第二十六話
勢いで第2ラウンドとは言ったものの、あの闇魔法をなんとかしなければ俺に勝機は無い。
闇魔法"ダーク・パラライズ"は、効果は強力だが他の魔法と比べて波動の速度は遅く対処しやすいと感じた。
"ダーク・ブラインド"も言うならばただの煙幕。足音が聞こえなければ宙にいると判断して良いだろう。
この2つは一度見れば攻略可能なものだが、怖いのはそれ以外にまだあるかも知れないという事だ。
「闇魔法・・・厄介だぜ・・・」
「おや、お気づきですかな? 闇魔法とはこの世で最も希少で、最も奥深い魔法なのです。例えば、こんな事も出来るのですよ?」
「闇土混合上級魔法"アビス・スワンプ"!!」
ハマルが杖を地上に向け魔法を放つと俺の立っている舞台一面が暗黒へと変わり、ズブズブと足が沈んでいく。
「ちっ! 土属性中級魔法"グラウンド・ロック"!!」
俺は足元に大岩を発現させ、そこを足場にして沈むのを回避する。
足は闇から抜けたが、乗っている大岩が沈んでいく為時間を稼いだに過ぎない。
どうしようと辺りを見回した時、ある物が岩に引っかかっているのが見えた。
・・・よし。後はアーミとかいう女の子をどうするか。
アーミの姿は見えないが、仮面の力で把握できた。
俺の後ろの観客席に身を潜めている。
「おほほほ! 沈みゆく地上から逃れられない貴方はそこでゆっくりと死んでゆくしかないのですよ!」
「・・・」
「あらあら。どうやら諦めたようですね! 潔いのは良い事です。ほほほほほ!」
「あぁ、もう諦めた・・・」
「無傷でお前を倒すのはな!! どっちが生き残るか運で勝負しようぜ!! 火土風三種混合特級魔法"メテオ・ストーム"!!」
「っ!? それはアウストラリスのっ!?」
ハマルがその場から逃げようと後退するが、テントの天井に阻まれてしまう。
「くっ! こんなもの!」
杖を振り払い天井を切り裂いて外へ脱出しようとしたが、空を見たハマルはその光景に動きを止めてしまった。
一面に広がる無数の隕石。
それが眼前に迫ってきており、もう回避のしようがなかった。
「あ、貴方! この私と心中を!?」
「だから言ったろ? どっちが生き残るか運の勝負だってな」
それからまもなく隕石の雨が降り注ぎ、辺り一帯を吹き飛ばしていった。
「う、うぐっ・・・」
ハマルは隕石の衝撃をモロに受けて地に倒れ込んでいた。
「に、人間とは・・・醜く恐ろしい・・・まさか自滅覚悟で広範囲の魔法を放つとは・・・」
「ですが・・・私は生き残りましたよ・・・! 結局無駄死にだったという事ですね・・・! ほ、ほほ」
「誰が無駄死にだって?」
俺はハマルに歩み寄り声を掛ける。
「そ、そんなっ!? 無傷ですと・・・!?」
「お前のおかげでな。流石に賭けだったが・・・」
俺があの時見つけていたある物とは、サーカスで使っていたであろう、ロープだった。
そのロープで身体と岩を繋ぎ、アーミが居る後方へ全力で飛ぶ。
ハマルの発動した"アビス・スワンプ"に着地し、徐々に沈む俺はアーミにある事を呼びかけた。
その呼び掛けに答えてくれたアーミは俺の方へ飛び込み、両者が沈みながらもなんとか手を取り合う。その後が賭けだった。
まず1つ目は落ちてきた流星群がそのままの勢いで沈んできたらアウト。
2つ目は隕石が岩を粉々に破壊してロープが外れたらアウト。
3つ目はそもそも俺とアーミがこの沼に沈んで耐えられなければアウト。
案の定岩は多少崩れていたが、魔力を"硬さ"へと振っていた為そこまで破壊される事は無く、ロープは外れなかった。
沼の中は息苦しかったがなんとか耐えられ、俺とアーミはロープを伝い、なんとか地上へ生還したのだった。
「に、人間如きに・・・この私が・・・!」
「はぁ・・・お前ら決まってそう言うよな。人間を舐め過ぎだ」
「あ、彼の方が黙ってはおりませんぞ・・・! 我らが最高神が・・・必ず貴方に報復しますよ・・・!!」
「・・・彼の方?」
「貴方・・・この世界の人間じゃ・・・ないようですね・・・他の世界から生命を転移する事の出来るのは・・・彼の方しかおられない・・・」
「・・・その彼の方ってのは自分も他の世界に行けるのか?」
「当然・・・! 彼の方に不可能な事など無いのです・・・! すぐにでも貴方を殺しに来るでしょう・・・ほほほ」
彼の方・・・
俺はこの仮面の力で転移してきたのでそいつの力とは関係ないが、そいつ自身が他の世界、つまりは俺の世界にも来れるとすると、父さんを殺したのはそいつと言う事になる。
「おい、彼の方ってのは誰だ? 今どこにいる!?」
「ほ、ほほほ。全ては大神の為に・・・」
もう聞こえていないようだ。
だが大神という者である事は分かったぞ。
「武器召喚"剣"」
俺は左手に剣を発現させ、ハマルの首元へ突き立てた。
ここに来てから魔物や神を手に掛ける事に躊躇いは感じない。
それは俺が元々この世界の人間だからか、俺という人間そのものの性質なのかは分からない。
だが、これでいい。その大神に会った時、躊躇いなく殺せるように。
ハマルの身体が空へと霧散し、そこには左靴が置いてあった。
俺はそれを手に取ると靴は光へと姿を変え、俺の中へと入っていく。
そうして俺はハマルを討ち倒し、待機している少年たちのもとへアーミと共に向かうのだった。




