・・」
この仮面は視覚と聴覚以外に嗅覚も桁違いに向上する。
犬になったことはないが、こんな感覚なのだろう。
「・・・村か?」
耳を澄ますと微かに焚き火のパチパチという音も聞こえるので、早速向かってみることにした。
「村・・・だよな。何があったんだ」
着いて早々思わず呟いてしまう。
そこには廃村なのかと勘違いしてしまう程に寂れている光景が広がっていた。
「見ない顔ですな。旅のお方かな?」
俺がこの村に呆気に取られていると、横からやつれた爺さんが話しかけてきた。
「あっ、はい。そうなんです。夜になる前に泊まれるところを探してたのですが・・・」
「左様ですか・・・ここから少し先に行ったところに宿屋がある故、ゆっくりして行きなされ。」
そして爺さんは俺に軽く会釈すると歩いて去っていった。
爺さんに教えてもらった宿屋に着き、カウンターにいるこれまたやつれた店主に声を掛ける。
「すみません。一泊したいのだけど泊まれますか?」
「ん? ・・・あぁ、好きなとこ使って良いよ。」
「ありがとうございます。・・・えっとお代なんですが・・・」
実は異世界に来て2つほど心配していた事がある。
一つが言語、もう一つが貨幣だ。
言語については先ほどの爺さんが日本語を話していた事から解消した。そもそも父さんが日本語話していたからな。
問題は貨幣の方。今の俺はびた一文持っていないので、何か価値があればと思いゴブリンから出てきた石を拾っていたのだが・・・
だがこの問題解決は店主の発言で少し先送りになってしまった。
「金? ・・・いいよそんなもん。今更持ってても意味がねぇ」
え? そうなの? ラッキィ・・・じゃないだろ! なんなんだこの村は。この宿屋に来る途中すれ違った数人の村人全員生気の無い顔してたぞ。
「あの・・・何かあったんですか?」
と思わず聞いてしまった。
「・・・あぁ。この村にも遂においでになっちまったのさ」
「何が・・・?」
「? 何がって神様に決まってるだろ」
・・・神? 父さんの親友を殺した神々の中の1柱である可能性はあるか?もしそうだとしたら何故親友を殺したのか、何故親友が託した仮面から奴が出てきたのか、何かしらの情報を持っているかも知れない。
なんにせよこの村に居るというのなら会って話さない手はない。
「その神様は何処にいます?」
「あぁ? おめぇまさか会いにいく気じゃねぇだろうな? 自殺志願なら他所でやれ」
「・・・・・・でも、まぁこの村にいりゃ嫌でも目につくか。2階の部屋からこの村を見回してみな。一発で分かるだろうよ。」
そう言うと店主はカウンターから奥の部屋へ引っ込んでしまった。
店主に言われた通り、俺は2階に上がり適当な部屋を決めて中に入る。
部屋の窓を開けて辺りを見回してみると、村から少し外れたところにやけに豪華な装飾の神社?の様な建物がある。
「・・・確かに目につくな」
寂れた村とは正反対の豪華な見た目に違和感を感じた俺は一旦部屋を出て村人に話を聞いてみることにした。
よそ者を警戒しているのか、声を掛けても無視されるか適当にはぐらかされてそそくさとその場を去っていく者しかいない。
面倒臭くなってきたのでそのまま向かおうかと思い始めた頃、最初に話した爺さんが俺に声を掛けてきた。
「旅の人。あの社について何か聞きたいことでも?」
「あ、さっきの。そうなんですが、色んな方に聞いても何も教えてくれないので・・・」
「私はこの村の村長をしております。村の事なら私がお教えしよう。」
「俺は有斗と申します。それでこの村に一体何があったんですか?」
「・・・ここは豊かな村ではなかったがそれなりに活気のある平和な村でした。それが今から2年程前に彼の方が降臨なさり、ここに住むと仰られてから変わってしまいました・・・」
「最初は私も含め皆が神様がこの村に来て下されたと大喜びし、村人総動員でろくに寝もせずにあの社を建てたのだが、そこに住まわれた彼の方からの申し付けでお供えと称した献上品要求がありました。」
「その要求量の条件とは、村が保有している食料の半分と金銭に関しては全て納めろとのこと。」
「神が金銭を要求? それに村の食料の半分なんて・・・」
「無論反対した。だが彼の方の前では人間はあまりにも無力だったのです」
「抗議した村人の1人がその場で殺されました・・・」
「そこまでされてるのになぜこの村を離れようとしないのですか?」
「村の周辺にある森は魔物が生息しているから、森を出るには護衛を雇わなければならない。私達にそんな金は残っていなかったのだよ」
だから金銭を巻き上げたのか。
「それに彼の方は反対された事に大層ご立腹なさり、月に一度若い女性を捧げなければこの村諸共消滅させると条件を追加されました。なのでこの村にはもう若い女性は全て居なくなってしまい、それに猛反発した者は容赦無く殺されました。」
「娘や息子を殺され、食べる物も逃げる方法も無くなった私達に最早生きていく気力も残っておりません・・・」
「だからユート君、君は明朝この村を出なさい。関係のない者まで巻き込む訳にはいかないのです。」
「明日は月に一度の捧げの日。よそ者が居ると彼の方も何をなさるか分からないのです。途中まで案内役を付けますのでどうか・・・」
そう言って村長は俺に頭を下げる。
理不尽すぎる。突然現れ無理難題を吹っかけて反発されたら即殺す? 神だからといってこんな事がまかり通ってたまるか。
父さんの親友の死について聞こうと思っていただけだったのだが予定変更だ。
「村長。俺もその神様に聞きたいことがあって、やりたいことが出来ました」
「・・・それは?」
「聞きたいことってのはこの仮面について色々と」
「・・・やりたいこととは?」
「そいつをぶっ飛ばすこと!」
【人物紹介】
名前:萩原有斗
性別:男
年齢:17歳
職業:高校2年生
外見:顔立ちが整っており黒髪 170cm程
性格:明るく活発だがアルバイトの経験から社交性も身に付けている
趣味:6歳から中学校卒業まで空手と野球をやっていた為、スポーツ観戦が好き(特に格闘技と野球)