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第十九話

「アイラ・・・さん」

この規模の戦闘だ。飛び起きて急いでこっちに向かってきたのだろう。


「アイ・・・ラ・・・」


アウストラリスが微かな声でアイラの名を呼ぶ。


「お義母さん。私はあなたの事、絶対に許せない!! だけど、例え全て嘘だったとしても今まで私達を育ててくれた事は凄く感謝してる! だから・・・」


「お義母さん!! 今までありがとうございました!!」


アイラの目から大粒の涙が溢れ出る。


「ふっ・・・本当に、まだまだ子供ね・・・弟の仇を・・・最後まで、"お義母さん"と・・・呼ぶなん・・・て・・・」


ここでアウストラリスの命が尽きた。

力無く崩れさる身体を駆け寄ってきたアイラが支え、ゆっくりと地面に寝かせる。


次第に身体は光へと変わり、空へ散っていった。


そこにはレースの手袋が落ちており、拾い上げると光の粒子となり俺の右手へと収まっていった。


「あの、アイラさん・・・俺、黙って行ってすみーー」


「いいの」


俺の謝罪をアイラが遮る様に手を突き出す。


「ユートさん。弟の・・・カイルの仇をとってくれて、本当にありがとう。これであの子も少しは報われたかしら・・・」


そうアイラは言い、伏せた顔を俺へと向ける。


「私・・・とうとう1人になっちゃった・・・」


アイラの無理に作った笑顔が俺の心を抉るかの様に突き刺さる。


「あなたは1人じゃありませんよ。リーダーもガレオもカールも・・・俺だっていますから」


「ふふ。そうね・・・そうだったわ」


アイラは涙を拭い立ち上がる。


「帰りましょ、ユートさん。皆んなのところへ」


アイラが手を差し伸べる。

俺はその手を取り、町へと戻るのだった。



「お前ら大丈夫だったか!? 凄い地震が何度もあったぞ!」


俺達は町へ戻ると、町民達が慌ただしくしていた。

建物の被害が多少出てしまっていたが怪我人はほぼ出ていない様で安心した。

宿屋に向かうウィリアム達3人が外に立っていて、慌てて俺達の安否を確認する。


「えぇ、私達は大丈夫よ。あなた達は?」


「そりゃもうびっくりして飛び起きたっす! カールなんかパジャマで出てきたっすよ!」


「しょうがないだろ! あんだけの地震初めてなんだ!」


「それにしてもアイラ、大丈夫か? 何があった?」


ウィリアムはアイラと俺に何かあった事を察したのか、神妙な面持ちで訪ねてきた。


「本当に、色々あったわ・・・ここじゃなんだし、場所を変えて話しましょう」


そう言ってアイラが歩き出すと、ガレオとカールも空気を察し皆は黙ってアイラの後に着いて行った。



「・・・なんだこれ・・・」


俺達はアイラの住んでいる家に来ていた。

中の惨状を目の当たりにした3人は絶句している。

アイラはベッドに寝かされている弟の亡骸を見つめながら事の顛末を話した。


「・・・・・・」


話を聞き終えた3人は言葉を無くし、俯いている。


「まだ自分でも信じられないけど、きっと立ち直ってまたあなた達とパーティを組むわ。ただ、少し時間を貰えない?」


「も、もちろんだ・・・俺たちの事は気にせずゆっくり休むといい」


「ありがとう。リーダー」


そうして俺達はアイラを残し、家を後にした。


「なぁユート。お前のやった事は正しいと俺は思う。俺がお前の立場になっても同じ事を考えた」


「そうっすね・・・オレもウィリアムさんと同意見です」


「俺も」


「俺は父親を殺されて復讐する為にこの世界に来ました。だからアイラさんの気持ちが痛い程伝わってきた気がしました。俺の自己満足かも知れないけど、絶対に生かしておけなかったんです」


「あぁ。そうだな・・・」


「ところで、お前はこの後どうする? 依頼は終わっちまったし、次に行く当てでもあるのか?」


「そうですね。少し休んだらこの先の王都へ向かいます」


「クニンガス王国っすね。あそこはこの大陸1番の街っす」


「あそこは物も多いし人も多い。きっとユートの旅の手助けになるさ」


「俺達もついて行ってやりたいが・・・」


3人が言いにくそうに顔を見合わせる。


「俺の事は心配しないで大丈夫です。アイラさんの側にいてあげて下さい」


「・・・すまねぇ。何かあったらいつでも頼ってこい。俺達はお前の味方であり仲間だ」


「っすね!」


「あぁ!」


「皆さん今までありがとうございました。いつか必ず会いに来ます!」


そうして俺達は其々の道へと別れたのだった。



それから1日が過ぎ、旅支度を整える前に俺は先の丘の向こうの平野に来ていた。


「旅の前に確認しないとな。よし、装衣"アウストラリス"!!」


俺は右手を前に突き出し神具(アトリビュート)を呼び出す。

装着された神具はアウストラリスが付けていた白いレースの手袋ではなく、左手の神具と同じ形状となっていた。


「よかったよかった。あんな淑女が舞台でつける様な手袋じゃカッコつかなかったぞ」


確かアウストラリスは魔法を発動させる時は常に右手だったな。もしかして魔法関係の能力か? 試しに撃ってみるか。


「風魔法"エア・カッター(そよ風の刃)"!」


右手を前方に構え魔法を放つ。

すると俺の倍くらいの大きな風の刃が地面を抉りながら飛んでいった。


あれ? 魔力をあまり込めてないのにいつもの5倍くらいの威力が出たぞ・・・


「土魔法"サンド・ウォール(土の壁)"!!」


前方に土の壁が迫り上がってきたが、高さ・厚さ共に今までと比べ物にならない程になっている。


「おいおい・・・性能上がり過ぎだろ・・・」


この神具は魔力を向上させてくれるもののようだ。


そうだ! 今なら()()が出来るかもしれない!


「光風混合! 回復魔法"エア・ヒール(そよ風の癒し)"!!」


俺の右手からブワァァっと風が前方に吹き抜ける。


「で、出た・・・のか?」


しまった。村長が言ってたな。風の回復魔法は遠距離用だって。


「なら! 火光回復魔法"ヒート・ヒール(灯火の癒し)"!!」


すると右手から煌めく光を含んだ炎が発現する。

その右手を胸に当てると全身に燃え移った。


「うわっ熱っ・・・くない? あったかいぞ」


身体が優しい温かみに包まれ、昨日から残っている傷をみるみる治していき、炎が消える頃には身体の痛みが全て消えていた。


「すっ、すげぇ・・・!」


それから俺は各属性の回復魔法を試し続け、気づけば日が暮れていた。

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