第十七話
「神を殺す? ぷっ・・・ちょっと笑わせないないでちょうだいよ。いいわ。相手してあげる」
「貴方如きこの場ですぐ殺せるけど、ここで騒ぎを起こすと少し面倒なのよね。明日町から少し外れた丘の向こうで会いましょう。そこなら誰の目にもつかないわ」
怒りに震えている俺は今すぐにでも飛びかかりたかったが、正直この提案には賛成だ。
こんな町の中でやり合ったら他に被害が及んでしまう。
「今日は精々カイルとお別れの挨拶をしておきなさい。すぐにそちらに向かうと言うことも伝えてあげれば、カイルも寂しくなんかないでしょうね」
そう言い高笑いしながら神アウストラリスは部屋を後にした。
「カイル・・・カイル・・・ごめんね・・・ごめんね・・・」
既に事切れている弟を抱きかかえて涙する。
その日、俺は声を上げて泣くアイラの傍で夜を明かした。
早朝。
泣き疲れたのか眠ってしまったアイラを起こさないよう音を立てず家を出る。
指定された場所に着いた俺はそのまま奴が来るのを待った。
「あら、待たせちゃったかしら。それとも殺される恐怖で眠れなかったとか? アイラは来てないのね」
「死ぬのはテメェの方だ。仮にも親代わりだったテメェの死に様を見せるのは気が引けたからな」
アイラの気持ちを考えたら見せるべきなんだろうが、彼女を危険な目には合わせられない。
「お優しいのね。もしかして惚れてるのかしら?」
「テメェと会話しに来た訳じゃねぇんだよ。さっさと殺しにかかって来い」
そう言って俺は仮面を取り出し顔に近づける。
「その仮面・・・! 何故貴方が持っているの!?」
俺はアウストラリスの言葉を無視して顔に装着し、漆黒のヘルメットへと変形させる。
そしてもう一つの神具を呼び出す。
「装衣"アルデバラン"」
左手に発現したグローブを見たアウストラリスは更に驚愕の表情を浮かべた。
「アルデバラン!? 貴方まで・・・!? 一体どういうこと!?」
「だからお喋りしに来てねぇんだよ! 俺の仲間を傷つけた奴は絶対に許さねぇからな!!」
「・・・人間風情が思い上がらないでちょうだい! 装衣! "アウストラリス"!!」
アウストラリスは右手を前に突き出し、神具を発現させる。
透き通るような白いレースの手袋がアウストラリスの右手へ付けられる。
「私達神にしか扱えない神具を貴方がどうして扱えているの・・・? それにアルデバランはどうしているのよ・・・」
「気になるなら直接聞いてくればいいさ、あの世でな!」
「減らず口を叩けるのも今のうちよ! 雷上級魔法"ライトニング・アロー"!!」
アウストラリスが右手を前方に構え、雷の矢を形造りそれを放つ。
「武器召喚"槍"!」
轟音と共に俺へ飛んでくる雷の矢に、発現させた槍を地面に突き刺し距離を取る。
雷の矢は槍に当たり、俺のもとへ雷撃が届く事は無かった。
「槍は鉄製! 避雷針代わりにさせてもらったぜ!」
アウストラリスは一瞬で勝負を終わらせようと上級魔法を使用したが、神具を2つも所有している得体の知れない、人間かどうかも疑わしい目の前の何者かに動揺した。
「なら、これはどう? 風上級魔法"ストーム・ディザスター"!!」
急激に風が吹き荒れ、俺の前方に巨大な竜巻が発生する。
「くっ!!」
身体が凄い力で竜巻へと引っ張られる。
巻き込まれたら一巻の終わりだ。どうにかして回避せねば。
「土魔法"サンド・ウォール"!」
俺は目の前に湾曲させた土の壁を創造しその中で風を凌ぐ。
壁を湾曲させたのは風の流れを左右に分散させる為だ。
「あら、意外と頭が良いじゃない。だけど中級ではなく初級しか扱えないみたいね。そんなお粗末な魔法しか使えないんじゃ私を殺すなんて夢のまた夢よ」
「私が魔法のなんたるかを教えてあげるわ!」
「火土混合魔法"メテオ"!!」
アウストラリスが右手を振り上げ天に魔力を送る。
そして地響きと共に、空から巨大な溶岩の塊が落下してきた。
俺はその場から全速力で退避し、隕石が着地する瞬間、今出せるありったけの魔力を使い何層もの土の壁を創造した。
凄まじい威力の衝撃波が次々と壁を破壊し、俺はその場から吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた俺は慣性が無くなるまで地面に身体を幾度も叩きつけられた。
「あっぐ・・・」
土壁のお陰か、即死は免れたようだが身体が動かない。
「・・・中々しぶといわね。人間なら普通死んでないとおかしいのだけど。貴方やっぱり普通ではないわね」
それは俺がこの世界の魔王の息子だからなのか? 兎に角頑丈な身体に産んでくれた親と頭を守ってくれた仮面に感謝だ。
「ゔるせぇ・・・テ、テメェの魔法が弱過ぎるだけだろ・・・」
とは言ったものの、このままじゃまずい事は確か。
俺はなんとか立ち上がり息を整える。
魔力も尽きてしまったこの状況で戦える手段はアルデバランの"武器召喚"しかない。
強力な魔法を扱える遠距離型の神に接近戦で戦うのはかなり不利、というか不可能に近い。
「なら・・・遠距離武器だ・・・」
前に村長のもとで魔法の修行していた時、こっそり夜中に武器召喚はどの程度まで創造可能か試したことがある。
そこで判明した条件として、構造をある程度把握してないと作成出来ないようだ。銃とか試してみたけど無理だった。
そこで構造も簡単なある武器を試してみたら作成出来た。
「武器召喚"弩弓"!」
そう、ボウガンだ。
中国から伝わったとされるこの武器は遥か昔から使用されていて、シンプルな構造故に俺にもイメージがつき易かった。
ただこれで相手を仕留めれるとは思えないので、あくまで牽制用として使う。
自己満足かも知れないが、最後は直接止めを刺さないと気が済まない。
たった数日の付き合いでしかないが、それでも共に旅をした俺の大切な仲間だ。
絶対に許す訳にはいかない。
この怒りが身体中の痛みを忘れさせ、俺にまだ戦えると背中を押してくれる。
不適な笑みを浮かべるアウストラリスを倒すべく、俺はボウガンを構え立ち向かうのだった。




