第二十話
夜が明け旅支度を整える為に俺は町の市場に来ていた。
買うべきものはなんと言ってもまずは食料だ。
これが無ければ旅は始まらない。
だけど人里から何日も離れるわけだから軽くて日持ちの良いものが好ましい。
「結局冒険者は・・・このパンに行き着く訳ね・・・」
ウィリアム達が食べていたあの渇ききったパンを俺は十個買う。
お店の店主曰く、味はイマイチだが1ヶ月以上もつらしい。
くぅっ・・・! 有用性・・・!
俺は気休めにもなればと思い、ジャムの様なものが入った瓶詰めを数種類追加で購入しておいた。
次は寝床となる様なものだ。出来ればテントと寝袋が欲しい。
店主に冒険者用品店の場所を教えてもらい、店へと向かう。
その用品店はギルドの近くにあり、1人用にしてはやや広めのテントと1番高価な寝袋を購入。
「金もあるし、このくらいの贅沢は良いよな!」
さて、後必要なものは・・・
水は水魔法で生み出せば事足りる。武器は無限に出せるし、防具に関しては買おうか迷う。
わざわざ重い装備を身に付けて動きが遅くなるよりかは神具の視力向上に頼った方が慣れてる分動き易いだろう。
まぁ、一応店に寄ってみて良さげなものがなかったら買わなくても良いだろう。
という事で武器と防具を販売している店に来た。
店内に入るとそこにはズラリと様々な防具が飾られており、壁には剣や槍、斧などの武器も飾られている。
「いらっしゃい。おぉ、珍しく新顔か! 見たところ初心者だな?」
元気よく挨拶してきたがっしりした体格の髭面のおっさんは、カウンターからこちらに出てきて俺に近づく。
「ほう、お前さんは・・・初心者ならやっぱ剣だな。これなんかどうだ?」
そう言っておっさんは俺に飾られている剣を指差す。
「あ、いえ、武器は間に合ってるので大丈夫です。何か動き易い防具でもあればと」
「そうなのか? 動き易い防具なぁ・・・それならこれなんかはどうだ?」
やたらとグイグイセールスしてくるなぁ。と思いながら提示された防具を見ると、革製のチョッキの左肩にプレートがついていて腰までの長さのマントがついているものであった。
おっ、良さそうだな。
装飾品もジャラジャラ付いてないし、見た目もシンプル。
マントは・・・まぁ、邪魔だったら取ろう。
「じゃあこれ下さい」
「あいよ! 銀貨3枚だ。セットのズボンとブーツも買うなら6枚だ」
俺は布袋から銀貨を6枚渡す。
「まいど!」
なんか随分とあっさり決まったな。おっさんにお勧めされたのも俺の要望に適ってる物を選定してくれてるし、初心者だと判断したならもう少し高額な物を売りつけてくると思ったが、価格も飾られている他の防具よりリーズナブルだ。
「じゃあ頑張ってくれよ! ユートとやら!」
「え?」
なんで俺の名前を知ってる?
「あぁ、俺の店の常連にお前さんの事を聞いててな。2、3日後に来るであろう黒髪の少年が来たら手助けしてやって欲しいとな」
そういえばパン屋の店主も色々と教えてくれたなぁ。
・・・あのパーティに出会えて本当に良かった。
「それはそうと、回復薬は持ってるか?」
「回復薬?」
この世界にはそんなものもあるのか。
「その様子だと持ってない様だな。まぁ、回復薬は流通も極端に少ない貴重な代物だからな・・・下等でもあれば旅も安心できるもんなんだが」
「下等って?」
「お前さん、アイツの言ってた通りなんも知らないんだな。いいか、回復薬には下等・中等・上等の3種類があるんだ。等級によって回復効果が違う。下等なら切り傷や痣程度なら治り、中等は身体が裂けたり骨折しても治る。上等は死んでさえいなければ元の状態まで回復すると聞いた」
「死んでさえいなければって・・・なんだか凄い効果ですね。でもどうして出回らないんですか?」
「製法の問題でな。詳しくは知らんがある魔法で作ってるんだとよ」
「・・・へぇ。そうですか」
「まぁ、俺の防具を着てれば安心だけどな! わっはっはっは!」
「そ、そうっすね・・・じゃあ、俺はこれで」
「おう! 気ぃつけて頑張れや!」
店を出た俺はある事を考えていた。
「回復薬・・・俺・・・作れるな・・・」
おっさんの言っていたある魔法とは・・・
水と光の混合回復魔法"アクア・ヒール"とその系統だろう。
回復魔法は各属性毎に回復方法が異なる。
火属性は対象を暖かな炎が包み込み、消えるまで効果を発揮し続ける。
風属性は心地良い風を吹かし、風の通る距離にいる対象者を癒す。
土属性は地面にサークルを出現させ、範囲内にいる者全てを癒す。
雷属性は術者の身体が放電し、術者と触れた者全てに感電し癒す。
そして水属性こそが、癒しの液体を作成し飲むことによって癒す効果を持っている。
「確かに・・・この魔法を使うには、水の属性と光の属性の2つの適正を持っていて、尚且つ混合魔法が使える程の魔力に長けた才能のある者じゃないと出来ない。そりゃ流通も少ない訳だ」
・・・待てよ? 流通が少ないって事は価値は大分高いはず。であればその市場を利用しない手は無いぞ!
「これは・・・金の匂いがするぜ・・・」
俺は一瞬本来の目的を忘れかけたがすぐ正気に戻り、宿屋に戻り明日の旅立ちに向けて身体を休めた。




